著者
桑原 博道 墨岡 亮 新井 一 小林 弘幸
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.278-288, 2011-04-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

本邦における脳神経外科領域の医療裁判例30を分析した.裁判上の争点は,いくつかに類型化されるが,このうち説明義務違反に関しては,他の争点に比して肯定されやすい傾向にあった.低侵襲治療もすでに裁判の対象となっており,低侵襲であることのメリットを過度に強調するかのような説明には注意が必要である.判決言渡しまでの期間は大幅に短縮されているが,脳神経外科医などの外科医にとって,裁判を起こされること自体が精神的苦痛であることに変わりはない.また,手技ミスなど,手術に関係する過失を理由とする裁判の増加は,外科手術施行の萎縮,ひいては外科医希望者の減少につながる.そこで,脳神経外科などの外科領域においても,産科領域と同様の無過失補償制度を導入することも考慮に値する.ただし,補償額を算定するにあたって,原疾患や術式の難易をどのように考慮するかが,大きな課題である.
著者
墨岡 亮 桑原 博道 小林 弘幸
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.1183-1195, 2011 (Released:2013-01-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

肺血栓塞栓症は, 近年, 認知度が上昇し, 急死の転帰をたどることも多く, 訴訟リスクが高まっているものと考えられる. そこで, 肺血栓塞栓症が裁判上どのような点で問題となっているのか, 検索し得た40例の裁判例(36事例)を検証した.請求棄却判決は22例で, 一部認容判決が18例. 主な診療科は, 循環器科(7事例), 産婦人科(7事例9裁判例), 整形外科(6事例)で, 3診療科で約半数を占めた. 循環器科は, 2004年の判決以降に問題となっていた. 産婦人科では, 5事例6裁判例で, 医療機関側から, 急変した原因が肺血栓塞栓症であるとの主張がなされていた. 整形外科では, いずれの事例も下肢受傷例であった. 争点となったのは, 死因·原因(17事例20裁判例), 予防措置(16事例17裁判例), 診断の遅れ(16事例17裁判例), 救命措置(9事例10裁判例)であった. 2004年以降, 予防, 診断の遅れ, 救命措置に過失があったことを理由とした請求認容判決が7例存在した. また, 2004年以降の判決ではガイドラインに触れられているものがあった. 死因·原因などに関して, 8事例10裁判例で, 医療機関側から, 原因が肺血栓塞栓症であったことを, 過失や救命可能性を否定する根拠として主張していることが特徴であった.医療トラブル防止には, 個々の医師の対応だけでは限界があり, 肺血栓塞栓症の特質について, 患者および社会一般の理解を得る必要がある.