著者
渡邉 政寿 大場 浩正
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.73-84, 2018 (Released:2020-01-26)
参考文献数
26

本研究は,日本人高校生の英語作文力が4か月間の教室内英語多読を経てどのように変化するかを調査したものである。「多読+ 英作文(ERW)」群と「多読のみ(ER)」群に分け,事前・事後に作文力と読解力テストを実施した。研究課題は,(1)教室内英語多読によって英語作文力が向上するか,(2)もし向上するなら,どの側面(内容,論理・構成,語彙,言語使用,句読点等の形式)か,及び(3)英語作文力のどの側面が英語読解力と読了語数に関連があるかであった。分析の結果,英語作文力の下位群では多読後に「句読点等の形式」以外において有意な伸長が認められた。また,ERW 群で「言語使用」,ER 群では「語彙」において英語作文力と読解力との相関がより強まり,指導法による差が認められた。更に,読了語数よりも読解力が英語作文力に影響を与えること,及び英作文評価観点の5項目にはそれぞれ「読解力」の有意な影響があることが判明した。
著者
大場 浩正
出版者
北海道医療大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

第2言語習得研究において現在議論されている問題の一つは,第2言語文法の発達初期段階において機能範疇が存在するか否かに関するものである。Lakshmanan and Selinker(1994)は子供の第2言語としての英語文法の縦断的な発話データを分析し,(1)第2言語文法の発達初期段階における(機能範疇の)補文標識thatは,時制を持つ埋め込み平叙文において義務的に空(すなわち,音形を持たず,語彙的に具現化されない)として扱われ,(2)時制を持つ補文標識thatは,関係節の領域において初めてthatとして現れる,と主張した。本研究では,Lakshmanan and Selinker(1994)の時制を持つ補文標識thatに対するこのような主張の正当性を,授業環境だけで英語を学習してきた成人の日本人学習者101名(CELTを用いて英語の習熟度を測定し,29名の初級グループと28名の上級グループに分けた)を対象に,2つのタスク(Written Production TaskとElicited Translation Task)を用いた実験によって調査した。実験結果によると,日本人英語学習者は,埋め込み平叙文における時制を持つ補文標識thatを,初級グループから高い割合で使用していた。空(ゼロ)補文標識に関しては,上級グループの方が,初級グループよりも,使用する割合が高かった。この結果は,Lakshmana and Selinker(1994)の結果とは正反対であり,授業環境のみの成人の日本人英語学習者の場合には,埋め込み平叙文における時制を持つ補文標識thatに関して,異なる発達段階が存在するようである。また,関係節の領域における補文標識thatは,初級グループから用いられていたが,上級グループの方がその使用率は低かった。このような結果となったのは,本研究の初級グループが英語文法の発達初期段階を既に過ぎてしまっていた,ということが理由の一つとして考えられるであろう。