著者
大田 肇
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
津山工業高等専門学校紀要 (ISSN:02877066)
巻号頁・発行日
no.45, pp.107-114, 2003

イギリスにおいては,軍隊に関する指揮命令健は国王大権の下にある.一方で内閣総理大臣が国王に代わってそれらの権限を行使しているという現状から,シビリアンコントロールが確立しているとの評価が定着しているが,他方で,保守党・労働党の間で政権交代がおこなわれても,軍隊内の問題に関する変化はほとんど生じてこなかったとの指摘もある.軍隊内の問題は,軍隊の"自治"に任されていたのであり,軍隊内の規律維持に不可欠な軍法会議製に関しても,1951年に軍法会議控訴院を設立し,文民である裁判官によるチェックを導入したが,そのチェックの有効性に関しては疑問視する意見が強い.このような現状に対し,「風穴をあける」役割をはたしているのが,ヨーロッパ人権裁判所である.
著者
大田 肇
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

イギリス軍のイラク戦争・占領におけるイラク人虐殺事件に関し、その遺族が、イギリス国防省を相手取って、イギリスの国内裁判所の訴訟を起こした。遺族の主張の法的根拠は、ヨーロッパ人権条約及び1998年人権法の中の「生命に対する権利」であった。この主張を、国内裁判所は、人権条約の適用範囲から外れるとして斥けた。しかしながら、ヨーロッパ人権裁判所は、管轄権の例外にあてはまるとして、その適用を認めた。この判決は、他の類似の事件の判断にも影響を及ぼしている。
著者
松井 幸夫 倉持 孝司 柳井 健一 藤田 達朗 松原 幸恵 元山 健 愛敬 浩二 江島 晶子 元山 健 愛敬 浩二 植村 勝慶 江島 晶子 大田 肇 小松 浩 榊原 秀訓 鈴木 眞澄
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現代の日本の政治改革において参照されたのは、イギリスをモデルとした小選挙区制、二大政党と政治的リーダーシップ、選挙による政権交代等であった。しかし、当のイギリスやその影響下の諸国では、ウエストミンスター・モデルと呼ばれる、このような政治システムの変容や再検討や、そこからの離脱傾向が強まっている。本研究は、このような実態と理論状況を明らかにし、現代立憲民主主義の憲法理論構成の方向性を明らかにする視座を得た。
著者
大田 肇
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

今回の研究課題を改めて確認すると、長い歴史を誇っていたイギリスの軍法会議が、フィンドレイ事件に関するヨーロッパ人権裁判所判決(1997年)などによって、大きく揺さぶられ始めた。それらへの対応の中で、軍法会議を中心とする軍事司法制度全体の改革がおこなわれた。スピア事件に関する貴族院判決(2002年)およびクーパー事件に関するヨーロッパ人権裁判所判決(2003年)は、それらの改革をほぼ全面的に評価した。こうして、司法機関による軍事司法制度の法的評価は確定し、それらの総決算が2006年軍隊法制定である。こうしたプロセスで生み出された軍事司法制度のエッセンスを、「司法化」「市民法の論理」などの視点から、抽出することが、主たる課題であった。しかしながら、この課題の半分は、達成されなかった。その主たる要因は、2004年後半頃から生じた別の側面からの、軍事司法制度への揺さぶりであった。イラク占領をおこなっていたイギリス兵士による、イラク人虐待事件である。平時おいて、改革後の軍法会議はそれなりに円滑に運営されている一方で、その準備が不十分であったとされる占領に際しては、占領地域の混乱状態にイギリス軍は対応できず、軍そのものも混乱に陥ってしまった状況の中で、軍の規律は乱れ、事後にその処罰を行おうとしても、司法手続きに必要な事実・証人等を収集することすら、困難であった。そのために開廷された軍法会議をはじめ、一般の刑事裁判所での裁判においても、大半の被告人となった兵士達は無罪となり、イラク人虐待事件の解明への模索は今だ継続中である。達成されなかった課題に関しては、日々、これらに関する情報を収集するレベルでしか対応できず、それらの分析・検討は、Public Inquiryなどの今後の展開を視野に入れながら、今後の課題となる。