著者
大山 利男
出版者
日本有機農業学会
雑誌
有機農業研究 (ISSN:18845665)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.6-14, 2017-09-30 (Released:2019-05-21)
参考文献数
17

国際的にみたとき,とくにヨーロッパ諸国では,有機畜産の発展画期にはつぎのような時代背景を認めることができる.1960~1970年代:アニマルウェルフェアの関心の高まり,1980~1990年代:環境問題への社会的関心の高まりと農業環境政策の展開,それと親和性の高い有機農業の普及拡大,粗放化プログラムと親和性のある有機畜産の拡大,1990~2000年代:BSE危機の大きなインパクト,有機畜産物への需要急増,2000~2010年代:アニマルウェルフェア法制の国際化,飼料生産の地域指向の高まり(反GM, ローカル志向の強まり)もちろん各国により社会背景や経済状況が異なれば,同じように有機畜産が普及拡大する訳ではない.しかし表3に見るように,有機畜産の普及展開状況に大きな彼我の差があることは明らかである.本稿のタイトルは,「有機畜産に問われる課題と論点」であるが,つきつめれば日本の「慣行畜産に問われる課題と論点」でもある.毎年,データを更新して刊行されている『世界の有機農業:統計とトレンド』(Willer and Lernoud 2017)でも明らかであるが,世界の有機農業を全体としてみれば,多かれ少なかれ有機農業の半分は耕種部門であり,あとの半分は畜産部門である.南北アメリカやオセアニアの新大陸国家は別としても,またアジア地域は極端に少ないが,ヨーロッパ諸国の有機農業の土地利用割合を一つのモデルとみれば,有機農地の半分が永年草地,永年性作物で占められている.言うまでもなく永年草地は畜産的利用に供されている土地である.豚,鶏(中小家畜)はともかく,肉牛,乳牛(大家畜)などの反芻動物(草食家畜)が有機畜産には大きな位置を占めており,有機畜産の土地利用管理は国土利用に貢献しているのである(Willer and Lernoud 2017: 78-85).こういった畜産を前提とする時,有機畜産は粗放的で低投入の飼養管理が基本であることがわかる.したがって,有機畜産物の生産費も必ずしも高い訳ではない.少なくともヨーロッパ諸国の有機畜産(慣行畜産もそれほど違わないようだが)は,土地生産性を低下させるが,労働生産性,資本生産性をむしろ高める傾向にあるという報告が少なくない(Rahmann and Godinho 2012).それらを丁寧に検証することは今後の課題としたいが,このような有機畜産の生産技術,経営管理の特徴と趨勢をみると,日本の畜産はかなり大胆な見直しが迫られるかもしれない.有機畜産に問われる課題は,そのまま慣行畜産に問われる課題でもあると考えるからである.
著者
立川 雅司 三上 直之 櫻井 清一 山口 富子 大山 利男 松尾 真紀子 高橋 祐一郎
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、食品安全におけるゼロ・トレランスを消費者に訴求する傾向がみられ(「不使用」「検出ゼロ」など)、消費者もこうした情報に敏感に反応する傾向がある。ゼロトレ対応は様々な問題を生じさせており、その実態解明と対応方策が求められている。本研究の目的は、こうした対応、言説に着目し、複数の事例を比較分析しつつ、その背景と影響、関係者間での合意基盤を明らかにすることである。本研究では、食品安全に関してゼロトレ対応の諸問題に関して、多角的に分析するとともに、政府による情報発信の課題を明らかにした。またゼロトレ志向の消費者の特徴を明らかにすると共に、模擬的討議を通じて合意基盤の可能性について検討した。