著者
若倉 雅登 曽我部 由香 原 直人 山上 明子 加茂 純子 福村 美帆 奥 英弘 仲泊 聡 三村 治
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.7-13, 2021-03-25 (Released:2021-04-03)
参考文献数
20

【目的】眼球や視路に原因を求められないが,日常的に保有視覚を阻害されてしまう場合がある.この実態をさぐるために,全国的に臨床的特徴を検討すること. 【方法】日常的に保有視覚が常時阻害されている症例を,神経眼科およびロービジョンの専門家の有志でワーキンググループ(WG)にて収集した.2018年11月から2019年4月までの6か月間に眼瞼痙攣,心因性視力障害,詐病を除く上記に見合う症例をWGのメーリングリスト上で報告し内容を検討した.最終的に以下の二次的除外基準を設けて症例を絞り込み,その臨床的特徴を考察した.1)頭部MRIなどで病変が同定できる症例,2)視覚に影響を及ぼす精神疾患が確定している症例,3)眼位,眼球運動障害による視覚障害が出現している症例である. 【結果】最終的に対象となった症例は33例(16歳から80歳,男女比(9:24))が収集された.これらの臨床的特徴を解析すると,非眼球性羞明26例,眼痛5例と視覚性感覚過敏が目立った.両者とも有する例が21例,両者ともないものが1例であった.これらの多くは注視努力(企図または遂行)によって症状が悪化する傾向にあった.33症例の報告の内容から,3例以上に共通して随伴していた臨床的特徴としては脳脊髄液減少症,片頭痛,ベンゾジアゼピン系薬物の連用,線維筋痛症があった. 【結論】眼球や視路に原因がないのに,日常視を妨げる恒常性の羞明や眼痛を有する症例が少なからず存在することがわかった.これらは,視覚関連高次脳機能障害のうち,感覚過敏が前面に出たものと考察できるが,詳細なメカニズム解明は今後の問題である.
著者
廣川 貴久 西川 優子 戸成 匡宏 奥 英弘 池田 恒彦
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-52, 2021

<p> 貧血が主要な原因と考えられた頭蓋内圧亢進の一例を経験した.症例は16歳,女性,霧視を主訴に近医を受診し,うっ血乳頭の疑いで本学紹介受診した.頭蓋内病変は認められなかったが,血液検査で強い貧血を認め,標準体重から150%以上の肥満があった.特発性頭蓋内圧亢進症を疑い,アセタゾラミド内服,高浸透圧利尿剤点滴で治療を開始したが,うっ血乳頭は改善を認めなかった.貧血精査の過程で婦人科受診し,過多月経に対して女性ホルモン薬が投与され,貧血の改善とともに,うっ血乳頭,視力,視野所見の改善を認めた.貧血は頭蓋内圧亢進の原因となるため,頭蓋内圧亢進症が疑われた場合,貧血の有無を確認し,貧血の治療を行う必要があると考えられた.</p>
著者
宮田 幹夫 奥 英弘 福島 一哉 堀内 浩史 難波 龍人
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

スギ花粉症の増加が近年種々話題になってきている。今回実験スギ花粉症におよぼす生活環境因子の検討を試みた。その結果身近な環境汚染物質りある、有機燐殺虫剤、有機燐除草剤、トリハロメタン、パラジクロロベンゼン、タバコ煙、食品色素としてタートラジン、および赤色3号、食品酸化防止剤などがスギ花粉によるモルモットのアレルギー性結膜炎を増悪させることが判明した。しかもそれらの増悪を引き起こす濃度はppmまたはppbレベルという極めて微量な濃度であった。むしろ高濃度ではその増悪作用はやや弱い傾向があった。これらの結果は従来の古典的な中毒学の細胞の変性、死を目標とする濃度とはまったく異なり、免疫系への毒性は極めて低濃度でその毒性が発揮されているのが分かる。いまだそれらの混合負荷、すなわちtotal body burdenに関する実験は行っていないが、今後の研究課題も残ったままである。なお実験経過中に化学的環境のみでなく、物理学的環境にも眼を向ける必要性があるかと思われ、VDT作業で問題となるCRT画面曝露の影響を観察したが、機械的は角膜上皮障害のみでなく、CRT曝露によるアレルギー性結膜炎の著しい増悪作用が認められた。CRT画面からは低周波の電磁波が放射されており、各波長による電磁波の影響が今後の研究課題としてのこった。近年の花粉症の増加の原因をスギ花粉の増加に求めようとするのは余りにも非科学的な発想であり、むしろ生活環境の変化に求めるべきである、今回の実験から免疫系に及ぼす環境因子の重要性を明らかになし得た。