著者
藤森 俊明 三角 樹弘 坂井 典佑
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.352-360, 2018-06-05 (Released:2019-02-05)
参考文献数
31

量子力学,場の量子論や古典力学で厳密に解ける問題は少ないため,小さな結合定数についてべき級数展開を行う摂動論は極めて有用である.たとえば量子電磁力学の摂動論の結果は驚くべき精度で実験と一致する.しかし,摂動級数は収束しないという問題が古くから指摘されてきた.一方,様々な量子系において,トンネル効果など摂動論でとらえられない「非摂動効果」も存在し,重要な役割を果たす.実際,場の量子論ではインスタントンなどを考慮することによって,非摂動効果が得られる.実は摂動級数の発散と非摂動効果が関係している可能性は古くから指摘されてきた.近年,リサージェンス(resurgence)理論によって,量子論における摂動論と非摂動効果との直接的な関係の理解が進展した.微分方程式や積分の漸近級数解析などの数学的研究で得られた厳密な知見を応用して,量子論におけるリサージェンス理論の理解が進み,新たな結果が次々と得られている.摂動論では,展開係数が次数nの階乗n!程度で発散する.そのような場合,ボレル総和法が有用である.発散する摂動級数からボレル変換という量が厳密に定義でき,これが摂動級数の情報を忠実にとらえる.たとえば,ボレル変換の特異点が摂動級数の発散の仕方を表す.一方,各々の特異点は非摂動効果と対応する.したがって,潜在的にどのような非摂動効果が生じ得るかは,摂動級数のボレル変換の中にすべて記録されている.一般に,摂動級数の発散の仕方に非摂動効果の情報が書き込まれていることをリサージェンス構造と呼ぶ.ボレル変換のラプラス変換をボレル和と呼び,これが摂動級数の総和を表す.ラプラス変換の積分経路は正実軸上だが,その上にボレル変換の特異点が生じると,積分路を変形する(結合定数に虚部を与える)必要があり,その結果ボレル和に不定性が生じる.一方,勾配流(gradient flow)の解析からバイオンと呼ばれるある種のソリトンが非摂動効果を与えることがわかる.バイオンの寄与にも結合定数の虚部の符号に応じて不定性が生じるが,摂動級数のボレル和と同じ符号をとると両者の和に不定性がなくなる.すなわち,両者の非自明な関係によって不定性の相殺が起こるため,物理量全体としての一意性が保たれる.つまり,摂動・非摂動部分はそれぞれ単独では不定で,両者を足し上げて初めて厳密な意味がある.この不定性の相殺から定まる「摂動論と非摂動効果の間の対応」により一方の寄与からもう一方を導き出すことも可能となる.常微分方程式ではリサージェンス構造は完全に理解されており,一般解はトランス級数と呼ばれる複数の形式的漸近級数解のボレル和の足し合わせで表される.パラメーターを変えていくと,個々のトランス級数の係数が不連続に変化するストークス現象が起こる.しかし,真の解は連続なので,ストークス現象によって漸近級数解の間に関係が付くことがわかる.このようにあるセクターの情報が別のセクターに再登場する機構がリサージェンス構造である.量子力学でもこの構造の理解が進展し,さらにQCDやヤン–ミルズ理論,赤外リノマロンなども議論されつつある.
著者
坂井 典佑
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.376-381, 1982-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
7

超対称性(supersymmetry)はボース粒子とフェルミ粒子とを結ぶ対称性である. この入門的概説を行う. またその魅力ある理論的動機のひとつとして, gauge hierarchy問題解決の可能性について紹介する. 素粒子の大統一理論では極端に大きさの異なる質量スケールが共存していなければならない(gauge hierarchy). これに対称性から自然な説明を与える試みのひとつとして超対称性は最近再び注目されている. 現在までの実験では未だ超対称性を支持する証拠は見つかっていない. しかしもしもgauge hierarchyを超対称性で解決する考えが正しければ, 次世代の加速器で種々の新現象が見つかるかも知れない.
著者
坂井 典佑
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

我々は可積分系の典型的な例として行列模型を取り上げ、繰り込み群を用いて研究した。行列模型で表されている二次元重力の可積分系としての数学的構造を場の変数についての変数変換の自由度として理解し、ビラソロ代数の表現として恒等式を導いた。我々は、この恒等式を用いて繰り込み群を厳密に解くことに成功した。中心電荷が1を越えるような物質場と相互作用するような解けない場合にも臨界指数などの有用な情報を得るために、繰り込み群理論が役立つと思われる。我々はまず、1行列模型については、中心電荷が1以下の場合について、繰り込み群方程式を導くことに成功した。この繰り込み群方程式は予想に反して、非線形となる。我々はさらに、2行列模型についても、変数変換の恒等式を具体的に求め、厳密な繰り込み群方程式を導くことに成功した。この繰り込み群方程式を解いて厳密解が得られることを示した。一方、量子重力のもう一つの定式化として2+ε次元での量子重力理論がある。この考え方は、二次元では重力が繰り込み可能になるはずだという点に着目して、高次元での量子重力を解析接続によって得ようとするものである。我々はこの理論に、ディラトンを取り入れることによって、従来の困難を解決した。すなわち、重力理論は二次元で位相的理論となり、不連続となる。我々は、ディラトンを導入することによっては解析接続可能な量子重力理論が構成できることを示した。