著者
谷埜 予士次 福島 綾子 酒井 英謙 高崎 恭輔 米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
関西医療大学
雑誌
関西医療大学紀要 (ISSN:18819184)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.32-37, 2008

レッグエクステンションによって、膝伸筋群を効率よく強化するための基礎的研究として、骨盤肢位の変化と大腿四頭筋の筋活動について検討した。健常成人10名を対象とし、膝60°屈曲位での膝伸展を最大の30%強度で行わせた。骨盤肢位は「骨盤前傾位」、「骨盤中間位」、「骨盤軽度後傾位」、「骨盤最大後傾位」の4種類に規定し、各々の骨盤肢位を維持した状態で膝伸展保持を行わせた。そして、伸展トルク発揮中に大腿直筋(RF)、外側広筋(VL)、内側広筋斜走線維(VMO)から筋電図を記録した。VMOの筋電図積分値(iEMG)は、「骨盤前傾位」で、他の3種類の骨盤肢位のときと比較して有意な増大が認められた。また、VMOのiEMGは「骨盤最大後傾位」と比較して「骨盤中間位」でも有意に増大した。RF、VLのiEMGについては、骨盤肢位の変化に関わらず有意な差を認めなかった。本結果より、臨床への示唆として、膝60。屈曲位でのレッグエクステンションにおいて、VMOの筋活動を優位にしたい場合は骨盤を後傾位にすることなく、可及的に腰椎の生理的前弯に伴った骨盤の肢位にて、レッグエクステンションを行うことを推奨する。
著者
鈴木 俊明 鬼形 周恵子 谷 万喜子 米田 浩久 高崎 恭輔 谷埜 予士次 塩見 紀子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A1506, 2008

【目的】第9回アジア理学療法学会にて鍼灸医学の循経取穴理論を理学療法に応用し開発した経穴刺激理学療法を紹介した。循経取穴は、症状のある部位・罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には斜方向から治療者の指で経穴を圧迫する。本研究では、胸鎖乳突筋に対応する経穴のひとつである左合谷穴への経穴刺激理学療法により右頸部回旋動作の主動作筋である左胸鎖乳突筋と右板状筋の運動前反応時間を検討し、右合谷への経穴刺激理学療法によるPMTの変化が胸鎖乳突筋に特有な変化であるか否かを検討した。<BR>【方法】本研究に同意を得た健常者9名(男性7名、女性2名、平均年齢33.2±7.7歳)を対象とした。座位で、経穴刺激理学療法(Acupoint Stimulation Physical Therapy:ASPT)前後に音刺激を合図に頸部右回旋を連続10回実施した際の左胸鎖乳突筋、右板状筋の音刺激より筋電図出現までの時間である運動前反応時間(pre motor time:PMT)を測定した。ASPTは、検者の指で痛みを伴わず耐えられる最大の強度で、筋緊張促通目的で用いる斜方向に左合谷を5分間圧迫した。ASPT群の左胸鎖乳突筋、右板状筋のPMTは、安静時、刺激終了直後、10分後、20分後、30分後に記録し、安静のPMTを1とした時の相対値(PMT相対値)で比較した。コントロール群としてASPTを行わずに同様の検査を実施した。<BR>【結果】ASPT群の左胸鎖乳突筋のPMT相対値は刺激直後0.98、10分後0.96、20分後0.95、30分後0.93であり、刺激直後より刺激30分後まで短縮する傾向であった。ASPT群の右板状筋のPMT相対値は刺激前後で変化を認めなかった。また、コントロール群でも時間経過によるPMTの変化は認めなかった。<BR>【考察】ASPTは循経取穴という経絡・経穴を用いた治療理論を理学療法に応用した方法である。今回用いた合谷は胸鎖乳突筋上を通過する手陽明大腸経に所属する経穴である。PMTは中枢神経機能を示す一つの指標である。左合谷への5分間のASPTにより左胸鎖乳突筋のPMTが短縮したことから、合谷への圧刺激は胸鎖乳突筋に対応した中枢神経機能の促通に関与したと考えられた。しかし、手陽明大腸経とは関連しないが右頸部回旋動作の主動作筋である右板状筋のPMTは合谷刺激で変化なかったことから、経穴刺激理学療法における効果は循経取穴に関連した経絡・経穴の影響が関連していると考えられた。<BR>【まとめ】左合谷への5分間の経穴刺激理学療法は、循経取穴に関連した左胸鎖乳突筋に対応する中枢神経機能の促通に関与すると考えられた。
著者
米田 浩久 實光 遼 松本 明彦 岩崎 裕斗 金子 飛鳥 守道 祐人 鈴木 俊明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101928-48101928, 2013

【はじめに】課題指向型の運動学習条件としてpart method(分習法)とwhole method(全習法)がある(Sheaら,1993)。このうち分習法は獲得する動作を構成する運動要素に区分して別々に練習する方法であり、全習法は獲得する動作をひとまとめに練習する方法である。全習法は分習法と比較して学習効果が高く、運動学習の達成度は早い。これに対して分習法は学習した運動の転移が可能なことから難易度の高い運動に有用であるが、獲得から転移の過程を経るため全習法よりも時間を要する。一方、理学療法では早期の動作再獲得を図るため障害された動作の中核を構成する運動を選択的かつ集中的にトレーニングする分習法を採用することが多く、1 回あたりの治療成績は全習法よりもむしろ分習法の方が良好であり、早期に改善する印象がある。そこで今回、分習法による早期学習効果の検討を目的にバルーン上座位保持(バルーン座位)による下手投げの投球課題を用いて全習法と分習法による運動学習効果を比較検討した。【方法】対象者は健常大学生24 名(男子19 名、女子5 名、平均年齢20.4 ± 0.4 歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ、2m前方にある目標の中心に当てるように指示し、お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。バルーン上座位は投球前後に各5 秒間の保持を要求し、学習課題前後に各1 回ずつ実施した。目標から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3 つの同心円(直径20cm、40cm、60cm)を描き、中心からの16 本の放射線で分割した64 分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40 点、30 点、20 点、10 点と順次点数付けし、その得点をもって結果とした。学習課題は3 種類の方法を設定し、それぞれA〜C群として無作為に対象者を均等配置した。全群の1 セットあたりの練習回数は5 回、セット間の休憩時間は1 分とした。A群では検定課題と同様の方法でバルーン上座位保持による投球をおこなわせた。実施回数は主観的疲労を感じない回数として12 セット実施した。B群は、まず椅座位での投球を6 セット実施した後、バルーン上座位を6 セット実施した。C群では椅座位での投球とバルーン座位を交互に6 セットずつ実施した。学習課題ではお手玉が当たった分画の中央の座標を1 試行ずつ記録し、中心からの距離と方向とした。得られた結果から、検定課題では学習前後での得点の比較をおこない、学習課題では各群の成功例を基に投球結果座標による中心からの平均距離を標準偏差で除した変動係数とセット間の平均距離の比の自然対数を基にした変動率による比較をおこなった。統計学的手法は、検定課題では学習前後の結果比較に対応のあるt検定を用い、A〜C群の比較として検定・学習課題ともにKruskal-Wallis検定とBonferroni多重比較法を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は、A群11.3 ± 16.4/26.3 ± 15.1 点、B群6.3 ± 9.2/33.8 ± 7.4点、C群10.0 ± 15.1 点/18.8 ± 16.4 点であり、B群で有意な学習効果を認めた(p<0.01)。学習課題中の投球結果の変動係数はA群19.67 ± 1.06、B群8.42 ± 0.49、C群13.50 ± 1.24 で、A群に対してB群で有意な減少を認めた(p<0.05)。また、学習中の投球結果の変動率は群間で有意差は認められなかったものの、他群に対してB群で安定する傾向を認めた。【考察】Winstein(1991)は、分習法はスキルや運動の構成成分を順序付ける過程の学習であるとしており、運動全体の文脈的な継続性を考慮して動作を学習させる必要があるとしている。本研究ではB群によって検定・学習課題とも他群に比べて良好な結果を得た。B群では分習法により投球とバルーン上座位を各々別に集中して学習したが、運動学習中の変動係数の減少と変動率の安定化を認めたことから、バルーン上座位での投球の重要な要素である動的姿勢を集中的に獲得できたことが全習法に対して効果が得られた成因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から運動学習課題の設定によっては、全習法よりも学習効果が得られる事が示唆された。特に運動時の姿勢の改善を目的とする学習課題を分習法に組み込むことによって学習効果が向上する可能性があり、理学療法への分習法の応用に有用であると考えられる。
著者
弓永 久哲 鈴木 俊明 米田 浩久 若山 育郎
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.83-89, 2005 (Released:2006-01-26)
参考文献数
8
被引用文献数
1

The purpose of this study was to investigate the trunk muscles causing associated reactions in a hemiplegia patient with cerebrovascular disoders. Clinical evaluation and surface electromyographic based motion analysis were performed to confirm impairment problems in the patient. He showed associated reaction of left elbow flexion and left forearm supination caused by left anterior tilt to right posterior tilt of the trunk in the stance phase shift to the swing phase in gait. Surface electromyographic evaluation was performed while practing a similar gait task. The results indicated that high muscle activity of the affected side biceps brachii muscle was caused by high muscle activity of the unaffected side low back muscles. These finding suggest that not causing hypertonia of unaffected side low back muscles in normal movement of gait is very important.
著者
松岡 成治 米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.87-96, 2004 (Released:2005-03-11)
参考文献数
5
被引用文献数
1

We encountered 5 patients with cerebrovascular disease, who demonstrated shortening of the trunk muscle. We thought that the shortening was caused by primary low muscle tone. We investigated whether there was an effect on sitting and walking postures by stretching the shortening muscles. So we stretched these muscles at first. But we could not obtain good effect on either static sitting or walking postures. Then we selected one patient, and tried using weight shifting during sitting with sufficient muscle contraction. As a result, we could acquire improvement in both sitting and walking postures. From the above investigation, it was suggested that both stretching the shortened muscles and performing physical therapy based on normal movements were important therapeutic exercise for patients with cerebrovascular disease.
著者
龍神 正導 弓永 久哲 米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.145-150, 2006 (Released:2007-01-30)
参考文献数
2

We report a case in which significant edema was found in the paralyzed foot, which showed ankle plantar flexion, varus position and toe flexion in walking, disturbing the walking movement because of insufficient load to the forepart of the foot. In this case, the patient's foot grounded first with its post-outside when standing on the paralyzed foot due to abnormal alignment on the paralyzed side. Therefore the knee joint couldn't move forward, causing knee joint flexion and trunk anteversion and compensatory tone elevation of both back muscles. We performed therapy to correct the abnormal alignment of the paralyzed foot, which remedied the compensatory tone elevation of both back muscles due to loading of the paralyzed foot sufficiently. We conclude that it is necessary to ensure the foot is fully loaded when perfoming physical therapy for patients who have trouble with the trunk due to the foot during walking.
著者
鈴木 俊明 米田 浩久 谷埜 予士次 高崎 恭輔 谷 万喜子 鬼形 周恵子 吉田 隆紀 文野 住文 浦上 さゆり 若山 育郎 吉田 宗平
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.126-127, 2012-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
4

本研究の目的は,パーキンソン病患者への運動イメージ効果を脊髄神経機能の興奮性の指標であるF波を用いて検討することである。Hoehn and Yahrの重症度分類II 4名,III 3名,IV 3名であるパーキンソン病患者10名(男性2名,女性8名),平均年齢63.9 ± 11.0歳の非利き手(左側)を対象として,以下の検査を実施した。被験者を背臥位とし,非利き手(左側)正中神経刺激のF波を非利き手(左側)母指球筋より導出した(安静試行)。ピンチメータのセンサーを軽く把持した状態(センサー把持試行)で,非利き手(左側)正中神経刺激によるF波を非利き手(左側)の母指球筋より導出した。次に,ピンチメータを用いて,左側母指と示指による対立運動の最大努力の50%のピンチ力で対立運動を練習させた。その後,センサーは軽く把持したまま50%収縮をイメージさせた状態(センサー把持運動イメージ試行)とセンサーを把持しないで運動イメージを実施した状態(センサー把持なし運動イメージ試行)で,非利き手(左側)の母指球筋より同様にF波を測定した。F波出現頻度,振幅F/M比は,安静試行と比較してセンサー把持試行,センサー把持運動イメージ試行,センサー把持なし運動イメージ試行で増加傾向であり,安静試行とセンサー把持運動イメージ試行の2群間では有意に増加した。立ち上がり潜時は各試行での差異は認めなかった。健常者での先行研究と同様に,パーキンソン病患者への等尺性収縮による対立運動を用いた運動イメージは同側の脊髄神経機能の興奮性を増加させるが,運動イメージの方法は実際の運動に近い方法で実施することが大切であることが示唆された。
著者
鈴木 俊明 文野 住文 鬼形 周恵子 谷 万喜子 米田 浩久
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.27-31, 2014 (Released:2014-12-27)
参考文献数
5

For the adequate management of abnormal muscle tonus, it is important to first determine the underlying etiologies. These include primary causes such as spasticity, rigidity, and flaccidity, and secondary causes such as muscle and skin shortening. This study discusses whether abnormal muscle tonus is directly caused by primary etiologies or by a combination of primary and secondary etiologies, and describes treatment strategies for both types. Specific approaches for the management of abnormal muscle tonus are as follows. For secondary impairments such as skin and muscle shortening, measures to directly stretch the muscles and skin are considered effective. For primary impairments, prolonged stretching, motor imagery, and measures to enhance voluntary movements are important approaches. Patients can be self-trained in these approaches, which can improve the muscle tonus by altering brain and muscle function.
著者
金井 一暁 米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.123-129, 2004 (Released:2005-03-11)
参考文献数
8

In this study, It was found that there was a relationship between poorcoordination of the limbs and trunk and instability of the lower trunk and pelvic girdle in a stroke patient. It was clarified that instability of the lower trunk and pelvic girdle caused by lower muscle activity of the obliquus internus abdominis made the backmuscles tone higher, and that this condition made the poorcoordination. The effect of treatment for lower muscle activity of the obliquus internus abdominis was verified using a force-measuring platform and surface electromyogram. As a result, the trunk muscle tone in this patient got closer to normal, and the poorcoordination was alleviated. It was suggested that the approach to improve the instability of the lower trunk and pelvic girdle was effective in controlling the poorcoordination.
著者
米田 浩久 實光 遼 松本 明彦 岩崎 裕斗 金子 飛鳥 守道 祐人 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101928, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】課題指向型の運動学習条件としてpart method(分習法)とwhole method(全習法)がある(Sheaら,1993)。このうち分習法は獲得する動作を構成する運動要素に区分して別々に練習する方法であり、全習法は獲得する動作をひとまとめに練習する方法である。全習法は分習法と比較して学習効果が高く、運動学習の達成度は早い。これに対して分習法は学習した運動の転移が可能なことから難易度の高い運動に有用であるが、獲得から転移の過程を経るため全習法よりも時間を要する。一方、理学療法では早期の動作再獲得を図るため障害された動作の中核を構成する運動を選択的かつ集中的にトレーニングする分習法を採用することが多く、1 回あたりの治療成績は全習法よりもむしろ分習法の方が良好であり、早期に改善する印象がある。そこで今回、分習法による早期学習効果の検討を目的にバルーン上座位保持(バルーン座位)による下手投げの投球課題を用いて全習法と分習法による運動学習効果を比較検討した。【方法】対象者は健常大学生24 名(男子19 名、女子5 名、平均年齢20.4 ± 0.4 歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ、2m前方にある目標の中心に当てるように指示し、お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。バルーン上座位は投球前後に各5 秒間の保持を要求し、学習課題前後に各1 回ずつ実施した。目標から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3 つの同心円(直径20cm、40cm、60cm)を描き、中心からの16 本の放射線で分割した64 分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40 点、30 点、20 点、10 点と順次点数付けし、その得点をもって結果とした。学習課題は3 種類の方法を設定し、それぞれA〜C群として無作為に対象者を均等配置した。全群の1 セットあたりの練習回数は5 回、セット間の休憩時間は1 分とした。A群では検定課題と同様の方法でバルーン上座位保持による投球をおこなわせた。実施回数は主観的疲労を感じない回数として12 セット実施した。B群は、まず椅座位での投球を6 セット実施した後、バルーン上座位を6 セット実施した。C群では椅座位での投球とバルーン座位を交互に6 セットずつ実施した。学習課題ではお手玉が当たった分画の中央の座標を1 試行ずつ記録し、中心からの距離と方向とした。得られた結果から、検定課題では学習前後での得点の比較をおこない、学習課題では各群の成功例を基に投球結果座標による中心からの平均距離を標準偏差で除した変動係数とセット間の平均距離の比の自然対数を基にした変動率による比較をおこなった。統計学的手法は、検定課題では学習前後の結果比較に対応のあるt検定を用い、A〜C群の比較として検定・学習課題ともにKruskal-Wallis検定とBonferroni多重比較法を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は、A群11.3 ± 16.4/26.3 ± 15.1 点、B群6.3 ± 9.2/33.8 ± 7.4点、C群10.0 ± 15.1 点/18.8 ± 16.4 点であり、B群で有意な学習効果を認めた(p<0.01)。学習課題中の投球結果の変動係数はA群19.67 ± 1.06、B群8.42 ± 0.49、C群13.50 ± 1.24 で、A群に対してB群で有意な減少を認めた(p<0.05)。また、学習中の投球結果の変動率は群間で有意差は認められなかったものの、他群に対してB群で安定する傾向を認めた。【考察】Winstein(1991)は、分習法はスキルや運動の構成成分を順序付ける過程の学習であるとしており、運動全体の文脈的な継続性を考慮して動作を学習させる必要があるとしている。本研究ではB群によって検定・学習課題とも他群に比べて良好な結果を得た。B群では分習法により投球とバルーン上座位を各々別に集中して学習したが、運動学習中の変動係数の減少と変動率の安定化を認めたことから、バルーン上座位での投球の重要な要素である動的姿勢を集中的に獲得できたことが全習法に対して効果が得られた成因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から運動学習課題の設定によっては、全習法よりも学習効果が得られる事が示唆された。特に運動時の姿勢の改善を目的とする学習課題を分習法に組み込むことによって学習効果が向上する可能性があり、理学療法への分習法の応用に有用であると考えられる。
著者
高崎 恭輔 米田 浩久 谷埜 予士次 鈴木 俊明 渡辺 美鈴 河野 公一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2096, 2009

【はじめに】ファンクショナルリーチ・テスト(以下 FRT)はバランス機能を評価する方法として臨床で頻繁に用いられる手法であり、転倒の危険性を予測する指標とされている.これまでFRTは、そのリーチ距離に着目され各年代の基準値を指標に用いられてきた.しかし先行研究ではリーチ距離と足圧中心の前方移動距離との相関性は低いという報告があり、また鈴木らのスモン患者における研究でもリーチ距離が歩行機能に与える影響は少ないといわれている.これらのことから我々はFRTを転倒予防や運動能力の評価指標として用いるためにはそのリーチ距離だけでなく、動作戦略にも着目する必要があるのではないかと考えている.そこで本研究では、FRTを有効に活用するための新たな指標の構築の前段階として、健常者におけるFRTの動作戦略について検討した.<BR>【対象と方法】対象は実験に同意を得た健常大学生83名(男性46名、女性37名)である.方法はDuncanの方法に従いFRTを行わせ、矢状面からデジタルビデオカメラにて定点撮影した動画によって計測中の足関節、股関節の関節運動開始順序を確認しパターン分類した.<BR>【結果】以下に分類した動作戦略パターンと全試行数に占める該当数の割合を示す.分類されたパターンは、a.股関節屈曲のみのパターン(42.6%)、b.足関節背屈の後に股関節屈曲するパターン(37.3%)、c.股関節屈曲の後に足関節底屈による膝過伸展を示すパターン(10.8%)、d.足関節背屈のみのパターン(5.6%)、e.股関節屈曲と足関節の底屈による膝過伸展が同時に出現するパターン(1.6%)、f.股関節の屈曲の後に足関節背屈するパターン(1.2%)、g.股関節屈曲と足関節背屈が同時に出現するパターン(0.4%)、h.足関節底屈の後に股関節が屈曲するパターン(0.4%)であった.<BR>【考察】本研究ではFRTにおける股関節、足関節の運動開始順序に着目し動作戦略のパターン分類を行った結果、上記の8パターンを示した.一般的に姿勢制御戦略において、足関節戦略はわずかな重心の乱れに対応するのに対し、股関節戦略は足関節戦略で対応できない大きな外乱に対して用いられるといわれる.また高齢者は足関節戦略より股関節戦略を頻繁に用いるようになり、これが転倒の原因の一つになるとも言われている.このことから、前方へのリーチ動作を合目的的に行う戦略として足関節底屈筋群の活動により足関節の背屈を制御し、さらに股関節の屈曲が見られるa.やb.のパターンは、足関節が底屈するパターンに比べて高いバランス機能を有するのではないかと考える.本研究では健常者を対象としていることから、多数みられたパターンを高度な姿勢制御を有すると仮説して考察したが、今後さらにパターンの優位順序を明確化していくために、他のバランステストとの関係性や年代毎のパターン分類なども行いたいと考えている.
著者
米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに】理学療法の場面では獲得すべき動作の構成要素を集中的にトレーニングすることが多い。理学療法では一般的に学習効果と達成度が高いとされる全習法よりも,むしろ構成要素ごとに学集する分習法をおこなうことで早期に改善する印象がある。この印象について検討するために,われわれは第48回日本理学療法学術大会においてバランスボール上での非利き手による下手投げ投球動作を用いて全習法と分習法の学習効果を検討した。その結果,全習法よりも分習法で有意な学習効果を認め,理学療法でおこなうトレーニングの有効性を証明した。一方,分習法によるトレーニングを実施する場合,構成要素をどのような基準で分割し,どのような順序で実施すべきかという疑問に対して,これまで有効な報告は得られていない。そこで今回,先行研究と同じ学習課題をもとに構成要素の学習順序が異なる2種の分習法を実施し,その効果を検討したので報告する。【方法】対象者は健常大学生24名(男子16名,女子8名,平均年齢20.4±0.6歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ,2m前方にある目標の中心に当てるように指示し,お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。検定課題は学習課題前後に各1回ずつ実施し,バランスボール上座位を投球前に5秒間保持させ,的への投球をおこなった後,さらにバランスボール上座位を投球前に5秒間保持させた。目標の的から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3つの同心円(直径20cm,40cm,60cm)を描き,中心からの16本の放射線で分割した64分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40点,30点,20点,10点と順次点数付けし,その得点をもって結果とした。学習課題は2種類の方法を設定し,それぞれA群とB群として男女別に無作為に対象者を均等配置した。A群は,まずバランスボール上座位を6セット実施した後,椅座位での投球を6セット実施した。B群では,まず椅座位での投球を6セット実施した後,バランスボール上座位を6セット実施した。これらの学習では1セット1分40秒とし,セット間インターバルは1分間とした。投球課題では1セット内で対象者の任意のタイミングで5投実施した。学習効果の検討は,学習前後の的の得点と重心の総軌跡長の変化によって実施し,両群とも学習前後の検定課題の結果による群内比較と群間比較を実施した。統計学的手法は,群内比較には対応のあるt検定を用い,群間比較にはマン・ホイットニー検定を実施した。有意水準はそれぞれ5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は,A群5.8±13.7点/24.2±15.64点(mean±S.D.),B群8.3±15.3点/12.5±14.2点であった。また,学習前後の重心の総軌跡長(学習前/学習後)は,A群289.76±69.27cm/175.46±93.24cm,B群が257.86±77.68cm/213.84±64.64cmであった。群内比較では得点および総軌跡長ともA群に有意な学習効果を認めた(p<0.05)。群間比較ではいずれも有意差は認められなかったが,学習後の得点でA群に学習効果を認める傾向を認めた(p=0.064)。【考察】Wadeら(1997)は,姿勢の変化が要求される運動は運動前や運動中におこなわれる姿勢制御によって担保され,運動の目的や状況,環境により姿勢制御は左右されるとしている。本研究では,バランスボール上座位という絶えず変化する座位の保持に加え,的の中心に当てるという精度の高い非利き手での投球動作の双方を要求した。対象者は,これらを実現するため絶えず座位の姿勢制御を求められていたものと考えられる。従って,B群に比べて初めに姿勢制御を学習したA群で,有効な姿勢制御を効果的に獲得でき,学習効果につながったと考えられる。以上のことから,分習法による構成要素の区分は姿勢制御課題を基準として分類し,まず姿勢制御課題から学習をおこなうことが重要であると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,トレーニング課題の設定方法として姿勢制御課題を軸とした分類と学習をおこなうことの有効性を示唆したものである。動的姿勢改善に着目した分習法は,基本動作獲得の一助として理学療法への応用に有用であると考えられる。
著者
米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
関西鍼灸大学
雑誌
関西鍼灸短期大学年報 (ISSN:09129545)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.79-89, 2002-09-20

今回,右大腿骨骨幹部骨折症例に対し動作分析を重視したトップダウン過程の評価を基に運動療法を施行し,良好な結果が得られたので報告する。患者は43歳の男性である。 2001年3月4日,交通事故により右大腿骨骨幹部骨折と診断され,2001年7月26日,関西鍼灸短期大学附属診療所(本学)において理学療法開始となった。それまで,複数の医療機関がこれらの障害の改善を目的とした運動療法を実施し改善したが,著明な歩行の改善は認められなかった。本学における初期時理学療法評価では右下肢に関節可動域制限と筋力低下を認めた。また,歩行動作観察において,左立脚相では支持脚への充分な体重負荷が困難であり,その為,患者は右下肢の前方振出しに右骨盤挙上を要した。一方,右立脚相でも骨盤の支持脚側への移動が認められず支持脚で体重支持が不十分であった為,左下肢の前方振出しに体幹右側屈・左回旋と左骨盤挙上を伴った。このことから,我々は,両立脚相における体幹筋の非協調的な筋活動が症例の問題点であると考えた。これらの問題点に対して,両立脚相での十分な体重支持を得る事を目的に正常動作時の立脚相の動作を基にした運動療法を行った。訓練は1回当たり40分とし,週1回の頻度で3週間継続した。その結果,患者は両立脚相において安定性が向上し効率的な歩行が可能となった。以上のことから,動作分析を重視した評価は骨関節疾患に有効であることが示唆された。