著者
塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.LDE法によりリボヌクレアーゼAp1の直接構造決定を試みた。分解能8Aの反射にランダムな位相を与え、実測データの上限である分解能1.17A(23853反射)まで位相を拡張及び精密化を行ったところ、平均位相誤差81.7°、規格化構造因子と修正後の電子密度から得られた構造因子の大きさにより重みを付けた平均位相誤差76.5°が得られた。この位相により計算された電子密度から主なピークを拾ってみると、大きなものから順に、1、4、5、8番目のピークがS原子のものであることが判明した。ちなみにリボヌクレアーゼAp1の分子は5つのS原子を含む。2.リボヌクレアーゼAp1の空間群はP2_1であり、b軸に垂直にハーカーセクションが現れる。ハーカーセクションが現れるピークがすべて自己ベクトルに起因するものと仮定し、電子密度にフィルターをかけてみた。これを用い、全反射にランダムな位相を与えて初期値とし、位相精密化を行ったところ、20回の試行のうち18回、1.で得られた位相と同等のものが得られた。3.リボヌクレアーゼAp1の5つのS原子の位置より計算した位相を初期値として精密化を行ったところ正しい構造が得られた。LDE法は部分構造から全体構造を導出する能力に優れており、1.と2.で得られた電子密度から正しい構造が得られる可能性は十分にある。これについては現在計算中である。4.LDE法とヒストグラムマッチング法の比較検討を行った。ヒストグラムマッチング法は低分解能から高分解能のデータまで適用出来、ある程度は位相精密化可能である。LDE法は、低分解能領域においてはヒストグラムマッチング法に劣るものの、高分解能領域では位相拡張及び精密化の能力は非常に優れていることが判明した。5.LDE法を、実測データが手元にある2‐Zn‐pig‐insulinとリボヌクレアーゼSaに適用した結果、どちらの構造でも平均位相誤差70°からはじめて、重み付き位相誤差55°程度まで精密化することに成功した。
著者
町田 光男 馬込 栄輔 塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

KHCO_3、KH_3(SeO_3)_2、NH_3CH_2COOH・H_2PO_3及びそれらの重水塩の高温相の中性子構造解析から得られた水素結合中のプロトン、デューテロンの核分布を、ダブルモース関数をポテンシャルとする1粒子(プロトン、デューテロン)シュレディンガー方程式から得られる核分布で再現し、プロトントンネリングの存在を確認した。構造解析から得られる水素結合系の構造パラメータに現れる同位体効果は、トンネル効果の相違によることが判明した。また、NH_3CH_2COOH・H_2PO_3及びその重水塩の^<31>P核のスピン格子緩和時間を調べた結果、軽水塩と重水塩におけるトンネル効果の相異を反映する結果が得られた。
著者
阿知波 紀郎 塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

アダマンタン誘導体のプラスチック結晶相転移および配向グラスに関する研究は、静的及び動的分子配向相関に関する興味からである。我々は、'だるま' 分子であるアダマンタン誘導体のうち、'あたま'が比較的大きな1-ブロモアダマンタン 及び、'くび'が長い1シアノアダマンタンを分子配向の典型物質として 選びx線及び中性子散乱実験により分子配向相関に関する研究をおこなった。この科学研究費をもちいて、主として、プラスチック相および配向グラス相での分子配向相関の研究のため、温度変化のできる単結晶用x線散漫散乱測定装置を開発し実験を行った。さらに、分子配向の動的挙動については 主として中性子飛行時間差法による中性子非干渉性非弾性散乱実験を行った。各年度に取り組んだ具体的な研究テーマは以下のとおりである。1)1-ブロモアダマンタンの分子配向の段階的秩序化による構造相転移の研究。単結晶X線結晶構造解析によるプラスチック相、セミオーダー相、オーダー相の構造比較。2)1-シアノアダマンタンのプラスチック相と配向グラス相の分子配向相関およびダイナミックスの単結晶X線散漫散乱による研究。3)1-シアノアダマンタンのプラスチック相から低温に単結晶のままクエンチして得られた配向グラス結晶を、グラス転移温度直下で保ち、時間的に進行する局所分子回転配向秩序をX線ブラッグ反射および、散漫散乱により追求し、新散漫散乱を(2h,1±δ 0)に見いだした。中性子非干渉性非弾性散乱実験により各相のダイナミックッスを調べた。