著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.51-61, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本稿は,インドネシア首都ジャカルタ郊外のブカシを事例に,首都郊外の形成過程を検討することで,従来の都市研究における郊外ニュータウンの形成という枠組みでは捉えられない東南アジアの都市化への視座を提示する.例えばアメリカでは,郊外化は都市の過密化などから逃れ,理想の生活を求めた中間層以上の人々の移動により展開された.これに対して東南アジアの諸都市では,特に70年代後半からの新国際分業に組み込まれていく過程で,首都郊外に工業団地とニュータウンが造成され,アジア・メガシティとよばれる巨大都市が形成された.つまり,インドネシアやマレーシアなどにおいては,世界都市システムのなかで海外輸出の拠点として整備された工業団地を単一の核として,そこに隣接する形で働き手を収容する郊外ニュータウンが形成されるのである.加えて,ニュータウン内に整備されたゲーテッド・コミュニティだけでは労働人口を収容できず,カンポンや周辺の村(デサ)も受け皿となっている.工業化の過程で都市-農村両者は分断されるというよりもむしろその関係性を強め,同一の社会関係のネットワークを介してヒト,モノ,カネ,情報,文化の循環移動が促進され,労働力も流動し,都市と農村の社会関係が共時的に複合化しつつ変化を遂げている.デサコタやカンポンという空間編成は社会関係のネットワークとあわせ,世界都市システムを下支えするアジア的な空間編成を形成しているのである.
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.25-48, 2015-01-30 (Released:2022-02-06)
参考文献数
40

本稿は、「フォーディズム都市」をはじめとした、レギュラシオン理論を援用する都市論のもつ、今日の都市分析への展開可能性とその道筋を指摘する。一九七〇年代後半からの先進国における蓄積体制の変化と都市の構造転換に対して、ロサンゼルス学派をはじめとした論者は、レギュラシオン理論を援用し分析を試みた。だが、第一世代のレギュラシオン理論がもつ、国家の位置づけ不在という問題により、フォーディズムの終焉とポスト・フォーディズムへの移行を描ききれず、議論は衰退した。本稿は、David Harveyによる「都市管理主義」から「都市企業家主義」への転換に伴う国家と市場の関係性の変化の議論を、従来のレギュラシオン理論を援用する都市論に取り込み再構成することで、レギュラシオン学派第二世代によるその後の理論的発展を再び都市論へ援用する道筋を提示する。その際、政治と経済を結びつける象徴的媒介としての「貨幣」「法」「言説」の議論に着目し、とりわけ蓄積体制の変化に寄与する象徴資本の減価や増価と関わる「言説」を、国家の役割とともに検討・精緻化することが、フォーディズム都市論の課題の克服につながることを指摘する。その上で、グローバル化が進む今日において、途上国都市をも分析の対象としうることに言及する。以上が、ポスト・フォーディズム都市論の秘めたる射程である。
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.163-174, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本稿は,東南アジア首都圏の拡大メカニズムの分析に際し,郊外ニュータウン区画外の居住地区に焦点を当て,工場労働者の向都市移動と就業機会の現状を明らかする.具体的には,事例研究としてインドネシア首都ジャカルタ郊外のKarawang県における土地利用データとニュータウン区画外アパート住人135名に対する質問紙調査および8名に対するインタビュー調査を実施した.従来,東南アジア首都圏の拡大を論じる際,欧米の研究が援用され,郊外ニュータウンの分析が行われてきた.対して本稿は,工業団地,ニュータウンと集落地区がモザイク状に分布するアジア都市の現状を指摘し,ニュータウン区画外に工場労働者のための居住地区が形成されていることを提示する.また,近年の非正規雇用の普及によりリクルート会社や学校の紹介といった「フォーマルな方法」が整備されるなか,向都市移動に際し途上国研究で指摘される「人的つながり」である親族・同郷者ネットワークの重要性は低下している.代わりに,短期雇用を繰り返す現在の非正規雇用制度のもと,工場労働者同士情報交換のための人的つながりが重要な役割を担っていることを,本稿は指摘する.
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.111-114, 2017-12-26 (Released:2019-01-28)
参考文献数
4
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.83-94, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
36

本稿は,新国際分業と世界都市システムのなかでの,東南アジア都市の位置づけを明らかにするものである.今日,世界的な都市人口の増加とともに巨大な都市圏が形成されるなか,都市研究では,その構造的説明を目的とした議論が行われている.こうした議論では,とりわけアジア諸国を対象に論じられているが,なぜ他の途上国地域ではなくアジア(なかでも東南アジアと中国)が議題となるのか,という問題に立ち入っていない.そこで本稿は,先進国・途上国の現在の都市化・都市圏形成の議論,および各途上国の発展戦略に関する議論を横断的に分析し,東南アジア都市の位置づけを明確化した.その結果,他の途上国地域と異なり,工業製品輸出国という地位を獲得した基盤には,日本の近隣国であったという地政学的要因,それと関連するプラザ合意による通貨安と規制緩和といった世界経済的要因と,国内労働力の管理の容易さといった労働環境的要因とあわせて,人口分布とその土台となる工業化以前の農業経済システム的要因があったことを指摘した.
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.85-96, 2013-07-19 (Released:2014-08-31)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿は,インドネシア首都ジャカルタ郊外のブカシ県を調査地に,露天商228人への個別訪問調査から成員の性質を分析することで,先行研究では検討されていなかったインフォーマルセクター成員の「時間帯による差異」とそれに関わる兼業の状況を指摘する.1960年代に途上国の都市における雇用問題が国際機関にて議論され始めてから今日に至るまで,「インフォーマルセクター(政府の公式統計に反映されない多種多様な都市雑業層)」をどのように描き出すかについて,多くの研究が行われてきた.本稿で取り上げる露天商は,生産単位としては「インフォーマルセクター事業」に,職業的地位としては「自営業」にあたるため,多層なインフォーマルセクターのなかにおいて諸々の賃金労働従事者よりも上位に位置する.兼業という観点を考慮し調査結果を分析すると,①自給生産に頼らず露天商としてのみ働く者,②フォーマルセクターで雇用されながらも露天商でも働く者,の2タイプの存在が浮き彫りになる.この2タイプは,朝の時間の日曜市では①,夜の時間のナイトマーケットでは②の傾向が,それぞれ明らかになった.また,本研究は,調査地が首都中心ではなく,近年の東南アジア諸国の発展を牽引する首都郊外であるところから,インフォーマルセクターの「地理的分布による差異」の問題にも言及する.
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.85-96, 2013

本稿は,インドネシア首都ジャカルタ郊外のブカシ県を調査地に,露天商228人への個別訪問調査から成員の性質を分析することで,先行研究では検討されていなかったインフォーマルセクター成員の「時間帯による差異」とそれに関わる兼業の状況を指摘する.1960年代に途上国の都市における雇用問題が国際機関にて議論され始めてから今日に至るまで,「インフォーマルセクター(政府の公式統計に反映されない多種多様な都市雑業層)」をどのように描き出すかについて,多くの研究が行われてきた.本稿で取り上げる露天商は,生産単位としては「インフォーマルセクター事業」に,職業的地位としては「自営業」にあたるため,多層なインフォーマルセクターのなかにおいて諸々の賃金労働従事者よりも上位に位置する.兼業という観点を考慮し調査結果を分析すると,①自給生産に頼らず露天商としてのみ働く者,②フォーマルセクターで雇用されながらも露天商でも働く者,の2タイプの存在が浮き彫りになる.この2タイプは,朝の時間の日曜市では①,夜の時間のナイトマーケットでは②の傾向が,それぞれ明らかになった.また,本研究は,調査地が首都中心ではなく,近年の東南アジア諸国の発展を牽引する首都郊外であるところから,インフォーマルセクターの「地理的分布による差異」の問題にも言及する.