著者
坂井 志織
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.4_55-4_63, 2008-12-20 (Released:2011-08-30)
被引用文献数
7

脳卒中後遺症でしびれを患った人々がどのような体験をしているのか,またその体験にはどのような意味があるのかを,日常生活での体験を記述することで明らかにすることを目的とし,半構成的面接を行い質的記述的に分析した.分析の結果,以下のことが明らかになった.参加者はしびれのため生活動作が不確かなものとなり,加えてからだによって無意識に行われていた生活空間の把握にも困難さがみられた.そしてこのような生活を積み重ねることは,自己を支える基盤を揺るがせる可能性を孕んでいることが示唆された.また,しびれ特有の認識様式として,しびれがあることや動作が以前のようにはできないことをその都度認識させられるという特徴がみられた.さらに,注目すべきことは,「慣れる」というプロセスが当事者の視点から明らかになったことである.それは,動作に応じた工夫を日々繰り返すことで再びからだが覚えていくことであり,からだが自然に覚えていく,つまり身体化されるがゆえに慣れたことを自覚しにくいという特徴がみられた.この身体化により,しびれ自体の症状改善が難しくとも,できない動作が減ることで生活の中で感じていた苦痛が軽減されることが示唆された.