著者
大見 頼一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.47, pp.H-22-H-22, 2020

<p> 「ACL再建術後のスポーツ復帰は良好だけど,怪我をする前に何かできることはないのでしょうか?」我々のACL損傷予防の取り組みは,あるトレーナーさんからのこの一言によって始まった。調査すると欧米ではACL損傷を予防するために様々な予防プログラムが考案されていることを知り,「是非日本でもこれをやってみたい」と考えた。そこで「スポーツ現場での予防プログラムの普及と研究の実践」をコンセプトに有志PTで「スポーツ傷害予防チーム」を作り,予防活動を始めた。開始当初は,欧米のプログラムを真似して行ってみたが様々な問題があり,独自のプログラムを考案することが必要であった。膝関節は特に体幹・股関節の肢位から影響を受けるため,股関節に着目した予防プログラムであるHip-focused Injury Prevention program(HIP program)を考案した。HIP programはジャンプ着地,股関節・体幹筋力強化,バランスの3要素から構成され,この介入によって,高リスク種目である女性バスケットボール選手の非接触型損傷発生率は有意に減少した(Omi AJSM2018)。</p><p> 近年,初発のACL損傷以外に問題となっているのが,ACL再建術後の再損傷である。再損傷は再建靭帯が損傷する再断裂と対側損傷に分けられ,若年スポーツ選手の発生率は再断裂11%,対側損傷12%と報告されている。再断裂は術後1年以内に発生することが多く,理学療法によって減少できる可能性がある。我々は,2011年からこのHIP programをACL再建術後のリハビリプロトコルに組み込み,再断裂予防リハプロトコルを作成した。再断裂予防リハ導入後では,その発生率は約半減した。このような予防活動の実践と効果検証を行ってきたが,すべては予防チームの理学療法士と当院理学療法士のチーム力によるものである。この度はスポーツ現場と臨床での実際と効果検証について紹介する。</p>