著者
中島 功 大塚 洋幸 市村 篤 本多 ゆみえ 梅澤 和夫 関 知子 中川 儀英 猪口 貞樹
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.219-224, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

家禽や野鳥が保有する低病原性鳥インフルエンザウイルスであってもヒトが死に至る例が報告されており, これまで定説となっていた豚由来のウイルス感染とは違うルートが推測される。鳥からヒトへの感染に関する最近の文献調査, およびモンゴルへの調査視察を踏まえ鳥から直接感染するインフルエンザの動向を本稿では報告する。アザラシのインフルエンザ, 日本のイノシシのインフルエンザ, 豚便所, 北米大陸における豚のインフルエンザ, H7N9の動向, スペイン風邪, シアル酸レセプタなどを文献調査した。その結果, ヒト側の遺伝子の発現の仕方の違い (シアル酸レセプタ), ウイルス側遺伝子再集合, RNAポリメラーゼの読み違いなどにより, 鳥型インフルエンザが直接ヒトに感染し, 重篤な症状を引き起こす可能性がある。臨床医としてこれらの報告を鑑み, 患者の感染ルートには常に十分な注意を払うべきと考える。
著者
網野 真理 吉岡 公一郎 鈴木 陽介 上村 春良 福嶋 友一 櫻井 馨士 守田 誠司 大塚 洋幸 中川 儀英 山本 五十年 児玉 逸雄 猪口 貞樹 田邉 晃久
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.SUPPL.3, pp.S3_138-S3_138, 2009 (Released:2015-01-23)

本邦においては硫化水素による自殺者が2008年の1年間のみで1,007人にものぼり社会的に深刻な問題になっている. 今回われわれは, 重篤な意識障害と呼吸不全に心筋障害を合併した硫化水素中毒患者の救命に成功し, 心筋障害の回復過程を心臓核医学検査により評価し得たので報告する. 症例は32歳, 男性. 自ら硫化水素を発生させて吸入自殺を図り, 救急車で当院救命センターに搬送された. 来院時の身体所見では, 除脳硬直肢位, 口唇のラベンダーブルー斑, 腐卵臭を呈し, 両側肺野では湿性ラ音が聴取された. 硫化水素中毒に伴う意識障害, 呼吸不全, 肺炎, 横紋筋融解症と診断し, 人工呼吸器管理, 高濃度酸素投与にて集中治療室へ入院. 第2病日には肺炎による敗血症性ショックを発症, 第3病日には横紋筋融解症の進行と心筋障害の新規出現が認められた. さらに第5病日には心原性ショック, 肺水腫が出現したが, 第7病日には人工呼吸器からの離脱に成功した. 第14病日は心筋血流イメージとして99mTc-tetrofosmin (TF), 心筋脂肪酸代謝イメージとして123I-BMIPP, 心臓交感神経イメージとして123I-MIBGを施行可能であった. TF, BMIPPでは前壁の一部, 下壁~後壁における集積低下が認められ, MIBGでは高度交感神経障害が示唆された. 同時期に施行した冠動脈CTにおいて冠動脈の有意狭窄はなかった. 心筋障害に対する内服加療としてカルベジロールおよびエナラプリルを投与し, 第38病日に退院となった. 受傷6カ月後の心電図および心臓超音波検査では, 左室壁運動は正常化し心臓核医学検査ではTF, BMIPPにおける前壁, 下壁~後壁の集積低下は改善した. MIBGにおいては, wash out rateは改善した. 以上の臨床経過から, 内因性の急性心筋梗塞, たこつぼ心筋症, 急性心筋炎の可能性は低く, 硫化水素による心筋障害と考えられた. 本症例は重篤な硫化水素中毒からの急性期離脱後, およそ6カ月の経過を経て心筋障害の改善傾向を示した貴重な症例である.