著者
種子田 春彦 大條 弘貴 大塚 晃弘
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.447-464, 2016 (Released:2016-08-24)
参考文献数
126
被引用文献数
3

植物体内の水輸送は、個体が適切な水分含量を保ちながら光合成生産を行うために重要な現象である。通水コンダクタンスはこうした水輸送の速度を決める要素のひとつであり、植物種間や環境によって大きく変化する。そこで、通水コンダクタンスを調べることは、植物の水利用戦略を考えるうえで重要な情報を与える。本稿は、根、茎、葉の3つの組織における通水コンダクタンスの測定手法について、それぞれの組織の水の流れ方と手法の利点と欠点を中心に解説した。
著者
大條 弘貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

水ストレス下にある植物の道管内の液には高い陰圧がかかる.このとき,木部にある気体が道管表面にある壁孔を通して内部に引き込まれ,その気泡が道管内腔を満たすこと(キャビテーション)で水の輸送が妨げられる.一方で,灌水による水ストレスの緩和に伴い,通水性が回復することが多くの植物で確認されてきた.この通水性の回復は,木本植物を用いた研究から,道管周囲の柔細胞から道管内に浸透的に水を入れ込み,道管を再充填させる可能性が示唆されている.また,木部内のデンプンの分解とショ糖濃度の上昇がみられ,浸透物質としての糖の関与が考えられている.しかし近年,木部に高い陰圧がかかった状態で通水性を測定するための試料を作製すると,水切りの際の切り口から道管内に気泡が侵入し,通水性の低下を過大評価してしまう可能性が示唆されている(cutting artifact; Wheeler et al. 2013).このため,観察されてきた通水性の回復現象の多くは空洞化した道管に水が再充填された結果ではなく,cutting artifactによるものではないかと疑問視されている.平成26年度はひまわりの葉柄を用い,このようなartifactがない状況で水ストレスによって生じたキャビテーションが灌水時に解消されるのか調べた.またそのとき,浸透物質としての関与が示唆されている糖の量の変化を調べた.結果,ヒマワリの葉柄において,灌水による通水性の回復,つまり道管の再充填現象が確認された.一方で,通水性の回復に伴った葉柄内のグルコース,ショ糖,デンプンの濃度に変化はみられなかった.葉柄内の道管の再充填は,篩部を通した葉身からの糖輸送に依存している可能性がある.