著者
平野 綾 奥平 奈保子 金井 日菜子 峯下 圭子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.418-427, 2010-09-30 (Released:2011-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

単語の復唱・音読は良好だが呼称時のみ音韻探索が著明で,多彩な錯語を呈した流暢型失語の 1 例を報告した。症例は 69 歳,右利き女性,高校卒。左側頭─頭頂葉の脳梗塞で中重度流暢型失語を発症,会話時ほとんど錯語はなく流暢に話すが,指示代名詞の多い空虚な発話だった。呼称時の誤反応を,語彙性,意味的関連性,音韻的関連性の観点から,意味性・無関連・形式性・混合性・音韻性錯語および新造語の 6 つに分類した結果,これらすべての種類の反応が認められた。特に,音節・韻律構造といった語の「枠組み」が保たれた非単語が多数認められた点が特徴的で,これらは,語の音韻形式のうち音節・韻律情報に比べて音素情報が得にくく,回収された語の枠組みを埋めようと音素を探索する過程で表出されたと考えられた。また,形式性錯語や,複数語彙が混合したと思われる非単語が認められたことから,語選択における語彙レベルと音韻レベルの相互的な影響も示唆された。
著者
藤田 郁代 物井 寿子 奥平 奈保子 植田 恵 小野 久里子 下垣 由美子 藤原 由子 古谷 二三代 笹沼 澄子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.179-202, 2000-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
35
被引用文献数
5 13

本委員会は, 1993年から「失語症語彙検査」の開発に着手し, 現在までに中核部分の諸検査: 語彙判断検査, 名詞・動詞検査, 類義語判断検査, 意味カテゴリー別名詞検査を作成した.本検査の目的は, 脳損傷患者の単語の表出・理解機能を多面的に評価し, 言語病理学的診断, 治療方針の決定, 治療効果の測定等に役立てることにある.今回は, 本検査を健常者に実施し, データを分析した.健常者の成績は, すべての検査において満点に近く, 本検査の課題は健常者にとって容易であることが明らかとなった.年齢および性による成績の差は大部分の検査において有意ではなかった.語の頻度効果を語彙判断検査, 名詞表出検査, 名詞理解検査において, 心像性効果を語彙判断検査, 名詞理解検査, 類義語判断検査において認めた.以上および先行研究の結果から, 本検査は脳損傷患者の単語の理解, 表出機能を評価する上での手段になりうると考えられた.