著者
中村 尚世 石川 大樹 大野 拓也 堀之内 達郎 前田 慎太郎 谷川 直昭 清水 珠緒 福原 大祐 中山 博喜 江崎 晃司 齋藤 暢 平田 裕也 内田 陽介 鈴木 晴奈 佐藤 翔平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101334, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】膝前十字靭帯(ACL)再建術後に荷重制限を設けている施設が多い.しかし,全荷重開始時期に関しては各施設で異なり,未だ統一した見解はない.我々は術後4週にて全荷重を開始し術後リハビリテーション(リハ)を慎重に行うことで良好な術後成績を得たことを報告(2005年本学会)した.さらに,術後3週にて全荷重を開始するも変わらず良好な術後成績を得られたことを報告(2007年本学会)した.そこで今回,更に全荷重開始時期を1週早め,術後3週群と2週群で術後成績を比較検討したため,以下に報告する.【方法】2002年12月~2011年6月までに膝屈筋腱を使用した解剖学的2ルートACL再建術を行った596例のうち,同一術者にてACL再建術のみが施行され,12ヶ月以上経過観察が可能で,再鏡視し得た110例を対象とした.半月板縫合術を同時に施行した例,50歳以上の例,後十字靭帯損傷合併例,ACL再断裂例は除外した.2004年1月より3週で許可した68例(男性45例,女性23例,31.3±8.4歳:3週群)と,2008年4月より術後全荷重を2週で許可した42例(男性24例,女性18例,31.0±7.9歳:2週群)で術後成績を比較検討した.但し,術後リハプログラムでは全荷重開始時期以外はほぼ同一とした.検討項目は,術後6,12ヶ月での膝伸筋の患健比(60°/s),受傷前と術後12ヶ月時のTegner activity score,術後12ヶ月時の膝前方制動性の患健側差,再鏡視時の移植腱の状態,入院期間とした.なお,膝伸筋力は等速性筋力測定器Ariel,膝前方制動性はKT-2000を用いて測定した.再鏡視時の移植腱の状態については,移植腱の太さ,緊張,滑膜被覆の3項目を総合し,Excellent,Good,Fair,Poorの4段階で評価した.統計処理に関しては,術後6,12ヶ月での膝伸筋の患健比(60°/s)と,Tegner activity scoreは,それぞれ反復測定による二元配置分散分析,χ²検定を用いた.また,術後12ヶ月時のKT-2000患健側差 ,再鏡視時の移植腱の状態,入院期間はMann-WhitneyのU検定を用いた.統計学的検討にはSPSS Statistics 17.0Jを使用し,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の個人情報の取り扱いは当院の個人情報保護規定に則り実施した.【結果】術後6,12ヶ月での膝伸筋の患健比はそれぞれ2週群67.3±2.9%,82.9±2.6%,3週群70.2±2.2%,83.0±2.1%であり,筋力回復の変化量に有意差はなかった.受傷前と術後12ヶ月時のTegner activity scoreの平均値は,それぞれ2週群は6.26が6.26,3週群は5.91が5.88であり,両群にともに有意差はなかった.術後12ヶ月時のKT-2000患健側差は2週群0.13±0.7mm,3週群0.07±0.6mmであり有意差はなかった.再鏡視時の移植腱の状態は2週群はExcellent 31例(73.8%),Good 9例(21.4%),Fair 2例(4.8%),3週群は Excellent 41例(60.3%),Good 27例(39.7%)であり,有意差はなかった.入院期間は2週群22.4±5.6日,3週群25.7±3.2日であり,2週群で有意に短かった(p<0.05).【考察】矢状面断において脛骨は水平面に対し10°程度後方傾斜しているため,膝関節荷重時に脛骨は大腿骨に対し前方剪断力として働き,移植腱へのストレスが増大するとの報告が散見される.しかし,全荷重開始時期は各施設で異なり,可及的早期から5週程度で行なわれており,統一された見解はない.そこで当院では術後の全荷重開始時期を術後4週から開始し,3週,2週へと変更させ術後成績を比較検討してきた.全荷重開始時期を早めたことで術後早期の活動性が上がるため,膝伸筋の筋力回復とTegner activity scoreにおいては2群間に差があると仮定したが,本研究では有意差はなかった.KT-2000患健側差と再鏡視時の移植腱の状態においては2群間に差がなかったことから,術後2週で全荷重を開始しても膝関節の不安定性の増大や移植腱への悪影響がないことが分かった.また,入院期間に関しては2週群の方が有意に短かった.以上より,術後2週での全荷重開始が許容されることが示された.【理学療法学研究としての意義】ACL再建術に関する臨床研究の報告は多数存在するが,全荷重開始時期の違いによる比較検討されたものは少ない.ACL再建術後の全荷重開始時期を3週と2週で比較検討した結果,少なくとも膝関節の不安定性の増大や移植腱への悪影響がないことが分かった.また,入院期間は有意に短縮できることが分かったことからも本研究は有意義だったと思われる.
著者
谷川 直昭 石川 大樹 露木 敦志 前田 慎太郎 高橋 奏衣 小宮山 幸子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C1023, 2004

【目的】<BR>近年、関節鏡視下手術の進歩は目覚しく、半月板損傷の手術療法は鏡視下縫合術や部分切除術が広く行われている。また、円板状半月板障害に対しても鏡視下半月板形成的切除術が主流となっている。半月板損傷に対する縫合術や部分切除術後のリハビリテーションに関する文献は多いが、円板状半月板形成的切除術後のものは散見する程度であり、さらにスポーツ選手の術後スポーツ復帰に関するまとまった報告は、我々の知り得た範囲では存在しなかった。そこで今回我々は、スポーツ選手における円板状半月板形成的切除術後のスポーツ復帰の実際を報告する。<BR>【対象および方法】<BR>当院において1997年5月~2003年10月までに膝円板状半月板障害に対し、鏡視下半月板形成的切除術を行ったスポーツ選手26例34膝{男性18例24膝、女性8例10膝、手術時年齢は11歳~51歳(平均23.8歳)}を対象とした。これらの症例に対し、スポーツ種目、スポーツ復帰時期および術前後のスポーツレベル、術後合併症の有無とその対処方法について調査した。なおスポーツレベルについてはTegner activity scoreを用いて評価した。<BR>【結果】<BR>スポーツ種目は、サッカーが14例(53.8%)で最も多く、次にテニス3例(11.5%)、ダンス2例(7.7%)と続いた。スポーツ復帰時期は術後7週~18週(平均11.1週)であった。スポーツレベルは、術前のTegner activity score 7.6±1.6点が術後Tegner activity score 7.6±1.6点であり全例、元のスポーツに復帰していた。術後合併症は、疼痛、関節水腫がスポーツ復帰前1例、復帰後(術後3~6ヵ月)5例に見られた。<BR>【考察】<BR>スポーツ種目でサッカーが53.8%と半数以上を占めていたが、これは当院が横浜の某Jリーグチームの指定病院となっているため患者数におけるサッカー選手の割合が多かったことが要因であると考えられる。スポーツ復帰時期にはばらつきがあるが、両側同時手術例や中高年による変形性関節症性変化(以下OA)を合併しているケースの場合は復帰に時間のかかる傾向にあった。しかし、術後のスポーツレベルは全例で元のレベルまで戻っており、OAを合併していても慎重な後療法を行うことによってスポーツ復帰は可能であることがわかった。またスポーツ復帰を果たしても術後3~6ヵ月で関節水腫を合併する症例が見られたが、ヒアルロン酸の関節内注入と2~3週間の運動制限によって症状は消失した。<BR>【まとめ】<BR>1.スポーツ種目、年齢に関わらず、術後平均11.1週でスポーツ復帰が可能であった。2.全例、元のスポーツレベルに復帰可能であった。3.術後、関節水腫に対しては、ヒアルロン酸の関節内注入と運動制限が有効であった。
著者
松浦由生子 石川大樹 大野拓也 堀之内達郎 前田慎太郎 谷川直昭 福原大祐 鈴木千夏 中山博喜 江崎晃司 齋藤暢 大嶺尚世 平田裕也 内田陽介 佐藤翔平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】近年,膝前十字靭帯(ACL)再建術後の再断裂例や反対側損傷例に関する報告が増えている。我々もサッカー選手において反対側損傷率が高いことを報告したが(谷川ら,2012),その詳細については未だ不明な点が多かった。そこで本研究ではACL再建術後に反対側ACL損傷を来たしたサッカー選手の詳細を検討し,その特徴を報告することを目的とした。【方法】対象は2003年1月から2012年10月までに当院にて初回ACL再建術を行い,術後1年以上経過観察しえたスポーツ選手612例(サッカー選手:187例,その他の競技選手:425例)とし,それぞれの反対側損傷率を比較した。さらに,サッカー選手187例を片側ACL損傷173例(男性151名,女性22名:片側群)とACL再建術後に反対側ACL損傷を来たした14例(男性11名,女性3名:両側群)に分けて,片側群と両側群の比較を行った。検討項目は,①初回受傷時年齢,②初回受傷側,③競技レベル,④競技復帰時期,⑤術後12ヶ月のKT-2000による脛骨前方移動量の患健差(以下,KT患健差),⑥術後12ヶ月の180°/s,60°/s各々の膝伸展・屈曲筋力の患健比(%)とした。なお競技レベルはTegner Activity Score(TAS)にて評価し,筋力測定には,等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社)を使用した。また,両側群(14例)を対象として初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較を行った。項目は①コンタクト損傷orノンコンタクト損傷,②オフェンスorディフェンス,③相手ありorなし,④ボールありorなしとした。なお,相手に合わせてプレーをしていた際を「相手あり」とし,相手に合わせず単独でプレーをしていた際を「相手なし」とした。統計学的分析にはSPSS Ver.20.0(IBM社)を使用した。サッカーとその他の競技の反対側損傷率の差,片側群と両側群の初回損傷側の比較にはχ2乗検定を用い,その他の項目はWilcoxonの順位和検定を用いて比較した。さらに両側群の初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較にはMcNemar検定を用いた。有意水準5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。また当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】反対側ACL損傷率はサッカー選手7.49%(14例),その他の競技選手3.29%(14例)であり,サッカー選手が有意に高かった(p=0.02)。片側群と両側群の比較において,初回受傷時年齢は片側群28.5±9.5歳,両側群26.7±8.7歳(p=0.32)であった。初回受傷側に関しては,右下肢受傷が片側群49.2%,両側群64.3%で2群間に有意差を認めなかった(p=0.82)。TASは片側群7.5±1.0,両側群7.9±1.1(p=0.12),競技復帰時期は片側群9.3±2.0ヶ月,両側群9.6±2.0ヶ月(p=0.56),KT患健差は片側群0.0±1.2mm,両側群0.5±0.8mm(p=0.14)であった。膝筋力の患健比は180°/sでの伸展筋力が片側群87.2±15.3%,両側群86.4±10.0%(p=0.62),屈曲筋力が片側群88.2±18.9%,両側群87.8±14.8%(p=0.56),60°/sでの伸展筋力が片側群84.4±19.5%,両側群86.6±10.8%(p=0.98),屈曲筋力が片側群86.6±18.2%,両側群91.6±11.5%(p=0.32)でありいずれも有意差を認めなかった。両側群の受傷機転において,初回受傷時では相手あり4名,相手なし10名であったのに対し,反対側受傷時で相手あり11名,相手なし3名であり有意差を認めた(p=0.02)。その他の項目に関しては有意差を認めなかった。【考察】本研究においてサッカー選手がその他の競技選手と比較し,有意に反対側損傷率が高いことが示された。多種目の選手を対象とした先行研究での反対側ACL損傷率は約5%と報告されているが,本研究でのサッカー選手の反対側損傷率は7.49%であり,やや高い傾向にあった。両側群の受傷機転に関しては,初回損傷時よりも反対側損傷時の方が,相手がいる中での損傷が有意に多かった。サッカーは両下肢ともに軸足としての機能が要求される競技であるため,初回再建術後に軸足としての機能が回復していないと予測困難な相手の動作への対応を強いられた際に,反対側損傷を起こす可能性が高まるのではないかと推察した。以上のことから,サッカー選手に対しては初回ACL再建術後に対人プレーを意識した予防トレーニングを取り入れ,軸足としての機能回復や予測困難な相手の動きに対応できるagility能力を高めておくことが反対側ACL損傷予防には重要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究では,サッカー競技におけるACL再建術後の反対側ACL損傷は対人プレーでの受傷が多いという新しい知見が得られた。サッカーに限らず,反対側ACL損傷率を減少させるためには,スポーツ競技別に競技特性や受傷機転などを考慮した予防トレーニングを行っていくことが重要であると考える。
著者
小寺 麻美 石川 大樹 露木 敦志 前田 慎太郎 浅野 晴子 谷川 直昭 中澤 加代子 園田 剛之 福原 大祐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P1481, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は非接触型損傷が7割以上を占め、その多くはknee-in&toe-out肢位での受傷であることが報告されている.そして近年、ACL損傷予防として股関節外転筋トレーニングが注目されるようになってきた.当院でもACL再建術後の再損傷や反対側損傷予防のため、リハビリテーションプログラムにCKCでの股関節外転筋トレーニングを追加したところ、反対側損傷が大幅に減少したことを報告した(2008年日本臨床スポーツ医学会学術集会).今回は当院で行っている股関節外転筋トレーニングを臥位と立位に分け、それぞれ中殿筋と大殿筋に着目し表面筋電図を用いて解析したところ、興味深い結果を得たので以下に報告する.【対象および方法】対象は下肢に整形外科的疾患の既往がない健常男性3名とした.被検者には本研究の主旨を十分に説明し、同意の下で協力を得た.測定項目は1)側臥位での股関節外転運動、2)サイドブリッジ、3)立位での股関節外転運動(OKC)、4)3の時の支持側(CKC)の4項目とし、測定筋は中殿筋および大殿筋とした.中殿筋は腸骨稜から1横指遠位、大殿筋は筋腹中央のそれぞれ筋繊維に沿って電極を貼付した.測定にて得られた筋電信号をサンプリング周波数1000Hzにてコンピューターに取り込み、筋電積分値(IEMG)を求めた.各運動は1秒毎にリズムを取りながら行い、各測定時間から4秒間(各2運動)を抽出した.求めたIEMGを比較検討するため、Danielsらの肢位にて各筋の最大随意等尺性収縮を測定し正規化した(%IEMG).立位運動にはROTARY HIP(CYBEX社製)を用いた.【結果】%IEMGの比較より、中殿筋と大殿筋の筋放電量は臥位より立位において有意に多かった.また、立位での筋放電量はOKCに比べてCKCで多かった. 筋電図波形の比較より、すべての運動において中殿筋が先行して活動した.また、このことは特に立位において著明であった.【考察】すべての股関節外転運動の筋電図波形において、中殿筋が先行して働き、遅れて大殿筋が活動していた.また、このことは臥位より立位にて著明であった.これらよりknee-in&toe-outを予防するためには中殿筋だけでなく大殿筋にも着目する必要があり、さらに中殿筋が活動するタイミングも重要であることが示唆された.また、筋放電量は臥位に比べて立位で多かった.特に立位での大殿筋放電量においてはOKCよりもCKCで有意に多かった. 以上より、ACL再建術後のリハビリテーションにおける再損傷や反対側損傷を予防するための股関節外転筋トレーニングは、全荷重が許可され次第可及的早期に立位かつCKCで行うことが望ましいと考えた. 本学会では、表面筋電図解析にて効果的と思われた股関節外転筋トレーニングの実際を紹介する.