著者
Milan Zaviačič Tomas Zaviačič Ablin Richard 伊藤 喜久
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.1015-1018, 2003-09-15

1.女性前立腺 女性前立腺は17世紀のオランダ人組織学者Graafにより命名されたが,一般的には19世紀のアメリカ人産婦人科医SkeneにちなんでSkene's paraurethral glandと呼ばれることが多い1,2).筆者らは一貫して女性前立腺の呼称を提唱してきた.この努力が実り,2001年解剖学用語に関する合衆国国際委員会(The Federative International Committee on the Anatomical Terminology;FICAT)が開催され,今後組織学用語集に女性前立腺(prostata feminina)を掲載することに合意に至った. 発生学的には男性同様,尿生殖洞から分化する.スロバキア女性の前立腺の平均重量は5.2g,尿道平滑筋層内に存在して,全周に渡って広く尿道を取り囲む.構造も男性と変わりなく腺上皮,導管上皮からなり,多くの導管が尿道に開口し70%以上は遠位尿道,特に尿道開口部に集中局在している(図1)3).Peroxidase antiperoxidase法(PAP),Biotin -streptoavidin peroxidase法(BSP),Biotin -streptoavidin -alkaline phosphatase法(BASP)いずれの免疫組織染色においても,PSAは表層分泌上皮細胞胞体に濃染され(図2),さらに分泌細胞,基底細胞,導管細胞表面にも局在が認められる.特に表層からは多くのPAS陽性ジアスターゼ抵抗性成分,さらにプロテイン1,前立腺特異的酸性ホスファターゼ,水解酵素,脱水素酵素などを分泌,局所炎症制御,免疫に機能すると推定される4,5).今後,標準化による表示値の統一に問題は残すが,高感度測定法により,健常者女性血清において,最高値は0.9ng/mlにも及ぶことが明らかにされている6).これは男性の基準範囲に近似し,女性においても血中PSAは主に女性前立腺由来と推定される.これまでの光顕,電顕所見,局所産生分泌成分,あるいは前立腺癌,前立腺肥大,前立腺炎など病理組織像を総合すると,女性前立腺は単なる痕跡組織ではなく内分泌,神経内分泌機能をつかさどる泌尿生殖組織と断言できる7~11).
著者
能登 勝宏 柏原 早苗 庄司 和行 小久保 武
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1045-1048, 1999-09-15

アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は,イントロン16に存在する287塩基対の有無により挿入(I)アレル,欠失(D)アレルと表現されII,ID,DDの3型が存在する.今回筆者らはインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者において,この遺伝子型と合併症との関連を検討した.正常対象群とNIDDM患者の遺伝子型頻度はほぼ同じであった.糖尿病性網膜症,高血圧症合併患者においては非合併患者と比較してアレル頻度に差はなかったが,糖尿病性腎症,冠動脈疾患合併患者は有意にDアレル頻度が高かった.このことはNIDDM患者における腎症および冠動脈疾患の発症とDアレルの関与を示唆した.
著者
高井 誠子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1033, 2011-10-15

はじめに 通常,大腸内に存在する大腸菌は下痢などの病原性は示さない.下痢を起こす大腸菌は病原性大腸菌と総称され,5種類に分類されている.また,病原性大腸菌は特定の血清型を示す場合が多いことから,血清型を調べることにより病原性大腸菌を推定することができる. その方法に筆者の施設では,デンカ生研の“病原大腸菌免疫血清”による抗原抗体反応により,病原血清型を検出している.その方法の操作の中で,O抗原の試験を行うためには,オートクレーブで121℃15分間,または100℃60分間の加熱処理を行い,K抗原を取り除く必要がある. 今回のくふうでは,オートクレーブの代わりに,圧力鍋を使用する. 圧力鍋はオートクレーブを小型化したものであるため,代用可能であると考えられる.それどころかオートクレーブは大量の培地を滅菌する場合など内部温度上昇に長時間かかり,また減圧にも時間がかかるのに対し,圧力鍋は小型なため,最初から湯を沸騰させておくことができ,また減圧も一気にできるため,時間短縮が可能という利点もある.またK抗原,O抗原の特性からも,圧力鍋は使用可能と思われる. そこで,以下にオートクレーブに代わる圧力鍋の使用法を紹介する.準備するのは家庭用の圧力鍋で,蓋がきっちりと閉まり,圧が一定にかかるものであればよい.

2 0 0 0 睾丸と加齢

著者
谷澤 徹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.701-702, 1994-06-15

1.はじめに 加齢とともに身体の諸臓器,器官は老化,萎縮する.萎縮の度合いと進み具合は,その臓器の必要度に応じて決まり,胸腺のように思春期に退縮が始まり成人ではほとんど脂肪組織のみに置換されてしまう臓器もある.生殖器も比較的早期にその使命が果たされる器官であり,女性生殖器においては閉経を境に急速に萎縮しその機能が失われる. 男性生殖器においてはこのような急速な萎縮は起こらないものの,血清テストステロン値の年齢推移からみると30歳前後をピークに徐々に,その機能は低下していることが推測される(図1)1).睾丸の容積の年齢推移では,睾丸機能が最盛期を迎える20~25歳で約14mlに達したのち50歳前後から減少し,年齢と弱い逆相関を示す2).

2 0 0 0 HPRT欠損症

著者
藤森 新
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.283-286, 1993-03-15

はじめに ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hypoxanthine-guanine phospho-ribosyltransferase;HPRT)は,プリン塩基のヒポキサンチン,グアニンをそれぞれのプリンヌクレオチドであるIMP,GMPに変換するプリン体の再利用酵素である.本酵素の完全欠損症は自傷行為とアテトーゼ性脳性麻痺を特徴とするLesch-Nyhan症候群を起こすことで有名であり,早くから分子レベルの解析が進み,すでに100例近い患者において遺伝子変異が明らかにされている.また最近では,遺伝子治療の達成に向けて精力的に基礎的研究が進められている.
著者
小延 鑑一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.117, 1968-02-15

比色分析は一般には試料溶液に適当な試薬を加えることにより,目的とする成分(物質)を着色化合物にして,その色調の強さを光電比色計で比較測定する分析法である。着色化合物の溶液が固有の色を呈するのは,その溶液が波長によって異なった吸収を示すことによるもので,白色光が透過した場合,ある波長域の光が吸収されるとそれ以外の波長一すなわち溶液は吸収した光の余色を呈することになる。光の吸収が可視領域で行なわれるような溶液について,白色光を透過せしめてその色調の強さを比較定量するのがいわゆる比色法であり,肉眼では可視光線のみしか観測することができないが,受光部に光電管などを用いると波長領域は紫外から赤外の領域にまで拡張できる。そして比色を単色光ないしはきわめて狭い波長範囲の光を用いて行なうと,分析の精度は高くなるほか種々の利点が生じてくるのである。 比色分析法は,その利用している化学反応一呈色反応一が鋭敏であるために微量分析法に適しているのみならず,その化学反応などの操作の点からも迅速に分析を行なうことができる特徴をもっている。このようなことから臨床化学分析のほとんどがこの比色分析法により実施されているのである。
著者
赤木 宏行
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.397-399, 1991-04-15

種々の神経伝達物質,ホルモン,成長因子が結合するレセプターの分子実体が遺伝子クローニングの手法を用いて次々と明らかにされつつある.これらの受容体は,構造的および機能的特徴の共通項から,3つのグループ(イオンチャンネル型,G蛋白共役型,チロシンキナーゼ型,詳しくは,本誌34巻8月号(1990)の特集を参照のこと)に分類されている.このうち,イオンチャンネル型と呼ばれるものは,細胞膜を4回貫通する受容体サブユニットが4ないし5個集まって1つのイオンチャンネルを構成するタイプのものである(図1,2).この種の受容体は,中枢神経細胞およびニューロンにより直接支配される組織細胞(骨格筋や一部の平滑筋)に存在する.他の2つのカテゴリーに属する受容体が比較的時間経過の長い反応(数分から数時間)を仲介するのに対し,イオンチャンネル型受容体は,ごく短時間(ミリ秒から秒のオーダー)で反応を仲介する.すばやい筋肉の動き,瞬時の思考などの情報処理にはイオンチャンネル型受容体が中心的役割を果たしていると考えてよい.イオンチャンネル型受容体には興奮性のものと抑制性の2つがある.前者はアセチルコリンやグルタミン酸が,また後者には,γ―アミノ酪酸(GABA)やグリシンがそれぞれ伝達物質として作用する.GABAおよびグリシン受容体は,ともにクロライドイオンの透過性を高めることにより抑制作用を引き起こすという共通点を持つが,その実体は異なる物質であることが分子レベルで明らかとなっている.GABA受容体は中枢神経系全域に存在するのに対し,グリシン受容体は下位中枢,特に脊髄に多く存在し,そこで,運動ニューロン(骨格筋を支配する神経)の興奮性を制御している.この受容体が密接に関与する疾患として筋萎縮性側索硬化症(ALS),パーキンソン病,痙性脊髄麻痺などが考えられている.
著者
渡辺 恒彦
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.p17-22, 1975-01
被引用文献数
3
著者
渡辺 恒彦
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.210-214, 1968-03
著者
三ツ橋 雄之
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.1246-1247, 2013-10-30

1.大型血小板とは 大型血小板とは正常な血小板よりも大きい血小板であり,正常の血小板が直径2~3μm程度に観察されるのに対して,4μm以上を呈するものである.塗抹標本上では赤血球との比較で大きさを評価し,赤血球の直径の約半分に相当する4μmから赤血球大(約8μm)までのものを大血小板,赤血球サイズを超えるものを巨大血小板(giant platelet)と呼ぶことが多い. 大血小板や巨大血小板はいくつかの先天性の疾患や後天性の病態で出現することがあり,診断の端緒となることがあるが,健常人でも少数の大血小板や巨大血小板がみられることがあるため,血小板減少の有無,血小板形態の変化,出血などの臨床症状や他の検査値異常の有無などの所見を合わせた総合的な評価が必要である.
著者
伊藤 加代子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.281-283, 2011-03-15

1 . 更年期に現れやすい口腔疾患 更年期世代によくみられる口腔の疾患には,口腔乾燥症,味覚障害,舌痛症,顎関節症,歯周疾患などが挙げられる.実際,女性専門外来の医師にアンケート調査を行ったところ,“口が渇く”“味がおかしい”“舌が痛い”“顎が痛い”などの愁訴が多くみられた(図1)1).これらの症状が,女性ホルモンの減少そのものによって引き起こされているのか,あるいは閉経に伴うストレスが原因となっているのかは,よくわかっていない. 前述のアンケート調査によると,女性専門外来においては,口腔に関する愁訴をカルテに記載するのみで,歯科への紹介には至らないケースもあることが明らかになった.しかし,適切な検査を行って加療することで,口腔の症状が緩解するばかりでなく,更年期症状そのものが軽減する可能性がある. 本稿では,更年期世代の女性に現れやすい口腔疾患とその検査方法について概説する.
著者
井廻 道夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1563-1564, 1989-10-30

末梢血リンパ球あるいは脾細胞を高濃度のリンパ球の分化誘導・成長因子であるリンホカイン,インターロイキン−2(IL−2)の存在下で培養すると,ナチュラルキラー(NK)細胞に抵抗性の株化癌細胞や新鮮な癌組織の癌細胞を殺すキラー細胞が4〜5日で誘導され,このようなキラー細胞はリンホカイン活性化キラー細胞(lymphokine-activated killer細胞;LAK細胞)と呼ばれる.LAK細胞の誘導には腫瘍抗原刺激は必要でなく,LAK細胞は主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibility complex;MHC)に規定されずに広範囲の腫瘍細胞を殺す.LAK細胞は不均一なキラー細胞の集団であり,大きくはMHCに拘束されない細胞傷害性T細胞(CTL)とNK細胞の2群に分かれ,IL−2との培養の初期に誘導されてくるLAK細胞は,主としてNK分画に属し,長期培養を行うとCTL分画のLAK細胞の割合が増してくる. IL−2は,1976年MorganらによりT細胞増殖因子として報告されたヘルパーT細胞により産生されるリンホカインの一種であり,CTLの分化・増殖,NK細胞の増殖・増強,γ—INFの産生誘導を促す作用を有する.1983年には遺伝子組換えIL−2(rIL−2)の生産技術により,大量のrIL−2を得ることが可能となった.
著者
松橋 直
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.440, 1967-06-15

血清学の領域でつかう溶血反応(Hemolysis)という概念は,赤血球と抗体とが反応するとき,新鮮な血清を存在させると,このなかの補体成分の働きにより,赤血球が溶けて中のヘモグロビンが溶け出すことを意味している。したがって結果的には赤血球を水に入れた場合に,滲透圧の高い赤血球の中に水が入りこみ,赤血球がパンクして中のヘモグロビンが溶け出す水溶血反応と似ているが,抗原抗体反応によっておこる点が根本的に異なっている。 溶血反応に重要な役割を演ずる補体(Complement,略してC′)とは,新鮮な動物血清中にある物質であるが単一なものでない。今日では,C′1,C′2,C′4,C′3a,C′3b,C′3c,C′3d,C′3e,C′3fの9成分が知られており,全成分の協力作用で抗体の結合した赤血球を溶血させる。補体は抗原,抗体複合物に結合する性質があり,後述の抗原抗体反応の一種である補体結合反応に重要な役割を演じている。なお,補体は生体外に出すと活性を失いやすく,氷室に保存しても数日しかもたない。
著者
太田 伸生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.102-103, 2018-01-15

文部科学省の学校保健安全法施行規則の改正によって,蟯虫の検査は2015年度で終了となった.誰もが思い出すセロファンテープ法による蟯虫検査であるが,今後,学童の記憶から徐々にフェードアウトしていく運命である.中央部が青色に着色されたセロファンテープを,起床時に肛門に当てて,肛門周囲に産卵された蟯虫卵を検出する方法を“テープ法”,“セロファンテープ法”,“スコッチテープ法”などと呼んでいた.法改正の後,私たちの業界でもいろいろなことが起こり,ここしばらくは混乱が続くであろう.というのも,このセロファンテープの供給が継続できないことになったからである. 蟯虫は別名pin warmとも呼ばれる体長1cm内外の腸管寄生線虫であり,虫卵を経口的に摂取して感染した後,成虫は腸管回盲部に定着寄生する.腸管粘膜侵入性もなく,宿主免疫応答も軽微であるため,感染者はほとんど自覚することはない.雌虫は宿主の夜間就眠中に肛門に出てきて産卵し,肛門周囲の違和感によって手指で触る際に虫卵で汚染され,それが再び経口感染するが,その他に感染者の衣類や手指の接触を介して他者に感染が及ぶこともある.そのような感染パターンのため,感染者は未就学児童や小学校低学年学童が多く,また,同居家族にも感染が及ぶ傾向がある.疫学的には住居内の1人当たりの専有面積と反比例するとされ,集合住宅居住者に多いなど,都市型寄生虫感染症である.セロファンテープ法であるが,ご承知の通り,2日連続検査が行われる.この方法に限らず,検便検査の感度は決して高くなく,蟯虫検査のセロファンテープ法でも,2日法では約半数が偽陰性となることが知られており,9割程度の診断効率を得るには5日連続検査が必要である.最近の都市部学童の蟯虫陽性率は0.3%前後であることからすると,日本国内では学童の200人に1人程度の感染者がいることになる.
著者
岡田 徳弘
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.13, no.13, pp.1294-1296, 1969-12
著者
黒木 由夫 山添 雅己 澤田 格 有木 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.851-859, 2008-08-15

肺サーファクタントは,肺胞Ⅱ型細胞で合成され,肺胞腔に分泌される脂質蛋白質複合体で,その物理化学的表面活性作用により肺胞虚脱を防ぐことにより安定な呼吸を維持する生理活性物質である.肺は常に外界に開放しているので,肺サーファクタントによる生体防御機能は重要である.肺サーファクタント蛋白質のSP-AとSP-DはC型レクチンのコレクチンに属しており,レクチンドメインとコラーゲン様ドメインを有するハイブリッド分子で,肺における自然免疫機能を担っている.in vivoおよびin vitroの研究により,肺コレクチンによる免疫調節機能の分子機構が明らかになってきた.
著者
内場 光浩
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.144-150, 2016-02
著者
所 崇 北島 勲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1687-1692, 2003-12-15

1.サイトカインの特徴 サイトカインとは,免疫担当細胞に代表される様々な細胞から産生される生理活性物質である.サイトカインの特徴を以下に列挙する1). 1) サイトカインは糖蛋白である 多くのサイトカインは糖蛋白であり,分子量約1~10万である. 2) サイトカインは微量で作用する in vitroで,サイトカインはpg~ng/mlの微少な濃度で十分に生理活性作用を示す.一方では,ある一定の濃度以下では生理活性は示されず,作用が発揮される閾値が存在する.また,一定の濃度以上ではプラトーに達してしまうこともある. 3) サイトカインは主に産生された局所にて活性を示す サイトカインは,産生された局所にて活性を示すことが多い.その一例として,関節リウマチの滑膜組織では,インターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF-α)などが大量に産生され,破骨細胞を活性化し骨破壊が起こることが挙げられる. 4) 単独のサイトカインが複数の生理活性作用を示す 多くのサイトカインは1つの分子であるにもかかわらず,多彩な生理活性作用を有する.例えばIL-1は,免疫系の賦活作用以外に,白血球や破骨細胞,血管内皮細胞,滑膜細胞,線維芽細胞など様々な細胞に働き,その活性化を引き起こす.これはサイトカインの“pleiotropy”とも呼ばれる. 5) サイトカイン産生細胞が多様に存在する サイトカインを産生するのは単一の系列に属する細胞群に限らない.IL-1を例に挙げると,マクロファージからだけでなく,T細胞,B細胞,NK細胞,多核白血球,血管内皮細胞,滑膜細胞,皮膚のランゲルハンス細胞など,様々な細胞から産生される. 6) 異なるサイトカインが同一の作用を有する IL-1とTNF-αの生理活性はほぼ同一であり,また産生制御機構も極めて類似している.これをサイトカインの“redundancy”と呼ぶ.このように一見無意味に思われる現象であるが,生体内ではこの現象により危険回避をしている可能性が推定できる.それは1つのサイトカイン遺伝子が何らかの原因によって異常を起こしても,別のサイトカイン遺伝子がこれをカバーするからと考えられている. 7) サイトカインは相乗的あるいは拮抗的に働く IL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカインは同時に複数存在することで,その作用が相乗的に働く.つまり,複数のサイトカインが低い濃度で産生されたときに,単独で働かなくても,それらのサイトカインが同時に存在することで,相乗的に強い活性を示す.この現象は炎症反応における増悪・慢性化に関わっている.またIL-10はマクロファージに作用することで,IL-1やTNF-αの産生を間接的に抑制する.IL-4やIL-13もIL-10同様の作用を持ち合わせており,抗炎症性サイトカインとして注目を集めている. 8) 正のフィードバック機構を有するサイトカインカスケードの存在 1つのサイトカインが産生することで,次のサイトカイン産生が誘導される.このような現象を“サイトカインカスケード”,または“サイトカインネットワーク”と呼ぶ.例として,IL-1が産生されるとTNF-α,IL-6,IL-8,GM-CSFなどの産生が誘導される.炎症反応において,IL-1が産生されることで,さらにIL-1産生が誘導されるという正のフィードバック機構が働くことが知られている. 9) サイトカインインヒビター・アンタゴニストの存在 サイトカインにはインヒビター,またはアンタゴニストが存在する.例えば,IL-1アンタゴニスト(IL-1ra)はIL-1と構造が似ているために,IL-1レセプターと競合的に結合する.すなわちIL-1の活性を特異的に阻害することになる.IL-1raはIL-1レセプターと結合しても,IL-1のように細胞内シグナルを伝達しない.またIL-1raを産生する細胞は,同時にIL-1も産生する.つまり,同じ細胞がIL-1,IL-1raを産生することで免疫応答の調節をしているということがいえる. 10) サイトカインは正と負両面の作用を有する サイトカインは生体の恒常性を保つうえで必要不可欠な存在である.一方で,炎症反応により過剰産生され病態の増悪・慢性化につながる.例えば関節リウマチ患者の関節滑膜ではIL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインが大量かつ持続的に産生される.これにより滑膜細胞の増殖,破骨細胞の活性化,軟骨細胞の破壊が起こり,関節組織が破壊される.またサイトカインがサイトカイン産生を誘導し,炎症の慢性化を引き起こす.
著者
吉井 信夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.659-664, 1969-08-15

最近のトランジスタなどの半導体に関する技術の進歩は,非常に目ざましいものがあり,脳波計や心電計の増幅器などがだんだんとトランジスタ化されてきた.そして,心電計のほうは,すでにオールトランジスタ化されている.しかし,脳波計のオールトランジスタ化はなかなか困難があり,これまでは不可能ではないかと考えられていたが,電界効果トランジスタ(Field effect transistor;FETとよぶ,図1)が開発されて脳波計のオールトランジスタ化が成功し,一昨年の脳波学会の医療器械展示会では各社がいっせいに新脳波計の発表を行なった.このトランジスタのおかげで,脳波計のオールトランジスタ化,ひいては小型化・軽量化ができるようになった.FETは脳波計以外にも各種の用途があつて,近い将来,医用電子の分野で真空管を駆逐してしまうことが予想されるくらいである,以下,この半導体について説明を加えるが,そのまえに,まずトランジスタについてだいたいの概念をもってもらうために,その一般について簡単に述べよう.
著者
中原 雄二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.439-446, 1995-04-15

毛髪薬物分析の歴史に続き,毛髪の組織構造や生態に関して説明し,①毛髪試料の前処理,②毛髪中の薬物の抽出法と分析方法,③薬物使用量と毛髪中薬物濃度の相関,④毛髪中の薬物の移動,⑤毛髪中の薬物分布と薬物使用歴,⑥毛髪中の薬物の安定性,⑦血中薬物濃度の比率と毛髪中濃度,⑧毛髪への薬物取込率,⑨毛髪分析による薬物依存症の診断への試み,⑩覚醒剤ベビー,⑪多剤乱用,の項目で毛髪中薬物分析の基礎から応用まで述べた.〔臨床検査39: 439-446, 1995〕