著者
大野 光明
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.415-431, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
50

本稿では, 「沖縄問題」がどのような力学のもと構成され, 変化するのか, そして, 人びとによって経験されてきたのかという問いをたてる. 具体的には, 沖縄の日本復帰直前の1970年代前半から復帰後の70年代後半の時期に焦点をあて, 宇井純 (1932-2006) が中心となり取り組まれた自主講座運動が, 日本本土と沖縄, そしてアジアの反公害住民運動をつなげ, 「沖縄問題」を提起した意味を検討する.復帰後の沖縄社会は, 「沖縄問題」をめぐる関心の減少, 沖縄振興開発計画に伴う開発の促進と観光地化, そして基地問題の非争点化という特徴をもつ. だが, 復帰後, 「沖縄問題」への関心を持続させ, 国家と資本, さらには両者の開発主義を受容する革新県政を批判したのが反公害住民運動であった. その特徴は, (1)沖縄への日本資本の進出を公害問題の実態に基づき批判したこと, (2)「沖縄問題」を日本本土との加害/被害や支配/被支配といった枠組みだけではなく, 遍在する公害問題をつなぐ形で再構成した点にある. 本稿は, 金武湾闘争を通じて反公害住民運動が, 国家と資本, そして革新県政による沖縄の問題化に対し, 別の政治の回路を開いたことを明らかにする.
著者
大野 光明
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.35-50, 2019-12-05 (Released:2022-10-18)
参考文献数
41

沖縄では沖縄戦,米軍占領期,そして日本「復帰」後から現在に至るまで,戦時と平時をわかたず,軍隊による事件・事故,人権侵害,環境破壊が生じてきた。沖縄に対する強権的な政治と基地の新設,軍隊の機能の変容が進む現在にあって,環境社会学の知見による現状への介入は喫緊のものとして期待されているのではないだろうか。だが,環境社会学はこれまで軍事基地問題に正面から向き合ってきたとはいえない。そこで本稿では,沖縄の基地・軍隊をめぐる諸問題を事例として,環境社会学が軍事基地問題をとらえるために必要な基本的視座を提示することを試みる。まず,沖縄の軍事環境問題の歴史をふりかえり,軍事的暴力の特徴が空間的・時間的に広がりをもっていることを確認する。そのうえで,軍事基地をめぐる諸問題をとらえるための概念や認識枠組みを批判的に検討した。すなわち,受益という概念や受苦を強いられる人びとへの受益の還流や配分という枠組み自体が軍事化されていることを考察した。そのうえで,環境社会学が軍事環境問題を対象化するためには,脱軍事化をつくりだしていく批判的な知と枠組みが必要であることを示し,その基本的な視座を整理した。