著者
今川 真治 中道 正之 大芝 宣昭 金澤 忠博 糸魚川 直祐 中道 正之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

サル社会の中では、ケンカなどの敵対的行動をしながらも毛づくろいなどの親和的行動も行われる。これら2種の行動は、社会の中で他の個体と共存していくための不可欠な行動である。順位関係が比較的厳しいマカク属のサル類を対象として、この敵対的行動と親和的行動の関係が調べられた。野外で生息するニホンザル集団の場合には、生後4年間を通して、オスの子ザルが親しく付き合う同性の個体は一定であり、「仲間関係における恒常性」が認められた。敵対的行動に基づいて明らかとなったこれらの個体の間の順位は、その母ザルの順位関係とほとんど同じであった。親しく付き合う個体は互いに、順位が隣り合うか、近い個体であった。メスの子ザルの間でも、オスの子ザルと同様の傾向が確認できた。しかし、オスとメスの異性間における仲間関係の恒常性は認められなかった。ケージ内で飼育されている準成体、成体の親和的行動と敵対的行動の頻度を、ケージ内に止まり木が多数設置されて豊かな環境と止まり木の少ない乏しい環境で比較した。予想に反して、豊かな環境内では敵対的行動も親和的行動も生起頻度は少なかった。他方、乏しい環境ではどちらの行動の生起頻度も高くなった。この事実は、止まり木が少なく、互いに好ましい場所にサルが集まり、局所的に過密になり敵対的行動が多くなりやすいが、同時に、敵対的行動が生起した後の仲直り行動や、過密による心的緊張を低下させるための親和的行動が比較的頻繁に生起したためと考えられる。これらの事実は、環境条件に即して、サルが社会的緊張を軽減する行動を行っていることを意味している。