著者
原 邦夫 森 美穂子 石竹 達也 原田 幸一 魏 長年 大森 昭子 上田 厚
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境学会誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.97-103, 2007
被引用文献数
2

2002年2月に校舎の改装工事の終わった小学校の教室にただちに入室した小学生女子が化学物質過敏症を呈した。転校後に症状が改善したため,教室内空気質が主な原因とみられた。本研究の目的は,ホルムアルデヒドおよびVOCs濃度の経時変化の特性を明らかにし,学校の改装についての改善策を示すことである。<BR>我々は対象の校舎改装後小学校の教室内のホルムアルデヒドおよびVOCsの気中濃度を2002年の3月から2か月ごとに2年間測定した。アルデヒドは2,4-DNPH捕集-HPLC法,7VOCs成分(日本の厚生労働省が規制している11成分の内のトルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン,<I>p</I>-ジクロロベンゼン,テトラデカンおよびフタル酸-<I>n</I>-ブチル)はTenaxTA捕集-加熱脱着-GC/MS法を用いた。総VOCs濃度はトルエン濃度換算して求めた。対象の教室の総VOCs濃度は,外気の濃度の数倍であり,教室内にVOCsの発生源があったことを示唆した。また,2年間の結果は物理化学的な性質に応じてホルムアルデヒドおよびVOCs濃度の経時変化は3様に分かれることを示した。すなわち,(1)1年目の夏に最高濃度を示し急激に減衰した物質として,トルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン,(2)2年目の夏にのみ高濃度を示した物質として,ρ-ジクロロベンゼン,(3)夏に1年目および2年目ともに高濃度を示す二峰性の濃度変化を示した物質として,ホルムアルデヒド,テトラデカン,フタル酸ジ-<I>n</I>-ブチル,に分類された。これらの結果は,塗料に含まれるトルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレンは最初の夏で急速に揮発し,家具や内装材に含まれるホルムアルデヒドおよびフタル酸ブチルは低濃度ではあるが高温多湿の夏に毎年揮発することを示した。以上のことから,我々は学校での改装工事は少なくとも休みの前半に行い,とくに暑い夏に揮発させることを推薦した。