著者
土屋 千尋
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

外国人日本語学習者の日本語発話において、韻律を構成するたかさ・つよさ・ながさのうち、特に、母音のながさに焦点をあてて、研究をおこなうことにした。筆者のこれまでの研究で、日本人の発話の母音の長短をしらべると、長短の区別が明確でないことがわかってきた。日本語教育では、短母音は1拍、長母音は2拍のながさである、とおしえているのだが、これはかならずしも日本人の発話の現実に基づいていないといえる。したがって、外国人学習者が、漢字のよみ方テストで、母音の長短の区別をまちがえるのは日本人の発話の現実を反映して、音声的事実を表記にもちこんでいることによるのではないかとかんがえた。まず、新潟大学留学生に対して筆者が定期的に実施している漢字よみ方テスト(93年度実施、1課〜16課、のべ枚数280枚、1枚につき出題漢字の平均数64)より母音の長短のあやまりを採集し、どの語のあやまりの頻度がたかいか調査した。その結果、拗音をふくむ漢字、および拗音に隣接している漢字に関して、母音の長短のあやまりの頻度がたかいという傾向がみられた。あやまりの頻度のたかい漢字をふくむ25の語彙リストを作成し、新潟大学留学生27名によみあげてもらい収録した。現在、「音声録聞見」で分析をおこなっている。27名の内訳は、中国7、香港1、韓国1、マレーシア9、インドネシア1、タイ1、モンゴル2、イギリス2、イタリア1、ギニア1、中国帰国者子弟1名である。また、標準となすべき日本語音声資料としてNHKお昼のニュースを47日分録音した。今後、この音声資料を留学生にきかせ母音の長短をどのように知覚しているか調査をおこなう。その上で、外国人学習者が、日本語の母音の長短がききわけられないのか、いいわけられないのか、もしくは、ある漢字の音価がながいかみじかいか知識としておぼえていないのか、学習者の母音とも関連づけてしらべていく予定である。
著者
土屋 千尋 齋藤 ひろみ
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

研究代表者土屋と分担者齋藤は、全国でも有数の外国人集住地域を校区とする小学校に研究の拠点をおき、学校・大学・地域の三者の連携・協働による子どもの学習環境づくりの実践的研究をおこなった。土屋は愛知県豊田市保見団地を校区とする豊田市立西保見小学校(全校児童数206名の内半数がブラジル人児童)を、齋藤は神奈川県いちょう団地を校区とする横浜市立いちょう小学校(全児童数203名の内半数が外国にルーツをもつ子ども-主にインドシナ難民・中国帰国者家庭の子弟)をフィールドとした。研究の成果として、次の3つがあげられる。1.外国人児童生徒への支援ネットワークの網の目に大学を位置づけて、実践の場に長期的に直接的にかかわったことにより、学校現場における実態を内側から把握することができた。2.学校現場の教育主体である教師、大学研究者、教育サポーターである学生が小学校という一つの現場で対話し、共に協働したことによって、それぞれがエンカレッジされ、教育のとらえなおしがはかられた。また、研究者は、学校の教育運営・決定のプロセスにおいて、日本語教育で蓄積されてきた知見や理論を提供し、議論参加できた。西保見小学校においては家庭内の言語環境の調査の実施、いちょう小学校においては校内研究会におけるテーマの設定が、その例としてあげられる。3.金子(1986,1992)のネットワーク論を基に、そこに差異や異質性をもつ参加者の「学習」としての実践という視点をくわえて、土屋と西保見小学校の連携を中心に、更に、地域もいれて、ネットワーク化をえがいた。外部者をうけいれることは、学校にとっては制度の整備、学校文化の質的な変容がもとめられるものであることがうかびあがった。以上、本研究における協働に基づくネットワークは、学校現場の子どもたち(外国人児童)へのよりよい教育実践をよびこむ一つのモデルになりうるとかんがえられる。