- 著者
-
大沼 あゆみ
- 出版者
- 社団法人 環境科学会
- 雑誌
- 環境科学会誌 (ISSN:09150048)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.6, pp.573-585, 2006-11-30 (Released:2010-06-28)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
-
2
本論では,生物多様性保全のためにとられているいくつかの政策を概観し,あわせて経済学的に考察する。最初に,国際政策として,ワシントン条約の取引禁止(トレード・バン)の経済効果について,分析し,取引禁止が有効であるかどうかを決定するいくつかの要因を提示する。それらは(1)道徳的理由等での需要減少の大きさ(2)財に代替品があるかどうか(3)ロンダリングの規模(4)合法的供給水準(5)摘発能力と罰則(5)野生動物の保護・監視,である。 つぎに,国内政策として伝統的な国立公園・自然保護区設定型の保全とその問題点について考察する。この保全政策が機能するためにも,(1)適切な監視費用を支出することが財政的に可能であること,(2)開発のインセンティブ(保全の機会費用)が低いこと,(3)地域社会との間に野生生物に代表される自然資源の利用をめぐる敵対関係が大きくないこと,(4)過剰な旅行需要が制御可能であること,あるいは(5)公務員のモラルが低くないこと,などさまざまな条件が必要であることを述べる。一方で,国立公園型保全と対照的な保全政策である,コミュニティー・ベイスト・マネジメント(CBM)について,ジンバブエのCAMPFIREの例を紹介しながら,その特徴と機能について,インセンティブの側面を中心に説明する。つぎに,所有権の観点から国立公園型政策とCBMを分析し,とくにCBMと地域住民の自然資源の利用権に焦点をあてる。最後に,CBMが有効であるための条件を列記し,長期にわたって機能するためには,適度な調整が必要であることを論じる。