著者
柳井 清治 河内 香織 伊藤 絹子
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.167-178, 2006-12-20 (Released:2008-07-18)
参考文献数
44
被引用文献数
5 3

サケの死骸が河畔林生態系・および渓流生態系に及ぼす影響を明らかにするため, 豊富にシロザケの遡上回帰が観察される, 北海道東部網走管内のモコト川上流域において, サケの分解移動過程, および窒素安定同位体比を用いサケが河畔植生と水生動物へ及ぼす影響を推定した. この河川と同規模, 同土地利用の支流域でサケが遡上しない河川を対照河川とし, 比較を行った.この結果, サケの遡上は11月をピークとし, 死骸は河川内と陸域で観察され, その比率は3対1程度であった. 河川内に滞留しているものはほとんど水生菌が繁茂し水中で分解されるのに対し, 陸上に持ち上げられた死骸の多くは大型動物類に被食を受けたものが多かった. 河岸の死骸の5体に電波発信機を装着し移動距離を調べたところ, 3体は10m以内, 1体が500m程度移動したことが判明し, 少数であるが遠方まで運ばれている可能性が示された.次に河畔植生のハルニレ, アキタブキおよびヤナギ属葉の窒素同位体比を測定したところ, ハルニレ, アキタブキは対照河川に比べて高かったが有意な差とはならなかった. 逆にヤナギ属では対照河川と比べて低い傾向があった. 一方, 水生動物類 (ガガンボ科, コカゲロウ属, トウヨウマダラカゲロウ属, アミメカワゲラ科およびサクラマス) の窒素同位体比は対照河川に比べていずれも高く, 有意な差が見られた. 遡上前と遡上後の同位体比値を比較したところ, ガガンボ科を除き増加する傾向があった.以上の結果から, サケの影響は本調査河川においては河畔植物に関しては有意には現れず, 逆に水生動物群には明瞭に現れた. しかし陸上に持ち上げられた死骸の多くは大型哺乳類や鳥類の摂食を受けており, 一部は遠くまで運ばれている可能性があった. 今後はサケの死骸が陸上生態系の中でどのように利用されているかを明らかにすることが重要となる.
著者
宮地 俊作 對馬 孝治 伊藤 絹子 川端 淳 小川 奈々子 力石 嘉人 大河内 直彦
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2012

カタクチイワシ,マイワシは,胃内容物観察では前者は,主に動物プランクトン食といわれてきたがδ15N値には大きな変異があり,栄養段階(TL)は明確ではなかった.後者は主に植物プランクトン食といわれてきた.海洋食物網におけるKey speciesであるこれらのTLを決定することは,海洋生態系の生物多様性の保全と漁業管理において重要である.bulk法によるTLの推定は不確かなことがあった.近年,TL決定のために,一次生産者を採捕/分析せずに捕食者だけのアミノ酸毎のδ15Nを調べる方法が開発された.グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素安定同位体比の比較から,生物のTLを決定した.δ15Nが著しく幅広い変異を示したカタクチイワシはどちらの個体でもTLは3であった.これを基にその食源を復元した.これらの食物網構造について検討する.
著者
谷口 和也 佐藤 実 吾妻 行雄 伊藤 絹子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

岩礁生態系を構成する生物は、食物だけでなく、生産者である海藻が生産するアレロケミカルによっても結ばれている。本研究においては、海藻がアレロケミカルによって植食動物幼生や付着珪藻を排除するとの仮説を、新たな実験系を考案して実証した。海中林構成海藻が夏〜秋に大量死亡し、冬〜春に成長阻害と死亡によって海中林の再生が阻害されることによって起こる磯焼けは、高水温よりも栄養塩不足がもっとも主要な要因であることが初めて明らかになった。海中林を構成する褐藻アラメ・クロメが生産し、海水中に分泌するブロモフェノールは、ウニとアワビ幼生の変態を1ppmで阻害し、10ppmで死亡させることを、既知の変態誘起物質であるジブロモメタンを同時に作用させる実験系によって初めて明らかにした。またブロモフェノールは、藻体表面に着生する付着珪藻の増殖を1〜5ppmの低濃度で阻害することも明らかにした。海藻のアレロケミカルの研究は、主にコンブ目褐藻を対象に進められてきた。今回、ヒバマタ目褐藻11種と潮間帯の褐藻マツモを培養し、得られた培養海水をガス質量分析器GC-MSで分析した結果、11種のヒバマタ目褐藻のうち5種とマツモがブロモフェノールを分泌すること、さらにヒバマタ目褐藻10種が植食動物幼生に高い毒性をもち、紅藻無節サンゴモが生産するトリブロモメタンを生産、分泌するという驚くべき事実も明らかになった。本研究によって得られた知見は、岩礁生態系の動的安定性の機構を解明し、高い生産力のもとに安定的に維持・管理できる生態系管理技術体系の確立に寄与する。
著者
大方 昭弘 伊藤 絹子 片山 知史 本多 仁 大森 迪夫 菅原 義雄
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

砂浜浅海域に生息するアミ類は、沿岸魚類の生活上不可欠の食物源であり、浅海域魚類群集の生産構造の中核的地位を占めている。しかし、水深3m以浅の砂質海岸の砕波帯に生息するアミ類の生物生産過程および沿岸物質循環系における機能については明らかではない。本研究は、仙台湾砂質海岸の波打ち際斜面に生活し、数量的にも多いアミ類Archeomysis kokuboiの示す物質経済の特異性を明らかにし、浅海域生物群集との機能的結合関係を見いだすことを目的に行われ、下記のような結果が得られた。1.砕波帯における水深5m以浅に出現するアミ類のほとんどはArchaeomysis属であり、特に水深3m以浅にはA. kokuboi、3m-5mにはA. grebnitzkiiが卓越し、5-15mの水域にはAcanthomysis属が多い。魚類の胃内容組成にも、このような水深によるアミ類の分布状態の違いが反映している。2.汀帯の砂質斜面に生息するA. kokuboiの高密度分布域は、潮汐とともに移動するが、汀帯下端部からの距離はほぼ一定である。アミが潜砂するこの高密度域の砂の中央粒径値は2.0-2.3の範囲にある。日中は汀帯砂中に潜砂するものが多く、夜間には汀帯の沖側、水深1-2m付近を群泳しながら鞭毛藻やCopepodaなどを摂食している。3.水温15℃、照度0-100luxの条件におけるA. kokuboiのアルテミアを食物とする日摂食率は、湿重量で24.8%、乾重量で39.7%であった。1日24時間の摂食量のうち夜間は74.9%、昼間は25.1%であった。4.摂取されたアルテミアのアミ体物質への転化効率は、15℃において他の温度条件におけるよりも大きく、体長別にみると、小型が24.6-44.2%、中型が15.4-36.4%、大型が8.9-13.8%であり、成長とともに低下する。放射性同位元素Cでラベルしたアルテミアの投与量とアミ体内残留量との比は、12時間後52%、24時間後38%であった。5. A. kokuboiは一生の間に少なくとも2回以上産卵する可能性があり、個体群としては年間6発生群以上であることが確認された。4-6月生まれの群は成熟が速く小型で産卵し、11-1月生まれの群は成長が遅く、春季に大型群となって産卵に参加する。このように、本種は周年にわたって砕波帯魚類群集の生産構造の中核種として重要な役割を果たしていることが明らかにされた。