著者
鈴木 真理子 大海 昌平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.241-247, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

イエネコFelis catusによる在来種の捕食は,日本においても特に島嶼部において深刻な問題である.鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する遺存固有種アマミノクロウサギPentalagus furnessiの養育行動を2017年1月から3月にかけて調査していたところ,繁殖穴で離乳間近の幼獣がイエネコに捕獲される動画を自動撮影カメラによって撮影したので報告する.繁殖穴における出産は2017年1月14日~15日の夜に行われたが,幼獣(35日齢)がイエネコに捕獲されたのは2月19日1時ごろで,この前日は繁殖穴を母獣が埋め戻さずに入り口が開いたままになった初めての日であった.この動画の撮影後,幼獣は巣穴に戻っていないことから,捕食あるいは受傷等の原因で死亡した可能性が高い.イエネコは幼獣の捕獲から約30分後,および1日後と4日後に巣穴の前に出現し,一方アマミノクロウサギの母獣は1日後に巣穴を訪問していた.幼獣の捕食は,本種の個体群動態に大きな影響を与えうる.本研究により,アマミノクロウサギに対するイエネコの脅威があらためて明らかとなった.山間部で野生化したイエネコによるアマミノクロウサギ個体群への負の影響を早急に取り除く必要がある.
著者
鈴木 真理子 大海 昌平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.257-266, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
25

養育行動の記録は,親から子への投資や子の発達過程を知るための基礎情報であり,域外保全のためにも重要な情報である.アマミノクロウサギ(Pentalagus furnessi)は鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する遺存固有種である.母獣は休息用の巣穴とは別の場所に繁殖用の巣穴を持ち,その中で幼獣を育てる.2015年秋に奄美大島の農地内に掘られた繁殖穴を発見し,2015年9月から2017年5月まで自動撮影カメラにより撮影を行ったところ,2016年4月から5月までと,2016年12月から2017年2月までの2回の繁殖が確認された.アマミノクロウサギの養育行動は,繁殖穴形成,産座づくり,出産,授乳からなっていた.繁殖穴形成から授乳の間,母獣の訪問時刻は午前2時から3時に集中していた.産仔数は1頭または2頭で,授乳は2日に1回の頻度で規則正しく行われた.幼獣は生後約10日齢まで繁殖穴の中で授乳され,約10日齢から繁殖穴の外に出て授乳されるようになり,30–34日齢で授乳後に巣穴の外を出歩くようになった.母獣の授乳のための訪問のうち,授乳時間は非常に短く,滞在時間の大半を繁殖穴の入口の開け閉めに費やしていた.この巣穴の開け閉めに要する時間は,幼獣の成長とともに短くなった.今回の観察により,アマミノクロウサギの養育行動は,他のアナウサギ類と同様に非常に短時間で行われており,さらに幼獣の成長に合わせて養育にかかるコストを減らしている可能性が示唆された.
著者
大海 昌平 永井 弓子 岩井 紀子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2044, 2021-10-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
16

アマミイシカワガエルは奄美大島の固有種であり、鹿児島県の天然記念物に指定されている絶滅危惧種である。成体の生態調査は行われてきているものの、幼生の生態についての知見が不足している。本種の幼生期間における流下状況を明らかにするため、野外の沢において蛍光タグを用いた標識と追跡調査を行った。幼生 283個体を標識したのち渓流源頭部のプールに放流し、その後 2年間、 1-3か月に 1度の沢調査を計 13回行った。調査沢を 6mごとに区切って沢区間とし、沢の開始点から 303 m下流までを対象とした。のべ 9642個体の幼生をカウントした。標識個体は放流から 736日経過後まで発見された。放流したプールから標識個体が発見された最下流までの距離は、 29日後は 56-62 m、261日後は 62-68 m、320日後から 682日後までは 128-134 mであった。発見した標識個体の分布から推定した推定最長流下距離は、 29日後は 85.3 m、320日後は 89.9 mで 1年間に 85-95 mの間を示し、変化が小さかった。これらの結果から、調査沢における幼生は 2年間で最長 130 mほどの流下を行うが、 85-95 m付近までの流下が一般的であると考えられた。放流 29日後以降、流下した最下流までの距離に大きな変化はみられず、時間の経過と比例して距離が延びるわけではなかった。また、ある調査日に発見した標識個体の総数に占める、放流プールに残留していた標識個体の割合は、時間の経過とともに上昇した。このため、幼生の流下は主に個体サイズが小さい時期の豪雨といったイベントの際に起こり、それ以降は稀である可能性や、流下した幼生の生存率が低い可能性、下流のプールでは上流より流下が起こりやすい可能性が示唆された。本種幼生の生息環境を保全する際には、産卵場所付近のみではなく、流下先としての下流部の環境も対象とする必要性が示された。
著者
鈴木 真理子 大海 昌平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.241-247, 2017

<p>イエネコ<i>Felis catus</i>による在来種の捕食は,日本においても特に島嶼部において深刻な問題である.鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する遺存固有種アマミノクロウサギ<i>Pentalagus furnessi</i>の養育行動を2017年1月から3月にかけて調査していたところ,繁殖穴で離乳間近の幼獣がイエネコに捕獲される動画を自動撮影カメラによって撮影したので報告する.繁殖穴における出産は2017年1月14日~15日の夜に行われたが,幼獣(35日齢)がイエネコに捕獲されたのは2月19日1時ごろで,この前日は繁殖穴を母獣が埋め戻さずに入り口が開いたままになった初めての日であった.この動画の撮影後,幼獣は巣穴に戻っていないことから,捕食あるいは受傷等の原因で死亡した可能性が高い.イエネコは幼獣の捕獲から約30分後,および1日後と4日後に巣穴の前に出現し,一方アマミノクロウサギの母獣は1日後に巣穴を訪問していた.幼獣の捕食は,本種の個体群動態に大きな影響を与えうる.本研究により,アマミノクロウサギに対するイエネコの脅威があらためて明らかとなった.山間部で野生化したイエネコによるアマミノクロウサギ個体群への負の影響を早急に取り除く必要がある.</p>