著者
鈴木 俊明 鬼形 周恵子 谷 万喜子 米田 浩久 高崎 恭輔 谷埜 予士次 塩見 紀子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A1506, 2008

【目的】第9回アジア理学療法学会にて鍼灸医学の循経取穴理論を理学療法に応用し開発した経穴刺激理学療法を紹介した。循経取穴は、症状のある部位・罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には斜方向から治療者の指で経穴を圧迫する。本研究では、胸鎖乳突筋に対応する経穴のひとつである左合谷穴への経穴刺激理学療法により右頸部回旋動作の主動作筋である左胸鎖乳突筋と右板状筋の運動前反応時間を検討し、右合谷への経穴刺激理学療法によるPMTの変化が胸鎖乳突筋に特有な変化であるか否かを検討した。<BR>【方法】本研究に同意を得た健常者9名(男性7名、女性2名、平均年齢33.2±7.7歳)を対象とした。座位で、経穴刺激理学療法(Acupoint Stimulation Physical Therapy:ASPT)前後に音刺激を合図に頸部右回旋を連続10回実施した際の左胸鎖乳突筋、右板状筋の音刺激より筋電図出現までの時間である運動前反応時間(pre motor time:PMT)を測定した。ASPTは、検者の指で痛みを伴わず耐えられる最大の強度で、筋緊張促通目的で用いる斜方向に左合谷を5分間圧迫した。ASPT群の左胸鎖乳突筋、右板状筋のPMTは、安静時、刺激終了直後、10分後、20分後、30分後に記録し、安静のPMTを1とした時の相対値(PMT相対値)で比較した。コントロール群としてASPTを行わずに同様の検査を実施した。<BR>【結果】ASPT群の左胸鎖乳突筋のPMT相対値は刺激直後0.98、10分後0.96、20分後0.95、30分後0.93であり、刺激直後より刺激30分後まで短縮する傾向であった。ASPT群の右板状筋のPMT相対値は刺激前後で変化を認めなかった。また、コントロール群でも時間経過によるPMTの変化は認めなかった。<BR>【考察】ASPTは循経取穴という経絡・経穴を用いた治療理論を理学療法に応用した方法である。今回用いた合谷は胸鎖乳突筋上を通過する手陽明大腸経に所属する経穴である。PMTは中枢神経機能を示す一つの指標である。左合谷への5分間のASPTにより左胸鎖乳突筋のPMTが短縮したことから、合谷への圧刺激は胸鎖乳突筋に対応した中枢神経機能の促通に関与したと考えられた。しかし、手陽明大腸経とは関連しないが右頸部回旋動作の主動作筋である右板状筋のPMTは合谷刺激で変化なかったことから、経穴刺激理学療法における効果は循経取穴に関連した経絡・経穴の影響が関連していると考えられた。<BR>【まとめ】左合谷への5分間の経穴刺激理学療法は、循経取穴に関連した左胸鎖乳突筋に対応する中枢神経機能の促通に関与すると考えられた。