著者
大熊 るり 藤島 一郎 武原 格 水口 文 小島 千枝子 柴本 勇 北條 京子 新居 素子 前田 広士 宮野 佐年
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.21-27, 1999-12-30 (Released:2019-06-06)
参考文献数
15

【目的】梨状窩の形状に個人差があることに注目し,誤嚥との関連について,内視鏡的嚥下検査(VE)および嚥下造影(VF)所見を用いて検討した.【対象・方法】1997年4月~98年3月の1年間にVFおよびVEを行った患者82名のうち,VFにて明らかな嚥下反射の遅延または造影剤の著明な梨状窩への残留を認めた31名(球麻痺14名,仮性球麻痺17名)を対象とした.内視鏡を経鼻的に挿入して梨状窩を観察し,録画したものを計測した.咽頭後壁正中部から梨状窩の外側端までの距離が最大となる距離を長径,長径と直交する形で梨状窩の内側縁と外側縁の間隔が最大となる距離を短径とし,短径/長径の値を求めた.この値が大きいほど梨状窩の幅が広いことを示し,小さいほど幅が狭いことを示す.【結果】披裂喉頭蓋皺襞の腫脹が著明な症例が6名あり,これらは最も梨状窩の幅が狭い症例とも考えられたが,計測困難なため比較の対象からは除外した.また梨状窩の形状に左右差が認められる症例が9名あった.短径/長径の値について,VF所見上の誤嚥あり群(14名)と誤嚥なし群(11名)とで比較した.左右差のある場合は値の大きい側を用いて比較すると,誤嚥あり群では平均0.296,なし群では0.370と,誤嚥なし群で有意に値が大きかった(p<0.05).すなわち,誤嚥のない症例は誤嚥のある症例と比べて梨状窩の幅が広いと考えられた.【考察】梨状窩の幅が広いと,嚥下反射の遅れや嚥下後の咽頭残留があっても,梨状窩に食塊が貯留できるスペースがあるため,気道への流入を防ぐのに有利と思われた.梨状窩の形状に個人差がある原因として,一つには生来の個体差が挙げられるが,咽喉頭粘膜,特に披裂部の腫脹が大きく影響していると思われた.内視鏡で梨状窩の形状を観察することは,誤嚥の危険性を予測する上で有用であると考えられた.
著者
大熊 るり 植松 海雲 藤島 一郎 向井 愛子
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.180-185, 2002-04-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

上部消化管造影検査施行中に発生したバリウム誤嚥について調査を行い,誤嚥への対策について検討した.7年半の間に検査を受けた262,888名を対象に,誤嚥発生率の推移や誤嚥が確認された118名のプロフィール等につき調査した.誤嚥者の年齢は30~94(平均65)歳.70歳以上では誤嚥発生率が70歳未満の約10倍となっており,高齢受診者への配慮が必要と思われた.また誤嚥発生率が平成11年度から12年度にかけて上昇しており,これは検査に使用するバリウム製剤の粘性が低下した時期と一致していた.誤嚥対策として,検査前に嚥下障害に関するスクリーニングを行うこと,使用するバリウム製剤の粘性を検討すること等が考えられた.
著者
渡辺 修 米本 恭三 宮野 佐年 小林 一成 河井 宏之 大熊 るり
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.48-52, 1998-01-18
被引用文献数
2

We report a case of cerebral contusion in a patient with ventricle peritoneal shunt(VP shunt) caused by a simple fall. Described is a 50-year-old man admitted with left thalamic hemorrhage with resultant severe consciousness disturbance and right hemiparesis. Although his general condition and consciousness were improved after conservative treatments, two weeks later decrcased mental status and anisocoria were noted. Head computed tomography(CT) scan revealed hydrocephalus which needed VP shunt following emergent ventricular shunting. After that, intensive rehabilitation programs were started. Independent ambulation was not achieved, however he was enable to transfer with minimal assistance. CT scan showed that the size of ventricular system was extremely reduced, which is so called "slit like ventricle." During transfer from his bed to the chair he fell and his head hit the bed. Immediately after that, he fell into deep coma state. CT scan showed left subdural hematoma, contusion and diffuse brain swelling. Overdrainage is a rare complication in VP shunt, however it caused a catastrophic event followed by traumatic brain injury.
著者
中野 雅徳 藤島 一郎 大熊 るり 吉岡 昌美 中江 弘美 西川 啓介 十川 悠香 富岡 重正 藤澤 健司
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.240-246, 2020-12-31 (Released:2021-04-30)
参考文献数
17

【目的】聖隷式嚥下質問紙は,摂食嚥下障害のスクリーニング質問紙であり,15 の質問項目に対して重い症状:A,軽い症状:B,症状なし:C の3 つの選択肢がある.「一つでも重い症状A の回答があれば摂食嚥下障害の存在を疑う」という従来の評価法は,高い感度と特異度を有している.本研究では,回答の選択肢をスコア化し評価する方法を新たに考案し,従来の評価法と比較する.また,本法を健常者に適用し,嚥下機能が低下した状態のスクリーニングツール開発のための基礎資料を得ることをあわせて行う.【方法】聖隷式嚥下質問紙開発時に用いた,嚥下障害があるが経口摂取可能な脳血管障害患者50 名,嚥下障害のない脳血管障害患者145 名,健常者170 名を対象に行った調査データを使用した.選択肢を,A:2 点,B:1 点,C:0 点,およびA の選択肢に重みをつけ,A:4 点,B:1 点,C:0 点としてスコア化した場合の合計点数に対して,カットオフ値を段階的に変えそれぞれについて感度,特異度を算出した.ROC 分析により最適カットオフ値を求め,このカットオフ値に対する感度,特異度を従来の方法と比較した.また,健常者170 名のデータについて,年齢階層ごとの合計点数に解析を加えた.【結果】ROC 分析の結果,A:4 点としてスコア化し,8 点をカットオフ値とする評価法が最適であることが示された.本評価法は,感度90.0%,特異度89.8% であり,従来法の感度92.0%,特異度90.1% に匹敵するものであった.健常者における年齢階層別の比較では,75 歳未満と75 歳以上で明確なスコアの差が認められた.【結論】スコア化による聖隷式嚥下質問紙の評価法は,A の回答が一つでもあれば嚥下障害の存在が疑われるという従来の評価法とほぼ同程度の感度,特異度を有していた.一般高齢者では,75 歳以上になるとスコアが有意に高くなることが確認され,嚥下機能が低下した状態を評価するためのスクリーニングツール開発の基礎資料が得られた.