著者
茶木 茂之 奥山 茂
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.196-200, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

ストレス社会を反映して,うつ病・不安障害などのストレス性疾患を患う患者数は増加の一途を辿っているが,現在使用されている抗うつ薬は治療効果および作用発現の速さという点で必ずしも満足できるものではない.最近,種々の神経ペプチドと呼ばれる短鎖アミノ酸がストレス反応において中心的役割を果たす分子として注目されている.神経ペプチドは感情およびストレス反応に関与する脳内の特定部位において生合成され,神経伝達物質あるいは調節物質として機能する.さらに,それらの発現および遊離はストレス負荷によって顕著に変化し,脳内神経回路あるいは神経内分泌系を介して種々のストレス反応を惹起する.神経ペプチドは細胞膜表面に発現するそれぞれの神経ペプチドに特異的な受容体に結合することにより生理機能を発現する.さらに,それぞれの受容体には通常数種類のサブタイプが存在することが知られている.各神経ペプチド受容体サブタイプに特異的な化合物および受容体サブタイプの遺伝子改変動物を用いた行動薬理学的検討により,各神経ペプチド受容体サブタイプの生理機能およびうつ病との関連が明らかになりつつある.これら神経ペプチド受容体の中で,コルチコトロピン放出因子1型受容体,バソプレッシン1b受容体,メラニン凝集ホルモン1型受容体およびメラノコルチン-4受容体はストレス反応との関連が示唆されている.さらに,それぞれの受容体に特異的な拮抗薬が創出され,種々動物モデルにおいて抗うつ作用が認められたことから,これらの受容体の新規抗うつ薬創出のターゲットとしての有用性が期待される.