- 著者
-
山崎 麻美
埜中 正博
- 出版者
- 日本脳神経外科コングレス
- 雑誌
- 脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.9, pp.642-649, 2009
- 参考文献数
- 19
- 被引用文献数
-
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2000年の「児童虐待の防止等に関する法律」の成立を契機に,わが国でも小児虐待に対する社会的関心が高まってきた.その中で,最も致命的で予後に大きく影響するのが,頭部外傷である.Shaken baby syndrome(SBS:揺さぶられっ子症候群)という言葉が有名になり,虐待による頭部外傷の総称として使われることもあるが,正しくは,non-accidenntal tramatic brain injury(nonaccidental TBI),あるいはinflicted traumatic brain injury(ITBI)である.すなわち,虐待による頭部外傷の受傷機転は,shaken(揺さぶり)だけでなく,直達衝撃(叩く,落とす,投げる),やそれらが複合したものと考えられている.虐待の診断には,打撲痕・熱傷・骨折など全身チェックに加え,頭部MRI検査は有用であり,眼底検査は必須である.半球間裂から円蓋部にかけて,あるいは小脳テントに沿って存在する急性硬膜下出血が最も多くみられる.ITBIの死亡率は15〜38%で,生存者の30〜50%が障害を持ち,正常に回復する率は30%といわれ,その転帰は非常に悪い.自宅に戻った時に繰り返される率は31〜43%である.従来から中村の血腫1型として報告されてきた家庭内の軽微な外傷による網膜出血を伴う急性硬膜下血腫が,虐待の範疇に入るのか,虐待とは別のclinical entityとして考えるのか,いまだ議論のあるところである.