著者
富田 寿彦 三輪 洋人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.29-35, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
8

便秘は,日常診療でごくありふれたcommon diseaseであるが,「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会,2017年)1)発刊前までは国内で統一された診療指針がなかったことから,医師は経験的に診療を行ってきた.同ガイドラインが2017年に初めて発刊され,浸透圧性下剤と上皮機能変容薬が便秘の薬物治療の第一選択薬とされ,膨張性下剤に関する評価は高くない.しかし,膨張性下剤は,耐性がなく,比較的安全且つ長期的に使用可能な薬剤であるため,各種薬剤の特徴を正しく理解し使用することで有用な場合がある.
著者
三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.10, pp.1911-1922, 2014-10-05 (Released:2014-10-05)
参考文献数
80

食道知覚は食道への刺激が侵害受容体および一次・二次知覚神経を介して中枢へと伝達されて生じる.これが病的に過敏となった食道知覚過敏は,非びらん性胃食道逆流症や機能性食道疾患における症状発生に大きな役割を果たしているが,その発生には粘膜の炎症やストレスが関与している.また,これまで胸やけ症状は傷害された食道粘膜内に胃酸がしみ込んで生じるという「しみこみ説」で説明されていたが,最近では酸が物理的にではなく食道上皮からの炎症性メディエーターの放出を介して症状をおこす可能性が論じられている.一方,明らかな逆流性食道炎があっても症状を示さない患者群の存在が注目されている.このように食道知覚・知覚過敏に関する研究は急速に進展している.
著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.401-408, 2009-10-10 (Released:2009-10-25)
参考文献数
23

胃食道逆流症(GERD)は欧米に多いと言われてきたが,食生活など生活習慣の欧米化,肥満の増加,酸分泌能の増加,Helicobacter pylori感染率の低下などから,わが国でも確実に増加傾向にある。GERDでは,胃から食道への逆流を防ぐ機構あるいは排出する機構が食道運動異常,下部食道括約筋の機械的あるいは機能的異常,食道クリアランス,胃内容の排出遅延などによって障害され,著しく生活の質(QOL)が損なわれている。わが国には非びらん性胃食道逆流症(NERD)や軽症の逆流性食道炎が圧倒的に多く,これら軽症のGERDが重症GERDに進行することは多くない。したがって自ずと治療目標は,自覚症状である胸やけ,呑酸などの症状改善や,これに伴う日常QOLの向上となる。最も有用な治療は胃酸分泌抑制であるが,この薬の効果が少ないときには治療に難渋することも多い。実際,食道粘膜傷害と症状が相関せず,NERDにおける,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の効果は50%程度と言われている。近年,GERD治療における漢方薬のエビデンスが得られつつある。六君子湯は,酸分泌を抑制することなく,食道クリアランス,あるいは胃排出能や胃適応性弛緩作用を介してGERD患者,特にNERD患者で症状を改善する可能性が考えられる。
著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.327-334, 2009 (Released:2009-03-05)
参考文献数
36
被引用文献数
1

内視鏡的に食道粘膜に異常を認めないにもかかわらず逆流症状が出現する非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease; NERD)は逆流症状を訴える患者の60∼70%を占め,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の奏効率は50%と逆流性食道炎患者に対する効果とくらべて低率である.近年NERDは逆流性食道炎の軽症型ではなく,異なる病態と考えられ,食道の酸や圧に対する知覚過敏やタイトジャンクションの破綻,侵害受容体の発現亢進,食道運動·収縮異常,心理的因子などの関与が指摘されている.治療は,個々の症例において他疾患の除外,あるいはオーバーラップを考慮しながら酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善薬,抗不安薬,抗うつ薬などの薬剤を選択する必要がある.
著者
大島 忠之 三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.1604-1610, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
44

近年,機能性消化管障害に関心が高まり,その病態生理のひとつとして"内臓知覚過敏"が深く関わっていることが明らかとなってきた.侵害受容体や神経伝達物質が内臓知覚過敏に関与することが明らかとなる一方で臨床の場では効果的な治療薬がなく治療に難渋することも多い.漢方医学は,医学教育においても取り入れられ,六君子湯や大建中湯は非びらん性胃食道逆流症,機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群にそれぞれ臨床効果を認めている.消化管知覚異常(特に内臓知覚過敏)に対する漢方薬の治療は,さらなるエビデンスの集積が必要であるが治療に難渋するこの知覚過敏に対する効果的な処方が明らかとなれば,臨床の場においても福音となると思われる.
著者
三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.109, no.10, pp.1683-1696, 2012 (Released:2012-10-05)
参考文献数
81
被引用文献数
1

機能性ディスペプシア(FD)は機能性消化管障害の1つで,器質的疾患がないのに胃が痛い,胃がもたれるなどのディスペプシア症状を慢性的に訴える疾患である.FD患者ではストレスを契機とした症状発現が特徴であり,ストレスに対する個体の応答性の異常がその病態の本質の1つと考えられる.その病因は,1)直接的に症状をおこす生理機能異常(胃運動機能異常,内臓知覚過敏),2)症状誘発を修飾する因子(胃酸分泌異常,H. pylori感染,精神心理的異常,食事・生活習慣),3)ストレスに対する応答異常を規定する因子(幼児期・成長期のストレス,遺伝子異常,感染後の残存炎症),に分けて考えるべきであろう.FDに対する現存の薬物治療の効果は概して低く,心療内科的アプローチとともに効果的な薬剤の開発が望まれる.
著者
三輪 洋人 佐藤 信紘
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.293-303, 2001-01-20 (Released:2014-11-12)
参考文献数
49

最近ヘリコバクター-ピロリ (以下H. pylori) の臨床的意義が明らかにされ, 最近胃疾患の治療が根底から変わりつつある. 除菌の対象に関しては, 今後のさらなる議論が必要であるが, 実際のH. pylori感染症に対する臨床的対応はそれほど困難なものではなく, H. pylori感染症をいかに診断し, そしてどのように治療するかに集約される. H. pylloriの診断法には大きく分けて, 内視鏡を用いる侵襲的診断法と内視鏡を用いない非侵襲的診断法がある. 非侵襲的診断法のうち, 13C尿素呼気テストは最も診断精度に優れた方法のひとつであるとされる. また, その優れた診断精度から除菌治療後の治癒判定にも積極的に用いられている. 血清診断キットは欧米からの輸入キットがほとんどであるが, 近年このキットを日本人にも用いると, その診断率が欧米での成績よりかなり劣ることが明らかとなり, 本邦独自での血清抗体の開発が待たれる. 最近尿を用いたIgG抗体検出キットが開発されたが, 従来の血清抗体測定法以上に良好な診断率が報告された. また, 便中H. pylori抗原測定法も実用化され, その信頼性に対しても検討もすすんできた. 除菌療法の世界の主流はプロトンポンプ阻害剤 (PPI) と抗菌剤2剤を用いた新3剤療法である. 欧米では除菌治療レジメに関して多くの論文が出されているが, これら欧米人で用いられる治療法が日本人でも有効かどうかについては新たな検証が必要である. われわれの多数例の検討では, 現在の日本における最適な治療法はPPIの2倍量 (1日2錠) にアモキシシリン1500mg, クラリスロマイシン400mgを組み合わせて7日間服用するPPI/AC療法であると考えている. 副作用は下痢や口腔内症状が主であるが, ほとんどは軽微で服薬率に影響を与えることは少なく, 安全な治療法でもある. H. pylori感染症の診断と治療は常に進歩しているが, 新しい方法や知識をいち早く取り入れ, そしてそれらの限界を見極めながら安全に効率よくH. pylori感染症の診断と除菌治療を行っていくことが肝要である.