- 著者
-
堀口 健雄
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1996
本研究は渦鞭毛藻類における眼点の多様性の実体を把握しようとするものである。また,分子系統学的な解析により,渦鞭毛藻類において眼点がどの系統で獲得され,あるいは二次的に消失したのかといった問に対する答えを見いだすことも目標とした。さらに特殊な眼点をもつDinothrix paradoxaについては,その眼点の分裂機構を明らかにつることに努めた。各地から採集した渦鞭毛藻類の眼点の有無を調査した結果,タイドプールに生育するGymnodinium pyrenoidosum,Scrippsiella hexapraecingula,Scrippsiella sp.の3種で眼点の存在が確認された。これらの眼点の微細構造を調べたところ,3種とも葉緑体中に脂質顆粒が並ぶタイプの眼点で,しかも脂質顆粒が2列に並ぶ構造をもっていた。このように脂質顆粒が2列に並ぶタイプの眼点は今まで知られていない。18SrRNA遺伝子の塩基配列を9種類の渦鞭毛藻類について決定し,DDBJのデータベースから取得した25種のデータを加えて分子系統解析をおこなった。その結果,同じタイプの眼点をもつG.pyrenoidosumとS.hexapraecingula が単系統となり,D.paradoxaも上記2種と同じクレードに含まれることが明らかとなった。このことは特殊であるとされるD.paradoxaの眼点も通常の眼点の変形である可能性を示唆するものである。D.paradoxaの眼点の分裂については光学顕微鏡レベルで連続観察をおこなった。その結果,元の眼点は分裂することなく,細胞質内でde novoに眼点が形成されるらしいことが明らかになった。この点については,眼点を包む膜の由来などの問題もありさらなる検討が必要である。