著者
奥沢 忍 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.185, 2022-06-30 (Released:2022-07-15)
参考文献数
18

要旨: 聴覚障害のある教員 (聴覚障害教員) の職業生活と課題に関する質問紙調査結果を用い, 内容妥当性, 構成概念妥当性, 内的整合性など信頼性を確認して, 評価尺度 (40項目) を作成した。本尺度の項目は内容から, 国際生活機能分類 (ICF, WHO) における参加制約, 対応行動, 精神衛生の水準に対応すると解釈された。聴覚障害教員における参加制約は, 聴覚情報の制約, 他職員の障害理解, 保護者や児童生徒との関係, 障害による不安と懸念などの因子で規定されていた。とくに, 聴児を担当する教員や中等度難聴を有する教員において, 聞こえる児童等との関係形成に制約が生じ, 不安・懸念が大きい傾向が示された。課題の解決には, 教育職の意義の自覚に基づいた対応行動形成が重要であると指摘した。本尺度を用いて, 聴覚障害教員の職業生活と課題について個別に検討することで, 教育現場での参加制約の改善を図ることが有用と示唆された。
著者
野原 信 廣田 栄子 仲野 敦子 有本 友季子 猪野 真純 奥沢 忍
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.134-144, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
23

要旨: 難聴診断後に早期観察・指導を行った小学校就学前後期の軽中等度難聴児12名に対し, ①言語発達の諸側面と, ②会話時の他者の感情推測の発達について検討し, 4~6歳聴力正常幼児 (聴児) 34名の結果と比べた。 軽中等度難聴児では, PVT-R 語彙検査では概ね年齢相応の発達を示したが, CCC-2 言語評価の形式的・語用的な側面には遅滞を示した。 軽中等度難聴児は5歳で自己準拠, 6~7歳で他者準拠の情報を用い他者の感情推測を行い, 聴児と同様の発達傾向を示した。 行動特性による他児の感情推測は, 5歳で遅滞を示すものの6歳で良好な発達を示し, また, 検査時月齢と言語の形式面 (音韻・語彙・構文・談話) 要因の関与が認められ, 長期的な観察と指導適用の検討が必要と考えられた。 軽中等度難聴児では, 場面状況, 行動特性などの複数情報を用いた他者準拠型の感情推測に基づいた会話理解の発達について注目することの有用性が示唆された。
著者
奥沢 忍 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.72-82, 2017-02-28 (Released:2017-06-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

要旨: 全国の聴覚特別支援学校及び通常校に勤務する聴覚障害教員120名を対象に, 郵送および web による自記式質問紙調査を行い, 就労の実態と課題, 心理社会的影響について調査し, 職場環境の在り方について検討した。その結果, 就労の際の情報保障についてろう学校で手話が多く用いられ, 通常校で低下した。教員は, 聴覚障害による各種制約, 保護者との連携, 児童の教育遂行などのコミュニケーションをストレッサーと感じ, 課題対応のコーピング行動としては教師間の協働など各種の人間関係形成が有効とされた。通常校の教師では, コーピング行動はストレス低減に関与せず, ストレス解消行動の形成に課題を示した。教師の職務満足度は概ね高いが, 職務開発や能力開発, 昇任など, キャリア形成に関わる領域では低下し, 聴覚障害教員の就労には, 障害に関する啓発や, 校内での情報支援と人間関係形成支援の体制化が必要であるといえる。