著者
大方 昭弘 伊藤 絹子 片山 知史 本多 仁 大森 迪夫 菅原 義雄
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

砂浜浅海域に生息するアミ類は、沿岸魚類の生活上不可欠の食物源であり、浅海域魚類群集の生産構造の中核的地位を占めている。しかし、水深3m以浅の砂質海岸の砕波帯に生息するアミ類の生物生産過程および沿岸物質循環系における機能については明らかではない。本研究は、仙台湾砂質海岸の波打ち際斜面に生活し、数量的にも多いアミ類Archeomysis kokuboiの示す物質経済の特異性を明らかにし、浅海域生物群集との機能的結合関係を見いだすことを目的に行われ、下記のような結果が得られた。1.砕波帯における水深5m以浅に出現するアミ類のほとんどはArchaeomysis属であり、特に水深3m以浅にはA. kokuboi、3m-5mにはA. grebnitzkiiが卓越し、5-15mの水域にはAcanthomysis属が多い。魚類の胃内容組成にも、このような水深によるアミ類の分布状態の違いが反映している。2.汀帯の砂質斜面に生息するA. kokuboiの高密度分布域は、潮汐とともに移動するが、汀帯下端部からの距離はほぼ一定である。アミが潜砂するこの高密度域の砂の中央粒径値は2.0-2.3の範囲にある。日中は汀帯砂中に潜砂するものが多く、夜間には汀帯の沖側、水深1-2m付近を群泳しながら鞭毛藻やCopepodaなどを摂食している。3.水温15℃、照度0-100luxの条件におけるA. kokuboiのアルテミアを食物とする日摂食率は、湿重量で24.8%、乾重量で39.7%であった。1日24時間の摂食量のうち夜間は74.9%、昼間は25.1%であった。4.摂取されたアルテミアのアミ体物質への転化効率は、15℃において他の温度条件におけるよりも大きく、体長別にみると、小型が24.6-44.2%、中型が15.4-36.4%、大型が8.9-13.8%であり、成長とともに低下する。放射性同位元素Cでラベルしたアルテミアの投与量とアミ体内残留量との比は、12時間後52%、24時間後38%であった。5. A. kokuboiは一生の間に少なくとも2回以上産卵する可能性があり、個体群としては年間6発生群以上であることが確認された。4-6月生まれの群は成熟が速く小型で産卵し、11-1月生まれの群は成長が遅く、春季に大型群となって産卵に参加する。このように、本種は周年にわたって砕波帯魚類群集の生産構造の中核種として重要な役割を果たしていることが明らかにされた。