著者
境 徹也 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.21-24, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
13

虚偽性障害は,身体的・心理的症状または徴候を意図的に作り出す疾患であり,特に身体的症状と徴候の優勢なものはミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる.われわれは複合性局所疼痛症候群(CRPS)様症状をきたしたミュンヒハウゼン症候群患者を報告する.患者は47歳の男性であった.腰椎椎間板術後の腰下肢痛と歩行不能を訴え,車椅子で当科へ紹介受診となった.腰椎のMRIで,明らかな異常はなく,院外では普通に歩行していた.その後,咽喉頭部違和感,腹部不快感,上顎痛,発熱など多彩な身体症状を次から次へと訴えていたが,検査で異常はなかった.8カ月後に,右肘部管症候群に対する尺骨神経移行術後に,右腕の腫脹が出現し,CRPSが疑われた.13カ月後に,腹部不快感を訴え,腹部CTにて腸管内に金属異物が発見された.40カ月後に,右腕の腫脹が著明になり,右上腕がバンドで強く締め付けられているのが発見された.医療スタッフは早期にこの病態を認識し,この病的行動により混乱させられないことが重要である.
著者
境 徹也 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.484-487, 2013 (Released:2013-11-07)
参考文献数
13

薬物乱用頭痛とは,頭痛治療薬を頻用する結果生じる難治性の頭痛である.今回,複数の頭痛治療薬の頻用が誘因と疑われた薬物乱用頭痛に,ガバペンチンが有効であった症例を経験した.症例は50歳,女性で,中学生の頃から片頭痛を自覚し,市販複合鎮痛薬にて自己対処していた.しかし,12年前に市販複合鎮痛薬を毎日内服するようになり,6年前よりリザトリプタンを毎日,ロキソプロフェンを月に10日以上使用するほど頭痛は悪化していた.当科受診時,患者は連日性の頭痛を訴え,その性状は持続的な締め付け感を伴うものであった.薬物乱用頭痛についての患者教育を行い,リザトリプタンとロキソプロフェンの内服中止と頭痛日記の記載を指導した.5週間後,リザトリプタンとロキソプロフェンの内服を中止でき,ガバペンチンの内服を開始した.11週間後,持続的な締め付け感を伴った頭痛は拍動性の頭痛へと変化し,その程度は軽減した.本症例では,薬物乱用性頭痛の説明や頭痛日記の記載といった患者教育とガバペンチンの投与が,症状軽快に有効であったと思われた.頭痛治療薬の乱用により引き起こされた脳の過剰興奮を,ガバペンチンが抑制したのではないかと推測している.
著者
大路 牧人 境 徹也 田中 絵理子 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-30, 2014 (Released:2014-03-12)
参考文献数
17

メトロニダゾール(MNZ)は,嫌気性菌や原虫による感染症に有効な抗菌薬である.薬剤性神経障害の原因薬剤は多岐にわたるが,MNZでも起こりうる.今回われわれは,MNZにより生じた薬剤性末梢神経障害に対し薬物療法を行ったので報告する.症例は77歳の男性である.5カ月前に腰痛が出現し,非結核性抗酸菌性脊椎炎と診断された.MNZ 1,500 mg/日が開始されたが,投与より1カ月で四肢の痛みとしびれ,複視,意識障害,構音障害が出現し,薬剤性神経障害が疑われた.MNZを中止後,中枢神経症状は数日で軽快したが,末梢神経症状は残存した.プレガバリン75 mg/日とトラマドール/アセトアミノフェン配合錠2錠/日を投与されたが軽快せず,当科紹介となった.デュロキセチン20 mg/日を投与したが,無効であったため中止した.その後,プレガバリンを150 mg/日に増量し四肢の痛みは軽減したが,しびれは残存した.プレガバリンはMNZによる末梢神経障害の痛みに対して,投与を考慮してもよい薬剤であると考えられた.
著者
境 徹也 樋田 久美子 原 哲也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.819-823, 2015-11-14 (Released:2015-12-04)
参考文献数
9

患者は71歳の男性.4年前,腰部脊柱管狭窄症による左腰下肢痛に対して,椎弓切除術を受けて痛みは軽快した.その後,痛みが再発したため,当科を受診した.痛みはL5およびS1神経根痛であり,硬膜外ブロックと神経根ブロックの効果は一時的であったため,硬膜外腔内視鏡を行った.L5-S1椎間レベルで癒着があり,左L5椎間孔付近では高度であった.慎重に癒着剥離および局所麻酔薬とステロイド注入を行い,痛みは軽減した.その後の6年間で,下肢の神経根痛の増強時に硬膜外腔内視鏡の繰り返し施行を計6回行った.痛みの軽減も初回と同様に得られ,合併症も起こっていない.
著者
北島 美有紀 境 徹也 樋田 久美子 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.491-493, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
12

明らかな原因を発見できない口腔内灼熱感のうち,痛みが舌に限られるものが舌痛症と定義されている.心理的要因が関与しているとされるが,発症の原因は不明である.今回,漢方薬の抑肝散加陳皮半夏(エキス製剤7.5 g中に半夏5 g,蒼朮4 g,茯苓4 g,川きゅう3 g,釣藤鈎3 g,陳皮3 g,当帰3 g,柴胡2 g,甘草1.5 gを含む)により痛みが軽減した舌痛症の1症例を報告する.患者は82歳の男性で,4年前に脳梗塞を発症し,その約1年後から舌の痛みが出現した.歯科で口腔内の器質的障害は否定されていた.脳梗塞の後遺症で歩行障害があり,患者はいらいら感や胃部不快感を訴えていた.また,舌に何か異常があるのではないかという不安を持っていた.漢方的診察により得られた証に随って,抑肝散加陳皮半夏7.5 g/日を開始した.内服開始7日後には,痛みの程度は数値評価スケールで8/10から4/10に軽減し,範囲も半減した.患者の証に沿った漢方薬の選択が,難治であった舌痛の緩和に繋がった.
著者
樋田 久美子 境 徹也 北島 美有紀 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.52-54, 2011 (Released:2011-06-04)
参考文献数
6

電撃傷は,体に電気が通り,筋や神経の障害が生じる病態であり,労働災害が原因となることが少なくない.われわれは就労中に感電し,左腕の痛みと筋力低下を生じたが,疾病利得が影響し,症状が誇張されたと思われる症例を報告する.56歳の男性で,溶接作業中に左指から感電し,受傷翌日,当院に入院した.左上肢の強い痛み,筋力低下,関節可動域制限を訴えていたが,病棟では左上肢を支障なく動かしており,補償の獲得を示唆する発言があった.患者に退院を勧めたが,患者は激しい痛みを訴えて入院継続を強く求め,当院に16日間入院した後,他院に転院し,2カ月間入院を継続した.症状を誇張する背景に疾病利得の影響が考えられた.
著者
樋田 久美子 境 徹也 北島 美有紀 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.52-54, 2011-05-25
参考文献数
6

電撃傷は,体に電気が通り,筋や神経の障害が生じる病態であり,労働災害が原因となることが少なくない.われわれは就労中に感電し,左腕の痛みと筋力低下を生じたが,疾病利得が影響し,症状が誇張されたと思われる症例を報告する.56歳の男性で,溶接作業中に左指から感電し,受傷翌日,当院に入院した.左上肢の強い痛み,筋力低下,関節可動域制限を訴えていたが,病棟では左上肢を支障なく動かしており,補償の獲得を示唆する発言があった.患者に退院を勧めたが,患者は激しい痛みを訴えて入院継続を強く求め,当院に16日間入院した後,他院に転院し,2カ月間入院を継続した.症状を誇張する背景に疾病利得の影響が考えられた.