著者
大山 雄己 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.810-817, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
19

歩行者の活動を主眼に置いた外部空間デザインが都市政策上の関心を集めている.歩行者の回遊行動は高解像度な空間選択行動を基本とし,また時間配分的な性質を持つ.本研究では街路空間再配分政策を対象として取り上げ,歩行者活動への影響を明示的に考慮した政策決定問題,すなわち歩行者の活動ネットワークデザイン問題を提示する.需要サイドから回遊行動モデルの理論的展開は見られる一方,歩行者政策を扱う供給サイドの研究がこれまでに進んでいなかった.大山・羽藤(2016)の活動配分手法を需要モデルとして用いて,地区の総滞在時間あるいは期待効用を最大化させる歩道幅員拡幅街路の決定問題を考える.一方で投資額は可能な限り抑えたいという政策課題に対応するため,多目的最適化問題による定式化を行い,ネットワーク更新法を用いて求解する.これにより,投資額に応じた最適ネットワークのヴァリエーションを提示する.結果として,トレードオフの関係が明確に見てとれるパレート解の集合を得た.また,目的関数の選択に応じた街路の配置パタンが明らかとなり,商店街・百貨店・地区のエントリーポイント等の間の接続方策についての示唆を得た.
著者
大山 雄己 福山 祥代 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.375-380, 2014-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1

広場や街路といった,歩きを主眼においた公共空間整備に注目が集まっている.近年多くの都市において,1つの目的施設のみに滞在後すぐに帰るといった限定的なまちなかの使われ方が問題として多く見受けられることからも,小滞在を発生させて連鎖的な回遊行動を生み,まちなかの滞在時間を延ばすための空間計画の展開が求められている.本研究では回遊中の一連の活動間の相互依存性を考慮するため,「活動欲求」を導入した離散連続モデルによって活動の発生確率を定式化した.細かな滞在を把握し,正確な滞在時間の情報の得られるプローブパーソンデータを用いて回遊行動の分析を行なった.現状の課題として,来訪者の多くが「1つの目的施設のみに滞在後,すぐに帰る」行動をとっていること,小滞在の発生は流入地点と主目的地の1往復の間という限られた範囲であることを把握した.モデリングにおいて活動欲求を考慮したことで,推定結果からは連鎖的活動を発生させて滞在時間を向上させるための現実の施設配置,街路の接続方法など,都市空間の計画に対する有効な示唆を得た.
著者
大山 雄己 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.643-648, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
8
被引用文献数
3 1

近年、都市縮退や健康、環境保護の流れの中で歩行者を中心とした街路空間の再配分の動きが見られるように、歩行者にとって快適な街路空間を整備する必要性が高まっている。本研究ではこのような背景のもと、渋谷を対象として、街路空間が歩行者の経路選択行動に及ぼす影響を分析した。プローブパーソンデータを用いることでミクロな歩行者行動を分析し、街路レベルでの歩行者の行動様式を把握した。また、街路景観や微視的な構成要素を考慮した経路選択モデルの構築によって街路の空間特性と歩行者の経路選択行動との関係性の把握を試みた。その際、従来の研究では考慮されていなかった説明変数同士の多重共線性を考慮し、街路空間指標を集約化し、類型化した街路景観パタンをダミー変数として用いてモデルの推定を行った。その結果、相関のある構成要素同士を除いたモデルと同程度の精度が得られた。また、推定結果からは街路景観や微視的な要素、そして類似景観の連続性が歩行者の経路選択行動に影響を与えていることを確認した。特に歩行者が類似した景観の街路を選択する傾向からは、街路をネットワーク全体から見て戦略的に整備する重要性と、整備への知見を得た。
著者
大山 雄己 羽藤 英二
出版者
一般社団法人 交通工学研究会
雑誌
交通工学論文集 (ISSN:21872929)
巻号頁・発行日
vol.3, no.5, pp.1-10, 2017-07-01 (Released:2017-07-01)
参考文献数
21

既存の経路選択モデルは,ドライバーが直接的な経験を通じてネットワークに対する空間的知識を獲得していることを前提とし,大域的な経路の評価・選択をモデル化する.しかし災害時のネットワークにおいては,ドライバーは経験や情報を持たず,先読みを伴う近視眼的な判断が重要となる.こうした意思決 定の動学性を記述するため,空間割引率の概念を導入した一般化 RL(Recursive Logit) モデルを提案し た.数値計算では,空間割引率が経路選択行動の評価に与える影響だけでなく,本モデルが特殊ケースとして既存モデルの結果を含むことを示した.さらに,東日本大震災時の首都圏のデータを用いたパラメータ推定を行い,日常時のデータと比較した.結果として,災害時には近視眼的な意思決定が重視され,また経路選択メカニズムが動的に変化したことを明らかにした.