著者
谷 亜希子 川瀬 友貴 多田 靖宏
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.260-264, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
11

Werner症候群は遺伝性の早老性疾患で,早老性外観,白内障,皮膚の萎縮・硬化などに加え,音声障害も診断項目の一つである.今回,声帯萎縮と診断した患者が,遺伝子検査を行いWerner症候群と診断された.42歳女性.30年来の嗄声を主訴に受診した.粗糙性,気息性が強く,両声帯は瘢痕様で発声時の声門間隙を認めた.声帯萎縮と診断し保存的治療は効果が乏しく外科的治療は希望がなかった.皮膚の硬化や手指の拘縮に対し精査が行われ,遺伝子検査の結果,診断にいたった.Werner症候群では音声障害は80%の患者で自覚するといわれている.声帯萎縮に準じて治療されることが多いが確立した治療法はない.代謝異常や悪性疾患の合併もあり,音声障害についての積極的な治療の介入は難しいことが多いが,患者の希望に対応していくことが必要である.若年性の声帯萎縮症例ではWerner症候群の存在を念頭におき診断・治療を行う必要がある.
著者
谷 亜希子 川瀬 友貴 仲江川 雄太 多田 靖宏
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.7-12, 2018-02-10 (Released:2018-02-25)
参考文献数
8

気管孔レティナは気管切開後の気管孔保持のために使用される。気管カニューレに比較し気管内腔への刺激が少ないこと,交換頻度が少なくて済むこと,ベルトでの固定が不要であることが利点である。今回,当科において気管孔レティナを使用している42例を対象に,レティナ管理の経過,合併症について評価した。男性23名,女性19名,レティナ使用開始時の年齢は11~83歳 (平均55.6歳) 。気管切開が必要となった原因は両声帯麻痺,気管狭窄症,喉頭腫瘍による気道狭窄,誤嚥防止手術後であり,レティナの使用期間は1~400カ月 (中央値18.5カ月) に及んだ。経過の中でレティナ使用を継続している症例は45.2%,気管孔閉鎖が得られた症例は33.3%,カニューレによる気管孔管理に変更された症例は19.0%,喉頭摘出のため永久気管孔を行った症例は2.4%であった。合併症は気管切開孔周囲の肉芽が16.7%,繰り返す脱落が14.3%,気管内腔側壁の瘢痕形成が9.5%であった。なかでも気管内腔側壁の瘢痕形成はレティナ使用による特異的な合併症と思われた。レティナには先に述べた利点があるが,合併症,特にレティナ脱落に対する理解と対応が必要である。定期的な観察と適切な対応を行えば多くの患者に安全な気道管理法と考える。