著者
恒松 雅 坪井 一人 熊谷 祐 良元 和久 梶本 徹也 柏木 秀幸
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.1813-1817, 2016 (Released:2017-01-31)
参考文献数
9
被引用文献数
1

症例は73歳,男性.起床時の急激な腹痛にて近医を受診した.汎発性腹膜炎および急性腎障害の診断で当院へ救急搬送され,緊急手術となった.術前の尿道カテーテル挿入の際に深部尿道での抵抗が強く,挿入は困難であったが,挿入後は多量の尿排出が得られた.開腹所見では大量の腹水と腹膜および腸間膜に瀰漫性の点状出血を認め,腹膜炎の所見であったが原因病変は同定できず,洗浄ドレナージのみを行って手術を終了した.術直後より急性腎障害が速やかに改善されたため,膀胱破裂に伴うpseudo-renal failureを疑い,翌日行った膀胱造影検査にて膀胱破裂の確定診断となった.学童時に会陰部を強打した既往が判明し,膀胱鏡検査で外傷の既往に矛盾しない尿道狭窄を認め,膀胱破裂の原因と考えられた.術後は腹膜炎も速やかに改善された.急性腎不全を呈し消化管に責任病変を認めない腹膜炎においては,同病態を念頭に置いた精査が肝要である.
著者
坪井 一人 上田 夏生
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.1, pp.8-12, 2011 (Released:2011-07-11)
参考文献数
43

N -アシルエタノールアミンは長鎖脂肪酸のエタノールアミドであり,動物組織に存在して脂質メディエーターとして機能する一群の脂質分子である.そのうちN -アラキドノイルエタノールアミン(慣用名アナンダミド)はカンナビノイドレセプターのアゴニストとして働き,カンナビノイド様生物作用を発揮する.またN -パルミトイルエタノールアミンとN -オレオイルエタノールアミンは,それぞれ抗炎症・鎮痛作用,食欲抑制作用を持つ.これらの化合物はグリセロリン脂質を出発材料として生合成された後,脂肪酸とエタノールアミンに加水分解されることで生物活性を失う.分解酵素については膜に存在する脂肪酸アミド加水分解酵素(fatty acid amide hydrolase: FAAH)が古くから知られているが,著者らが見出したリソソーム酵素であるN -アシルエタノールアミン水解酸性アミダーゼ(N -acylethanolamine-hydrolyzing acid amidase: NAAA)も同じ反応を触媒する.本稿では,N -アシルエタノールアミンの生理機能を概説した後これら2つの加水分解酵素に焦点を当て,さらに新規医薬品への応用が期待されているこれらの阻害薬の開発についても紹介する.