著者
垣内 力 関水 和久
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

無脊椎動物を用いた細菌感染モデルは多数の個体数を扱うことが可能であるため、感染プロセスに関わる生体分子を探索する上で優れている。しかしながら、これまで無脊椎動物の感染モデルとして利用されてきた、カイコ、線虫、ショウジョウバエは、ヒトの体温である37度において長時間生存することができず、ヒトの感染症がおきる温度での病原性細菌の感染プロセスを明らかにするためには適当でない。本研究で我々は、熱帯性昆虫であるフタホシコオロギが37度におけるヒト病原体の感染モデルとして利用出来ることを見出した。さらに、本モデルを用いて、ヒト病原体による温度依存性の動物殺傷能に関わる遺伝子を同定した。
著者
垣内 力
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、昆虫の腸管に常在する細菌種の同定と遺伝子組み換え後の再定着能の検討を行った。クワガタムシの菌嚢とフタホシコオロギの腸管から、複数種の細菌を分離同定した。コオロギから分離した常在細菌について、プラスミド形質転換後の再定着が可能であった。また本研究は、昆虫の体サイズを増加させる生理活性物質の探索を行った。ロイヤルゼリーの経口投与により、カイコガとフタホシコオロギの体サイズの増加が認められた。以上の結果は、昆虫の腸管に常在する細菌の機能改変と再定着が可能であること、ならびに、昆虫の体サイズを増加させる物質がロイヤルゼリー中に存在していることを示唆している。
著者
垣内 力
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.491-501, 2014
被引用文献数
1

黄色ブドウ球菌は表在性膿瘍, 肺炎, 食中毒, 髄膜炎など様々な疾患をヒトに対して引き起こす病原性細菌である。特に, 幅広い抗生物質に対して耐性を示すメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は医療現場において問題になっている。本研究において私たちは, 黄色ブドウ球菌の病原性のふたつの新しい評価系を確立し, 黄色ブドウ球菌の新規の病原性制御因子の同定を行った。まず, 昆虫であるカイコを黄色ブドウ球菌の感染モデル動物として用いる方法を確立し, カイコに対する殺傷能力を指標として, 新規の病原性制御因子を複数同定した。これらの因子の一部は細菌細胞内においてRNA との相互作用に関わることが明らかとなった。次に, 黄色ブドウ球菌が軟寒天培地の表面を広がる現象(コロニースプレッディング)を見出し, この能力の違いを指標としてMRSA の病原性の評価を行った。近年, 高病原性株として問題となっている市中感染型MRSA は, 従来の医療関連MRSA に比べて, 高いコロニースプレッディング能力を示した。さらに, これらの菌株のコロニースプレッディング能力の違いが, 染色体カセット上の特定の遺伝子の有無によって導かれていることを明らかにした。この遺伝子の転写産物は機能性RNA として黄色ブドウ球菌の病原性遺伝子のマスターレギュレーターの翻訳を抑制することにより, コロニースプレッディングと毒素産生を抑制し, 動物に対する病原性を抑制することが明らかとなった。