著者
藤綱 隆太朗 白川 和宏 石田 径子 井上 聡 鳥海 聡 金子 翔太郎 土屋 光正 宮嶌 和宏 三吉 貴大 植松 敬子 金尾 邦生 春成 学 竹村 成秀 進藤 健 塩島 裕樹 荘司 清 齋藤 豊 田熊 清継
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.285-287, 2018-12-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
14

ナツメグは香辛料としてハンバーグなどの肉料理に用いられ, わが国でも容易に入手可能である。欧米では急性中毒を起こす原因物質として一般的に知られており, 死亡例も報告されている。米国の報告では自殺目的の大量摂取のほか, 意図せずにナツメグ中毒となっている例も半数以上を占めている。しかしわが国では症例報告は少なく, 中毒の原因としてはあまり知られていない。本症例は香辛料としてナツメグ10gを摂取した。その後, 浮遊感, 動悸などが出現, 不穏となった。自身でインターネット検索し, ナツメグ中毒の症状と合致することに気づき, 救急要請した。来院時, 不安感と口渇感を訴え, 興奮気味であったが, 安静にて経過観察を行い, 症状は改善した。本症例は患者自らのナツメグ摂取の申告により診断に至ったが, 本人の自覚なくナツメグ中毒に至る症例もあると思われる。そのため, 急性の精神異常を呈した症例では原因中毒物質として鑑別にあげる必要があると考える。
著者
谷口 枝穗 増澤 佑哉 島谷 直孝 多村 知剛 上野 浩一 栗原 智宏 本間 康一郎 佐々木 淳一 田口 寛子 新庄 正宜 武内 俊樹
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.475-478, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
11

【背景】今回, 水痘を罹患した後に脳梗塞を発症した小児の1例を経験したので報告する。【症例】4歳の男児。右上下肢脱力で当院へ救急搬送された。来院後, 救急外来で一過性の右上下肢麻痺および構音障害が確認された。頭部MRI検査拡散強調画像で左内包後脚に高信号域, MRA検査で左中大脳動脈本幹の血管狭小所見を認め急性期脳梗塞と診断し, 同日入院した。入院5週間前に水痘罹患歴があり, 入院時の髄液検査より水痘・帯状庖疹ウイルス (varicella zoster virus : VZV) DNAが検出され, 水痘罹患後の血管炎による脳梗塞と診断した。アシクロビル (Aciclovir : ACV), プレドニゾロン (Prednisolone : PSL), 抗血栓薬投与により症状は単相性に改善し, 第18病日に自宅退院となった。【考察】小児期の脳梗塞の原因は, 成人と比較し多岐に渡り, 水痘罹患も主要な原因の一つである。小児脳梗塞症例においては, 基礎疾患の検索のほか, 水痘をはじめとした感染症の罹患歴ももれなく聴取することが重要である。
著者
鈴木 恵輔 加藤 晶人 光本 (貝崎) 明日香 沼澤 聡 杉田 栄樹 中村 元保 香月 姿乃 井上 元 柿 佑樹 中島 靖浩 前田 敦雄 森川 健太郎 土肥 謙二
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.35-38, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
10

ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬であり過量内服により多彩な中毒症状を呈するが, 重症例では最悪死に至ることがある。近年インターネットなどで取り上げられ, 自殺目的での中毒症例の増加が懸念されている。今回, 市販の抗ヒスタミン薬の大量服薬により心肺停止に至った症例を経験したので報告する。17歳女性。公園内で倒れているところを通行人が発見し救急要請。ジフェンヒドラミン12,000mg内服したと推定され, 救急隊現着時には心肺停止状態であった。当院救命救急センター来院時も心肺停止状態であり蘇生することはできず永眠となった。後日ジフェンヒドラミンの血中濃度を測定したところ, 来院時の血中濃度は26.73µg/mLと過去に報告されている心肺停止症例と比較しても高値であった。OTC医薬品として簡単に手に入る薬剤での死亡症例のため治療側も販売側も十分に注意していく必要があると考えられる。
著者
杉村 真美子 竹本 正明 金澤 将史 今村 友典 中野 貴明 戸部 有希子 伊藤 敏孝
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.275-277, 2018-12-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
3

症例は, 14歳女子2人。2カ月ほど前から2人で自殺することを計画してインターネットで情報を集め, 通販サイトで浮揚用のヘリウムガスを購入していた。ヘリウムガスをビニール袋で互いに吸わせ合ったが死ねず, 警察へ連絡し, 警察から救急要請となった。ヘリウムガスを密閉状態で吸入できていなかったため, 身体的にも検査上も明らかな異常は認めなかった。様子観察のため入院としたが問題なく, 精神科診察の後, 退院となった。浮揚用のヘリウムガスには酸素が添加されていないため, 密閉状態で吸入すると窒息死する。この情報はインターネットで気軽に得ることができ, さらにインターネットの通販サイトで誰でもヘリウムガスを気軽に入手することが可能である。今回のように若年者でも身元確認なく手軽に購入できるため注意が必要であり, 早急な対策が必要である。
著者
宮崎 百代 小林 憲太郎 山本 真貴子 松田 航 廣瀬 恵佳 植村 樹 佐々木 亮 木村 昭夫
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.392-395, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
7

脂肪吸引術は, 体形の美容的改善を目的とした保険外診療である。手術は全身麻酔下で小さな切開孔から盲目的に広範囲の脂肪吸引を行う。外来手術で行われる症例が多いが, 時に術後当日に救急搬送を要する患者が発生し, 救急部門でその合併症治療に迫られることがある。今回われわれは, そのような患者の実態調査と他院保険外診療による合併症患者の診療請求のあり方を後方視的に検討した。2年半の間に該当症例は4症例であり, 全患者が入院診療を必要とした。半数は輸血を要するほどの貧血を呈していた。また併発した合併症に対し手術療法が必要となった症例もあった。当院当科では, 事務部門と協議し, 東京保険医協会のコメントをもとに保険診療としたが, 診療費は多額になる症例もあり, 保険診療とすることで公的医療費の負担が増すことを考えると, 手術した施設に支払いを請求するなど他の対策も講じる必要がある。
著者
村田 健介 岡本 健 池上 さや 川崎 喬彬 唐津 進輔 近藤 豊 松田 繁 田中 裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.307-309, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

家庭常備薬の「正露丸」を200錠内服し, 木クレオソート中毒に至った1例を経験した。症例は67歳の女性で, 原因不明の意識障害で当院に救急搬送された。意識レベルはGlasgow Coma Scale E3V1M4であり, 気管挿管し入院とした。CTや血液生化学検査で明らかな意識障害の原因は断定できなかった。第2病日に意識が改善し, 入院前日に下痢症状に対して正露丸を200錠内服したことが判明した。第5病日をピークとした軽度の肝逸脱酵素の上昇が出現したが改善し, 第6病日に精神科に転科となった。正露丸は日本において家庭常備薬の下痢止めとして長年親しまれている薬である。その主成分は木クレオソートであり, 大量内服症例では木クレオソートに含まれる少量のフェノールによる嘔吐や血圧低下, 意識障害, 遅発性肝障害等の症状が出ることがあり注意が必要である。
著者
道下 貴弘 大井 康史 山縣 英尋 高橋 充 白澤 彩 伊巻 尚平 竹内 一郎
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.329-332, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
4

70歳代女性。既往歴に糖尿病, 高血圧, 慢性腎臓病 (StageG4) を認め, 変形性膝関節症のためリハビリを行っている患者。リハビリ中に体調不良を訴えたため救急要請された。救急隊接触時BP 64/39mmHg, HR 32/分と血圧低下, 徐脈を認め当院救命救急センターに搬送となった。来院時HR 29/分の徐脈が持続しており, 心電図ではP波の消失を認め, 採血でカリウム8.7mEq/Lと高カリウム血症を認めた。高カリウム血症に伴う徐脈と診断し, 血液透析と一時的ペースメーカーの挿入を施行した。血液透析にて高カリウム血症は改善し, 自己脈も安定してきたため第3病日にペースメーカーを抜去した。その後カリウム値の再上昇はなく, 第7病日に退院となった。高カリウム血症の原因として2週間前より通常量の3倍以上の青汁を摂取していたことがわかり, 原因として青汁の過剰摂取が考えられた。慢性腎不全の患者においては栄養指導等のサポートも重要であり, 健康食品は本人の状態に応じた適切な使用法が望まれる。
著者
進藤 博俊 山岸 利暢 長岡 毅 坪井 謙 松本 建志 守谷 俊
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.271-273, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
12

症例は67歳男性。腰痛のために鍼灸院で治療を受けた。治療後3時間半後から呼吸困難感が出現した。徐々に増悪し, 当院に救急搬送された。来院時は著明な頻呼吸と酸素化低下, 両側呼吸音減弱を呈していた。肺エコーで両側性気胸を疑い, 胸部X線で両側性気胸と診断した。両側に静脈留置針で緊急脱気し, 続けて胸腔ドレーンを留置し入院した。経過は良好で第5病日に退院となった。鍼灸治療の合併症としての両側性気胸は稀である。鍼の安全刺入深度は前胸部8〜26mm, 背部20mm前後と報告されている。本症例では, CTで両側気胸を起こし得る基礎疾患を認めなかったこと, 鍼治療に40mmの鍼を使用していたこと, 鍼治療後から症状が出現したことなどから鍼治療に伴い両側性気胸を発症したと考えられた。診断には身体所見や, ベッドサイドでの画像診断が肝要である。肺エコーは有用なツールであり迅速な早期診断, 治療介入において有用である。
著者
久村 正樹 百瀬 ゆずこ 久野 慎一郎 福島 憲治 有馬 史人 今本 俊郎 大井 秀則 重松 咲智子 中村 元洋 淺野 祥孝 亀田 慎也 橋本 昌幸 安藤 陽児 園田 健一郎 輿水 健治
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.267-270, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
10

症例は44歳男性。救急搬送3カ月前より原因不明の右下腿全体の疼痛を自覚し, 整形外科, 脳神経外科で精査され, 線維筋痛症の診断で整形外科からプレガバリンの投薬治療が開始された。疼痛は改善せず, 程なく睡眠障害を自覚するようになった。救急搬送1週間前からは改善しない疼痛を悲観し, 希死念慮を訴えるようになった。X月Y日, 自宅で頸部と胸部を自ら刺し, 倒れているところを家族に発見され救急搬送された。病着時は心停止であり, 蘇生に反応せず死亡確認した。線維筋痛症は原因が不明の「身体疾患とも精神疾患とも言い切れない」疾患であり心身両面の治療が必要である。本症例は投薬治療のみがされていたが, 救急医療者が線維筋痛症などの慢性疼痛を正しく理解すること, また救急現場から慢性疼痛患者に標準治療を提供することは, 慢性疼痛治療を望ましい方向にするのみならず, 患者の救急医療受診を回避できる可能性があり重要であると考えられた。
著者
池谷 友里 野口 航 兼島 博嗣 白水 翔 迫田 直樹 辻 友篤 山本 理絵 守田 誠司 中川 儀英
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.192-194, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
5

症例は急性カフェイン中毒の36歳男性。嘔吐, 不穏状態, 頻脈性不整脈を認め, 摂取量が致死量を超えていたため, 緊急血液透析を行った。この症例では, 血液透析前後で血中カフェイン濃度に比例して乳酸値も低下した。その後, 合併症もなく, 8日目に退院した。これまでの研究で, 血中カフェイン濃度と乳酸値の正の相関が報告されており, 血液透析前後でも正の相関を示す可能性がある。乳酸値は血液透析の効果を判断する指標となる可能性がある。
著者
野口 裕司 金子 直之
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.234-237, 2019-12-31 (Released:2019-12-31)
参考文献数
12

はじめに : 除草剤であるパラコート (PQ) は, かつて自殺企図や殺人目的の使用が社会問題になり, 本邦では1999年に生産が中止された。しかし古くから所持している人は少なくなく, また現在もPQ・ジクワット合剤 (PGL) が販売されている。今回我々は3年間で3例の自殺企図を経験した。症例1 : 53歳男性。PGLを飲用し6病日に受診。急性腎不全と肺線維化を認め持続的血液濾過透析 (CHDF) を導入。9病日にCHDFは離脱したが肺線維症が増悪し17病日に死亡。症例2 : 86歳男性。青い液体を吐いて痙攣しているのを家人が発見。救急隊接触時に心肺停止状態。警察の調査でPGLが発見され自殺と断定。症例3 : 78歳男性。自室で苦しんでいるところを家人が発見。救急隊がPGLを発見し搬送。来院時ショック状態で6時間後に死亡。おわりに : 現在市販のPGLの致死率は依然高く, 諸外国では既に厳重に規制されており, 本邦においてもより厳重な行政介入が望まれる。
著者
村田 健介 岡本 健 池上 さや 川崎 喬彬 唐津 進輔 近藤 豊 松田 繁 田中 裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.307-309, 2020

<p>家庭常備薬の「正露丸」を200錠内服し, 木クレオソート中毒に至った1例を経験した。症例は67歳の女性で, 原因不明の意識障害で当院に救急搬送された。意識レベルはGlasgow Coma Scale E3V1M4であり, 気管挿管し入院とした。CTや血液生化学検査で明らかな意識障害の原因は断定できなかった。第2病日に意識が改善し, 入院前日に下痢症状に対して正露丸を200錠内服したことが判明した。第5病日をピークとした軽度の肝逸脱酵素の上昇が出現したが改善し, 第6病日に精神科に転科となった。正露丸は日本において家庭常備薬の下痢止めとして長年親しまれている薬である。その主成分は木クレオソートであり, 大量内服症例では木クレオソートに含まれる少量のフェノールによる嘔吐や血圧低下, 意識障害, 遅発性肝障害等の症状が出ることがあり注意が必要である。</p>
著者
山本 裕記 船登 有未 小林 憲太郎 佐々木 亮 木村 昭夫
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.101-106, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
14

さまざまな患者が訪れる救急外来では, 搬送後に新型コロナウイルス感染症 (以下, COVID-19) が偶発的に判明し, 感染対策上問題となることがある。そこで, 救急外来で来院時にCOVID-19を強く疑っていない患者のうち, COVID-19に罹患している患者の割合を明らかにし, 感染対策の観点からどのように対応をしていくべきかを検討した。2020年5月26日~2021年10月31日の間に国立国際医療研究センター病院救急外来を受診し, 来院時にはCOVID-19を強く疑わなかった患者のうち, COVID-19の併発が判明した患者の診療録を後方視的に調査した。偶発的にCOVID-19が判明した患者は49名 (0.20%) であった。偶発的にCOVID-19が判明した患者のうち, 41名はCOVID-19の蓋然性を評価したチェックリストに該当項目があり, 残りの8名は意識障害のため評価困難であった。COVID-19を疑う症状に乏しくても, チェックリストによるスクリーニングで検査前確率を上げる努力を行いながら, 大流行期ではその項目を評価できない患者に対してより積極的にPCR・抗原検査を行うことが感染対策上で重要である。
著者
浪方 悠 大屋 聖郎 森野 杏子 竹下 諒 水野 廉 植地 貴弘 入福浜 由奈 柏 健一郎 三田 直人 中森 知毅 木下 弘壽
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.274-276, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
15

今回われわれはカルシウム拮抗薬, アンジオテンシン II 受容体拮抗薬, ベンゾジアゼピン系抗不安薬中毒によるショック状態に陥った症例を経験したので報告する。症例は61歳, 女性。ショック状態にて当院へ搬送された。聴取した病歴からカルシウム拮抗薬中毒が主病態であることが推測された。輸液に対する循環動態の改善に乏しく, ノルアドレナリンに加え, グルカゴン, グルコン酸カルシウムによる治療が奏功した。カルシウム拮抗薬中毒は徐脈, 低血圧の遷延によりしばしば致死的となり得る。薬剤の作用機序と疾患特異的な治療法を習熟し治療を行う重要性が示唆された症例である。
著者
吉田 徹 堤 健 栗栖 美由希 岩井 俊介 三上 翔平 吉田 稔 若竹 春明 北野 夕佳 桝井 良裕 藤谷 茂樹 平 泰彦
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.221-225, 2019-12-31 (Released:2019-12-31)
参考文献数
11

向精神薬によるARDS (acute respiratory distress syndrome) の報告は限られており, また, ARDSや薬物中毒に対してECMO (extracorporeal membrane oxygenation) の有用性が指摘されている。【症例】20歳代女性。うつ病等で精神科通院中。フェノチアジン系抗精神病薬, ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬, オレキシン受容体拮抗薬, ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の過量服薬を行い, 服用後約5時間で救急搬送された。来院時意識レベルE3V5M6, その他バイタルサインに大きな所見はなかった。入院後に低酸素血症出現, 胸部単純X線で肺水腫の所見を認めた。人工呼吸管理を施行するも心停止し, VA-ECMOを導入した。頭部・上肢の酸素化不良に対しVVA-ECMOとした。第6病日にVVA-ECMOを離脱, 第32病日に転院した。【考察・結語】本症例は, ARDSから心停止, VVA-ECMOを必要とした。過量服薬した原因薬剤のうち, フェノチアジン系抗精神病薬以外は今までARDSの報告はなく, 注意が必要と考えられた。
著者
木村 龍太郎 竹本 正明 杉村 真美子 金澤 将史 今村 友典 中野 貴明 伊藤 敏孝
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.262-264, 2018-12-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
1

【症例】14歳, 女性【主訴】左示指刺創【現病歴】家庭科の授業中にミシンを用いて裁縫中に誤って左示指の末節にミシン針が刺さり救急要請となった。救急隊はミシンを破壊し本体の一部をつけたまま搬送した。【来院後経過】救急外来にて針に付着した布押さえの部分を工事用ペンチで破壊した。針と糸が共に指を手背側から手掌側へ貫通している状態であった。左示指に局所麻酔し, 針の末端部分の一部を切断し, 手掌側の針の先端をペンチで把持して引き抜くように糸と共に除去した。除去後, 止血を確認し, 帰宅とした。【考察】ミシンの縫い目は2本の糸が絡み合うことによって作られる。その構造上ミシン針の糸通しは針の先端についているためミシン作業中の刺創では針と共に糸が必ず体内を通過する。その構造を把握しないで針だけを抜去すると糸が皮膚の中に残存することがある。ミシン針の貫通創の処置では抜去時にミシンの仕組みを知る必要があると考えた。
著者
中村 元保 加藤 晶人 井上 元 鈴木 恵輔 中島 靖浩 前田 敦雄 森川 健太郎 八木 正晴 土肥 謙二
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.407-410, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
7

症例は89歳の女性。身長147cm, 体重43kgと小柄で慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease : COPD) の既往歴がある。1カ月前から呼吸困難を自覚していた。朝に呼吸困難が増強したためにツロブテロールテープ2mgを1枚胸部に貼付したが, 症状改善ないために夕方に2枚目を胸部に追加貼付した。追加貼付2時間後から動悸, 嘔気を自覚したために救急要請した。救急隊到着時は意識レベルJCS1であったが, 嘔吐が出現し意識レベルJCS100まで低下し当院へ救急搬送された。搬送時意識障害は改善傾向であり, 胸部に貼付されていたツロブテロールテープ2枚を剝離したところ動悸と嘔気が消失した。臨床症状よりツロブテロールテープによる中毒症状が疑われた。貼付薬は容易に自己調整できるが, 高齢者や乳幼児など管理能力に問題がある場合や, 低体重の症例では使用方法に注意が必要となる。また, 救急対応の際には全身観察での貼付薬の有無の確認も必要となってくる。
著者
岸本 真治 立石 順久 奥 怜子 橋口 直貴 中西 加寿也
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.207-211, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
10

心筋炎など呼吸不全以外のCOVID-19に伴う病態についてはいまだ不明な点が多い。今回, 呼吸不全を伴わない重症心筋炎症例を経験したので報告する。症例は新型コロナウイルスワクチン未接種の47歳, 女性。倦怠感を主訴に来院した。SARS-CoV-2関連検査が陽性で, 血液検査や心臓超音波, 心電図, 冠動脈造影検査の結果からCOVID-19関連心筋炎と臨床的に診断した。来院時ショック状態でVA-ECMOでの補助を要したが, 次第に心機能は回復し離脱できた。なお経過中, 呼吸状態は安定していた。COVID-19には呼吸不全を伴わない心筋炎のみの症例も存在することに留意し, ショックを呈する症例では, 心筋障害を評価する目的で心筋トロポニンを測定することがCOVID-19早期発見のために有用と考えられる。またCOVID-19関連心筋炎は急速に劇症化し得ることから, 早い段階から集学的治療が可能な医療機関での治療が望ましい。
著者
藤井 裕人 古谷 良輔 宮崎 弘志
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.411-414, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
11

洗濯用パック型液体洗剤 (以下LDP), いわゆるジェルボールは2014年に日本で発売が開始された。われわれはLDPを誤飲した認知症を有する高齢患者の症例を経験した。86歳の男性。自宅で嘔吐と下痢をしていたため医療機関に搬送された。胃管を挿入すると泡立つ排液が吸引され, 洗剤の香りを認めたため洗剤誤飲と診断された。加療目的で当救命センターへ搬送された。家族の話から自宅にあったLDPを誤飲したことが判明した。来院時は肺炎, 急性腎障害, 脱水を認めた。酸素投与, 補液, 肺炎に対して抗菌薬の投与を行った。27日間の入院加療後に自宅へ退院となった。海外においては認知症患者のLDP誤飲による死亡事故が発生しているが, 日本では認知症患者のLDP誤飲に対する危険性の認識は乏しい。医療従事者はその危険性を認識するべきである。また, 認知症患者の介護者に対しての情報提供が必要である。
著者
古元 謙悟 小森 大輝 入山 大希 日浦 とき雄 戒能 多佳子 阿部 智一
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.127-131, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
7

救急救命士は主に病院前救急医療を担っているが, 近年は病院に勤務する救急救命士が注目されている。2021年度から, 茨城県つくば市にある二次救急医療機関で新たに救急救命士の運用を開始した。現在の業務には, 救急外来での患者対応と自施設の救急車を用いた転院搬送がある。救急外来での患者対応には, 救急車到着前の受け入れ準備, 到着後の初期評価, 患者の移送, 静脈路確保を含む医療行為, 医師の処置介助が含まれる。緊急度や重症度の把握に長けた救急救命士は, スムーズな診療と外来ベッドコントロールの回転率上昇に貢献しているほか, 蘇生処置において気道管理や胸骨圧迫で診療に参加している。また, 転院搬送の際は自施設の救急車を用いることで迅速な対応が可能になり, 公的救急車の負担軽減にも寄与している。今後は, 救急外来で気管挿管を行う体制の確立や, 転院元へ転送患者を救急車で迎えに行くなどして, 地域医療へのさらなる貢献を目指していく。