著者
朴 勝俊 長谷川 羽衣子 松尾 匡
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.27-41, 2020-03-28 (Released:2020-05-15)
参考文献数
59

格差や貧困の拡大と,気候危機を背景として,2018年以降,欧米では反緊縮グリーン・ニューディール(GND)が相次いで提案されている.GNDは,環境政策と経済政策を統合させた急進的な政策案である.気候変動防止のために従来提案されていたよりも,早急に炭素排出ゼロ社会への移行を実現するために,巨額の投資の実施を求めるとともに,雇用の「公正な移行」の実現と,富や人種,ジェンダー,世代などに関わる不正義の解消にも注意を払っている.また反緊縮の経済理論に基づき,資金は主に増税によってではなく,年金基金等の巨額の民間資金の誘導と,(通貨発行権を有する国々の場合は)赤字支出でまかなうことを求めている.
著者
小西 祥文
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-11, 2020-03-28 (Released:2020-05-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1

EBPM(エビデンスに基づく政策立案)を進めていく上で,どのようなエビデンスをどのように蓄積していくべきか?本稿では,この問いに対するより本質的な議論を喚起することを目的として,実証研究における構造推定と誘導形推定の違いを概説し,経済学の理論と実証の手法(特に理論的な定式化に基づく実証分析)が,エビデンスの構築やより効果的な制度・施策の発掘にどのように役立つかについて展望する.
著者
原田 禎夫
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.12-26, 2020-03-28 (Released:2020-05-15)
参考文献数
69

急速に深刻化する海洋プラスチック汚染や気候変動を受けて,脱プラスチックは世界的な潮流となっている.海洋に流出したプラスチックごみの大半は陸域から河川を通じて流出した食品の容器包装類を中心とした生活ごみである.また,中国をはじめとしたアジア諸国の廃プラスチック輸入禁止もあり,各国とも廃棄物管理政策を抜本的に見直さざるを得ない事態となっている.本稿では,海洋プラスチック汚染の全体像を概観し,近年研究が進む社会的営業免許(Social License to Operate)の観点から,従来の政府による規制や市場ベースのアプローチに加えて,コミュニティ・ベースのアプローチを導入することによる問題解決の可能性について検討する.
著者
大野 智彦
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 2018-03-28 (Released:2018-04-27)
参考文献数
60

環境政策統合の実現に際しては,ある政策領域における既存の政策目的と新たに追加される環境目的との調整過程が重要になる.本研究では,他の政策領域で環境目的が追加された事例として1997 年に行われた河川法改正に着目し,政策パラダイム転換に関する先行研究を手がかりとして,情報公開請求にて入手した公文書などにより環境政策統合の政策過程を分析した.その結果,(1)河川環境に関する2 つの異なるアイディアが存在したこと,(2)主要アクターが推進したアイディアは治水・利水を主目的とする既存政策パラダイムとより整合的なもので,政策パラダイム転換が生じていたとは言い難いことなどを明らかにした.
著者
赤尾 健一 大沼 あゆみ 阪本 浩章
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-20, 2016-09-28 (Released:2016-11-02)
参考文献数
71
被引用文献数
2

本稿では,長期的な環境問題を念頭に,割引率に関する様々な議論を紹介する.まず,Frank Ramsey の古典的な研究を出発点に,世代間衡平性との兼ね合いから割引の問題を論ずる.また,主に不確実性に焦点を当てながら,DDR と呼ばれる比較的新しい割引理論について詳細に解説する.さらに,割引率が費用便益分析の中で果たす役割についても,地球温暖化問題を例に具体的に示す.
著者
西條 辰義
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.29-42, 2018-09-28 (Released:2018-10-27)
参考文献数
57

持続可能な自然と社会を将来世代に引き継ぐために,どのような社会制度をデザインすればよいのかを課題とするのが「フューチャー・デザイン」である.その手法の1つである「仮想将来世代」を中心に,理論的背景,ラボラトリ実験やフィールド実験の結果および幾つかの自治体との実践の様子を展望する.
著者
林 寿和
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.28-37, 2021-09-26 (Released:2021-11-02)
参考文献数
26

本研究は,近年,実務主導で急速に発展している投資ポートフォリオのカーボン分析に焦点をあて,関連文献の包括的なレビューを通じて,カーボン分析のこれまでの発展史を,概念形成・任意開示・TCFD対応・新指標開発の4つの段階に分け整理を行った.さらに,カーボン分析の実施目的・指標・実務上の課題についても整理を行った.目的については運用パフォーマンス向上と環境面のインパクト創出という異なる考え方が併存する中,GHG排出量をベースとする指標から金銭価値や温度を単位とする指標まで,指標の多様化が明らかとなった.同時に,機関投資家がカーボン分析を実施する際に実務上の課題が複数存在することも浮かび上がった.