著者
大山 祐輝 山路 雄彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-68_1-I-68_1, 2019

<p>【はじめに,目的】側臥位からの起き上がり動作時の下側の上肢位置は,先行研究より肩関節を60°屈曲位に設定することが望ましいとされる.しかし,実際の臨床場面においては,ベッド幅の狭さや,側臥位となる際にベッド柵を用い上肢を引き込み,側臥位での肩関節屈曲位が,60°以下になっていることが多い.また,筋電図学的研究では,腹筋群を着目したものが多い.そこで,本研究では,異なる肩関節屈曲位での側臥位からの起き上がり動作における,肩甲骨周囲筋特性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】整形外科的疾患の既往がない,健常成人男性13名を対象とした.対象動作は右側臥位からon elbowまでの起き上がり動作とした.施行条件は,開始肢位より①肩関節屈曲0°(条件①),②肩関節屈曲60°(条件②)とした.条件①は,肘関節は90°屈曲位とした.施行時間は,1secに設定した.各条件を3施行ずつ実施した.筋活動は表面筋電計(日本光電社製:WEB-7000)を用いて測定した.導出筋は,右側の三角筋後部線維,僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維,左側の外腹斜筋の4筋とした.表面筋電図はサンプリング周波数1000HzでA/D変換した.動作時より得られた各対象筋における筋電図波形は,最大随意収縮(maximum voluntary contraction;以下,MVC)発揮時の積分値で除することによって筋活動量(以下,%MVC)を求めた.角度に関して,各条件での動作終了時の右肩関節外転角度を測定した.解析方法に関して,条件間の比較にて①動作開始後0.1sec,②筋収縮ピーク前後0.1sec,③動作終了後1secの各筋の%MVCを対応のあるt検定にて比較した.有意水準は5%とした.</p><p>【結果】動作開始後0.1secに関して,全ての筋の筋活動量に有意差を認めなかった.筋収縮ピーク前後0.1secに関して,僧帽筋下部線維のみ,条件①(43.2%)が条件②(24.4%)と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了後1secに関して,全ての筋において,条件①は条件②と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了時の右肩関節外転角度は,条件①(37.9°)は条件②(61.0°)と比較し有意に小さかった.</p><p>【考察】条件①の動作は条件②と比較し,筋収縮ピーク時に肩甲骨は上方回旋へ作用し,それを制御するために僧帽筋下部線維の活動が高まったと考えられる.また条件①は動作終了時の肩関節外転角度が小さく、すなわち支持基底面が条件②と比較し小さくなり,on elbow肢位保持により大きな筋活動を要することが考えられた.</p><p>【結論】上肢を引き込んだ状態での側臥位からの起き上がり動作は,肩甲骨の固定や肢位保持に大きな筋活動を必要とするため,上肢位置の調整や,体幹だけでなく肩甲骨周囲筋の筋力強化が必要であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,医療法人社団日高会日高病院の医療倫理委員会の承認を得た(承認番号:126).全ての対象者には,ヘルシンキ宣言に従い,本研究の目的,方法,利益,リスクなどの口頭および文書で説明し同意を得た.なお,同意は本人のサインをもって研究参加に同意したものと判断した.また,収集したデータは機密情報として扱い,研究者のコンピュータ内のみで解析され,研究者のみが知る登録番号で管理されることに加え,参加するかしないかは完全に本人の自由意志であることも加えた.</p>