著者
大野 耕策
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.92-102, 2010 (Released:2016-05-11)
参考文献数
47

Niemann-Pick病C型 (NPC) は小児期の神経変性を特徴とするまれな疾患である. 約20年間この疾患の研究に細々とかかわってきた. この間, NPCの遺伝子, 蓄積脂質, 神経病理, 細胞機能異常などの解明や治療法の開発に大きな進歩があった. 会長講演では, 鳥取大学とその共同研究グループが行った研究成果を中心に報告した.  これまで, 全く治療法がない疾患であったが, ここ数年, 蓄積脂質を減少させ, 神経症状を改善し, モデルマウスの寿命を延長させる複数の方法が開発された. 2009年, 欧米ではmiglustatがNiemann-Pick病の神経症状に有効な薬剤として承認され, 米ではシクロデキストリンが一部の患者さんにFDAから「人道的使用」として使用が承認されている. 日本でも早期に厚生労働省の承認が得られるような努力が求められている.
著者
杉浦 千登勢 呉 博子 田辺 文子 汐田 まどか 前垣 義弘 大野 耕策
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.294-298, 2013 (Released:2014-10-11)
参考文献数
20

【目的】けいれん重積型急性脳症に伴う神経心理学的後遺症の臨床的特徴を明らかにする.  【方法】本症8例の臨床経過を後方視的に検討した.  【結果】全例に運動麻痺はなかった. 亜急性期に5例で不随意運動が出現し, 4例は一過性であった. 5例で口唇傾向, 6例で左半側空間無視が一過性に出現した. 慢性期以降では, 独歩可能となった7例中6例で歩容の不安定性, 7例で注意障害, 7例で対人技能面の問題, 2例で感情失禁が持続していた. 頭部画像所見では, 一過性症状の出現期に皮質下病変, 慢性期持続症状の出現期に大脳皮質萎縮所見を認めた.  【結論】これらの臨床的特徴を把握することは, 適切なリハビリテーションを行ううえで有用である.
著者
大野 耕策
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.81-88, 2016 (Released:2016-03-26)
参考文献数
36

Niemann-Pick病C型 (NPC) は, ライソゾーム脂質輸送蛋白質をコーディングしているヒト染色体18番のNPC1 (患者の95%) またはNPC2遺伝子の変異に伴う常染色体劣性遺伝の神経変性疾患である. この輸送蛋白質の機能不全により, 全身のライソゾーム内に遊離コレステロールが蓄積し, 特に脳神経細胞においてはスフィンゴ脂質が蓄積する. 本邦では, 2015年12月時点で, 34例のNPC患者の生存が確認されているが, 西欧での発症頻度を勘案すると, その約5倍の数の潜在患者がいるものと推計される. NPCは診断法が確立しており, 本疾患に対する治療薬も承認されている. 発症早期から薬物治療を開始することで, 患者の神経症状の進行を遅らせることができるので, 日常診療において少しでもNPCを疑う症例に遭遇した場合は, 速やかに専門施設に紹介することが重要である.
著者
橋本 和広 小枝 達也 松原 康策 太田 茂 大野 耕策 大村 清
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.381-385, 1990-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

3カ月より著明な肝脾腫をきたし, 2歳10カ月頃より退行症状を認め, 徐々に発語も消失し歩行不能となり, 最終的には寝たきりとなり5歳2カ月で死亡したNiemann-Pick病の1例を経験したので報告した.患児の培養皮膚線維芽細胞の酵素学的検査においてsphingomyelinase活性軽度低下と著明なコレステロールのエステル化の障害を認め, 培養皮膚線維芽細胞のフィリピン染色にて特徴的な所見を呈し, Niemann-Pick病C型と診断した.患児の治療に精製dimethyl sulfoxide (DMSO) を使用したが, 脾腫の縮小傾向を認めたものの退行症状を改善することはできなかった.