著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.401-408, 2009-10-10 (Released:2009-10-25)
参考文献数
23

胃食道逆流症(GERD)は欧米に多いと言われてきたが,食生活など生活習慣の欧米化,肥満の増加,酸分泌能の増加,Helicobacter pylori感染率の低下などから,わが国でも確実に増加傾向にある。GERDでは,胃から食道への逆流を防ぐ機構あるいは排出する機構が食道運動異常,下部食道括約筋の機械的あるいは機能的異常,食道クリアランス,胃内容の排出遅延などによって障害され,著しく生活の質(QOL)が損なわれている。わが国には非びらん性胃食道逆流症(NERD)や軽症の逆流性食道炎が圧倒的に多く,これら軽症のGERDが重症GERDに進行することは多くない。したがって自ずと治療目標は,自覚症状である胸やけ,呑酸などの症状改善や,これに伴う日常QOLの向上となる。最も有用な治療は胃酸分泌抑制であるが,この薬の効果が少ないときには治療に難渋することも多い。実際,食道粘膜傷害と症状が相関せず,NERDにおける,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の効果は50%程度と言われている。近年,GERD治療における漢方薬のエビデンスが得られつつある。六君子湯は,酸分泌を抑制することなく,食道クリアランス,あるいは胃排出能や胃適応性弛緩作用を介してGERD患者,特にNERD患者で症状を改善する可能性が考えられる。
著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.327-334, 2009 (Released:2009-03-05)
参考文献数
36
被引用文献数
1

内視鏡的に食道粘膜に異常を認めないにもかかわらず逆流症状が出現する非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease; NERD)は逆流症状を訴える患者の60∼70%を占め,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の奏効率は50%と逆流性食道炎患者に対する効果とくらべて低率である.近年NERDは逆流性食道炎の軽症型ではなく,異なる病態と考えられ,食道の酸や圧に対する知覚過敏やタイトジャンクションの破綻,侵害受容体の発現亢進,食道運動·収縮異常,心理的因子などの関与が指摘されている.治療は,個々の症例において他疾患の除外,あるいはオーバーラップを考慮しながら酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善薬,抗不安薬,抗うつ薬などの薬剤を選択する必要がある.
著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.1604-1610, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
44

近年,機能性消化管障害に関心が高まり,その病態生理のひとつとして"内臓知覚過敏"が深く関わっていることが明らかとなってきた.侵害受容体や神経伝達物質が内臓知覚過敏に関与することが明らかとなる一方で臨床の場では効果的な治療薬がなく治療に難渋することも多い.漢方医学は,医学教育においても取り入れられ,六君子湯や大建中湯は非びらん性胃食道逆流症,機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群にそれぞれ臨床効果を認めている.消化管知覚異常(特に内臓知覚過敏)に対する漢方薬の治療は,さらなるエビデンスの集積が必要であるが治療に難渋するこの知覚過敏に対する効果的な処方が明らかとなれば,臨床の場においても福音となると思われる.