著者
塚越 哲 蛭田 眞一
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

間隙性貝形虫類について種ごとの分布範囲をとらえるために,駿河湾・相模湾(伊豆大島を含む)沿岸を調査地とし,Microloxoconcha属の種について調査した.一般に表在性貝形虫類では,一種の分布範囲が本州全体,あるいは本州の西半分程度の範囲を持ち,当該地域程度のエリアであれば,1属につき高々3,4種程度である.本研究では,キチン質部分の解剖によって交尾器の形態差から種を認定し,当該地域より10種のMicroloxoconcha属の種を分類し,いずれも未記載種であった.間隙性貝形虫類は表在性のそれよりも,非常に狭い地域で種分化し,各々の種の分布範囲が狭いという傾向をとらえることができた.また,表在性貝形虫類では一般に背甲表面に開口する感覚子孔の分布パタンが種ごとに独立であり,交尾器の形態差と1対1になることが知られているが,本研究で確認されたMicroloxoconcha属10種のうち4種は,交尾器の形態で区別がつきながらも,感覚子孔の分布パタンは同一であることが明らかにされた.このことは種を特徴づける2つの形質,すなわち交尾器の形態と感覚子孔の分布パタンを比較した場合,前者の方が後者よりも早く変化して個体群中で安定することを示唆するものであり,貝形虫類の進化を考察する上で新たな視点となる.また,北海道南部折戸海岸の2ヶ所より得られた間隙性種が遺存的分類群Terrestricytheridaeであることを確認した.この分類群は,これまで択捉島で1種およびロシア:ウラジオストック付近で2種(1種は択捉島とおなじ),そして英国で2種が見いだされているだけであり,他の貝形虫には見られない半陸棲ともいえる海岸付近の特殊な汽水環境に生息している.この分類群が間隙生種としてとらえられるのは初めての例であり,その生態学的研究にも新たな展開が期待される.