著者
栗原 房江 廣田 栄子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.669-678, 2012 (Released:2013-03-07)
参考文献数
17

2001年に, 保健医療従事関連法における国家資格取得要件が絶対的な欠格条項から, 相対的記載に改正された。そこで, 本研究は聴覚障害をもつ保健医療従事者 (医師, 歯科医師, 薬剤師, 保健師, 助産師, 看護師, 准看護師, 診療放射線技師, 臨床検査技師, 言語聴覚士) 56名の就労に関する実態を調査し, 改正当初と比較して8年の変容と就労環境整備に向けた課題を検討した。その結果, 保健医療専門職および就労先は増加していた。また, 医療施設に就労する者のうち80dBHL以上の例は57.9%であり, 聴力要因による就労状況の差は認められなかった。また, 聴覚障害に起因する転職経験者の割合に改善傾向はみられない, 就労環境における合理的配慮の限界等, その実態は厳しく, 情報保障環境の未整備も指摘された。そのため, 欧米の就労例を参照して本調査結果を考察し, 具体的な就労支援方法に関する検討が望まれた。
著者
岡野 由実 廣田 栄子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.648-659, 2015-12-28 (Released:2016-06-09)
参考文献数
24
被引用文献数
4

要旨: 一側性難聴者4例を対象として, 聞こえの障害の実態と障害認識について, 自己評価尺度と半構造化面接を用いて検討し, 当事者の視点で後方視的に分析した。 自己評価尺度からは, 患耳側や騒音下の聴取, 音源定位などについて日常的に高い聞こえの困難度が指摘され, 心理社会的な課題には個人差を認めた。 叙述からは, 一側性難聴による聞こえの障害に関し, 4種のカテゴリと27種の概念が生成され, 難聴の自覚から社会生活上の課題に対処し受容していく個別の経緯と, 関連要因を検討した。 学童期から成人期までの一側性難聴による聞こえとコミュニケーションの障害についての心理的な受容と変容, 対処には共通性を認め, とくに, 思春期までの障害観の形成と発達課題の充実に, 養育者の心理状況や障害観等の影響が指摘された。 当事者の発達段階に応じた情報提供や同障者との交流など, 養育者と当事者に対する診断期からの長期的支援の視点の必要性が示唆された。
著者
大原 重洋 廣田 栄子 大原 朋美
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.198-205, 2020-06-30 (Released:2020-07-16)
参考文献数
20

要旨: インクルーシブ環境にある聴覚障害児童・生徒7名 (平均聴力レベル78.9 ± 18.6dBHL : 52.5~107.5) を対象に, 無線補聴システムの効果について検討した。雑音負荷語音明瞭度検査と, 主観的評価 (視覚的アナログスケール: VAS, 聞こえの感覚尺度: SSQ) を用いて評価した。その結果, 無線補聴システムの使用により, 雑音下の語音聴取能力が10~20%向上した。 同システムによる改善効果は, 高い雑音負荷条件 (SN 比 0~-5dB) で顕著であった。一方, 主観的評価 (VAS) による教室での聴取改善率は40%と高く, 改善の背景として, 話者音声の聴取努力 (SSQ) の低減の効果が考えられた。無線補聴システムの評価では, 雑音負荷語音聴取成績に加え, 児童・生徒の教室場面での主観的な評価を用いることの有効性を指摘できる。
著者
廣田 栄子
出版者
日本リハビリテーション連携科学学会
雑誌
リハビリテーション連携科学 (ISSN:18807348)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-15, 2022-06-30 (Released:2022-12-01)
参考文献数
44

近年では, 補聴器・人工内耳等の機器開発と医療・療育・教育領域の進歩により, 聴覚障害児者における聞き取りの向上や社会的なバリア, その支援の現状について注目されている. そこで本稿では, 日本と米国と英国, World Health Organization (WHO) の人口統計や政府統計・研究報告等を用いて, 難聴による, コミュニケーションのバリアと支援に関する法的背景と実態について紹介し, 同テーマについて展望することを目的とした. ろう/難聴児者にとって, 情報・コミュニケーションの制約は, ICF (International Classification of Functioning, Disability and Health) の生活機能の構成要素として, 幼児から高齢期の生活で重大な影響を及ぼすものと指摘されている. ICFの観点からも, 支援等に関わるリハビリテーション専門職は, 共生社会の構築に向けて, ろう/難聴児者の多様な情報・コミュニケーションのニーズに応じた, 社会的支援のあり方について理解が要請されていることが示唆される.
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.69-77, 2020-02-28 (Released:2020-03-13)
参考文献数
20

要旨: 聴覚障害者の親をもつ健聴児 (CODA) 104例を対象に, 親への通訳役割の実態と課題について後方視的に調査を行い, 関連する要因を検討した。その結果, CODA は幼児期 (平均6.48歳) から親の通訳役割を担い, 通訳は生活の多岐にわたり, 併せて親の代理交渉を伴うなど, 成長期に心理的負担となっていた。聴覚障害の親との会話では, 手話法が92例 (88.5%), 聴覚口話法が74例 (71.2%) であり, 一方で身振りや筆談等が併用され, 会話が十分に成立する例は半数と少なく, 会話に課題が示された。重回帰分析により通訳頻度には, 両親が聴覚障害者, 通訳開始年齢が低いという変数が関与し, 親子の会話には, 両親が聴覚障害者の変数が関与した。聴覚障害の親に対しては養育への早期支援, 小児期の CODA に対しては, 通訳負担の軽減と心理的ケアおよび親子の円滑な会話成立の支援が必要であり, 当事者組織や関係する専門家による的確な助言や支援体制の整備が喫緊の課題であると示唆された。
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.113-121, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
16

要旨: 高等教育機関に通う軽・中等度難聴学生7名, 比較対象として人工内耳装用 (CI) 学生8名, 高度難聴学生3名に対し web による自記式質問紙調査と面接調査を行い, 音声と環境音認知の評価 (SSQ-12) と, 心理社会的困難について評価した。 軽・中等度難聴学生は, CI 学生と比べて「音声理解」や「空間認識」について聞こえの困難感を示し, 楽器音や日常音の鮮明さなど「音の質」で問題は少ないとした。「傾聴努力」では全例で困難度が高かった。 軽・中等度難聴学生と CI 学生の心理社会的困難度 (数量化Ⅲ類解析) は, 難聴開示の戸惑い, 自己同一感の低下, コミュニケーション不全感, 心理的防衛の4象限に布置し, 心理的機制と対社会的機制の2軸で構成された。 軽・中等度難聴学生では難聴開示に心理的負荷が高く (p<.01), 学生支援では障害理解状況を把握し, 小児期からの継続した助言指導の必要性が示唆された。
著者
野原 信 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.61-68, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
20

要旨: インフォーマルな会話場面では, 話者の感情理解を背景に発話の意図を理解することが少なくないが, 聴覚障害児では会話時の情報制約により, 話者の感情理解が困難な状況が生じうる。そこで, 本研究では, 聴覚障害学童45名に対し, ポジティブ感情とネガティブ感情を惹起する図版について, 登場児・対象児の二者視点を組み合わせた条件で, 会話場面における感情認知と感情説明の発達について検討し, 聴力正常学童232名の結果と比較した。その結果, 聴覚障害児では, ネガティブ感情について, 一部で感情認知の共有が低下し, 感情説明について言語能力要因の関与が示された。言語発達支援では会話場面での感情理解に注目し, その説明を加えるなど理解の促進をはかることの重要性について指摘した。
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.219-228, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

聴覚障害の親をもつ健聴の子ども(CODA)における親への通訳役割は,情報伝達にとどまらず親と社会との仲介役を担い,親子関係の形成に影響を与えることが指摘される.本研究では,CODAの児童期から成人期の通訳経験を通して形成された親子の認識とその変容を,質的側面から明らかにした.CODA成人25名,聴覚障害の親19名を対象とし,個別の半構造化面接(M-GTA)を用いて解析した.その結果,逐語録320,849文字から概念27種,カテゴリ6種,サブカテゴリ6種が生成された.CODAは児童期では無意識に親を擁護し,青年期では通訳と親に葛藤を生じさせるが成人期には受容した.親は,CODAの児童期と青年期ではCODAの通訳を頼るものの成人期では自立を志向する姿勢であった.CODAが,児童期に親を擁護する認識および成人期に親を受容する契機には独自性があった.親の受容にいたる心理的自立時期は個人差を示した.
著者
廣田 栄子 田中 美郷 前田 知佳子 芦野 聡子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.287-295, 1988

普通小学校に在籍する高度感音性聴覚障害児91例を対象とした.そのうち13例は幼児期に3年以上手指法を用い聴覚と読話を併用していた (指文字6例, キュード・スピーチ7例) .幼児期より聴覚口話法を用いた78例の検査結果と比較した.被検児に対し読書力検査と失語症構文検査を行い言語力を評価し, 57S語音明瞭度検査と単語了解度検査を用いて語音聴取力を評価した.話声位検査, 100音節発語明瞭度検査, アクセント検査を用いて発声発語力を評価し, 発話の聴覚印象によって音声障害の重症度を評価した.その結果, 幼児期に用いた言語メディアによって学童期の言語力に差は認められなかった.一方, 手指法を併用した聴力75dB以上100dB未満の症例では, 音声の韻律的障害が著しく, 聴覚口話法を用いた症例と比べて発声発話力の低下を認め, 単音節語音の弁別力の低下を認めた.これらの症例に手指法を併用するときには, 聴覚活用と音声障害の改善について配慮が必要であると結論した.
著者
中市 真理子 廣田 栄子 綿貫 敬介 成沢 良幸
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.209-215, 2014-06-30 (Released:2014-11-06)
参考文献数
6

要旨: 本研究では, 全国の乳幼児補聴器適合施設に対し, 補聴器装用・機能の状況と, 補聴器選択に関して調査した。乳幼児に適合されている補聴器型は, 耳かけ型が最も多く, ベビー型の使用数は低かった。乳幼児の補聴器機能では, ボリューム固定, ハウリング抑制, 雑音低減, ワイヤレス, 指向性の順で使用されていた。常用や装用を妨げる原因にハウリング, 補聴器を嫌がる, 耳から外れやすいがあり, 補聴器の故障原因は, 汗が多かった。乳幼児の補聴器選択において, 経済的負担軽減 (障害者自立支援法: 現障害者総合支援法対応), 耳介にあった形状, ハウリング抑制機能, 装着のしやすさ, 防水性能が重視されていることが確認された。補聴器適合担当者は, 補聴器の日常使用の利便性の向上と, 発達への対応における保護者負担の軽減への要望が高かった。また, 早期難聴診断や補聴・支援に関する社会啓発と, 診断機関と療育・教育機関の情報共有の指摘も高かった。
著者
野原 信 廣田 栄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.305-311, 2014 (Released:2015-02-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

聴覚特別支援学校小学部2~3年生の高度聴覚障害児(HH児)21名と同学齢の聴力正常な典型発達児(TD児)60名を対象にし,向社会的および反社会的な動作主の行為の意図と受け手の反応が,通常と一致した条件と矛盾した条件を設定して,他者の行為意図説明能力の発達について検討した.その結果,両群ともに,一致した条件に比べ矛盾した条件で行為意図に関する説明の正答率が低下した.HH児はTD児に比べ,両条件で成績の低下を認め,矛盾した条件における動作主の行為意図説明では,語彙や説明内容が乏しい叙述傾向を認めた.行為意図説明の正答率は,基礎的言語能力としての読書力と相関が高いが個人差を認め,発達の評価に基づいた個に応じた指導が必要と考えられた.高度聴覚障害児では,社会的経験に基づいて密接なコミュニケーションを配慮した言語学習の重要性が示唆された.
著者
奥沢 忍 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.185, 2022-06-30 (Released:2022-07-15)
参考文献数
18

要旨: 聴覚障害のある教員 (聴覚障害教員) の職業生活と課題に関する質問紙調査結果を用い, 内容妥当性, 構成概念妥当性, 内的整合性など信頼性を確認して, 評価尺度 (40項目) を作成した。本尺度の項目は内容から, 国際生活機能分類 (ICF, WHO) における参加制約, 対応行動, 精神衛生の水準に対応すると解釈された。聴覚障害教員における参加制約は, 聴覚情報の制約, 他職員の障害理解, 保護者や児童生徒との関係, 障害による不安と懸念などの因子で規定されていた。とくに, 聴児を担当する教員や中等度難聴を有する教員において, 聞こえる児童等との関係形成に制約が生じ, 不安・懸念が大きい傾向が示された。課題の解決には, 教育職の意義の自覚に基づいた対応行動形成が重要であると指摘した。本尺度を用いて, 聴覚障害教員の職業生活と課題について個別に検討することで, 教育現場での参加制約の改善を図ることが有用と示唆された。
著者
大原 重洋 廣田 栄子 大原 朋美
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.122-133, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
31

要旨: 聴覚音声モードにある中等度難聴幼児学童5名 (平均聴力レベル 61.1 ± 5.3dBHL) のナラティブ発達の特徴について, 高重度児5名 (97.2 ± 15.6dBHL) と比較して, マクロ, ミクロの構造を評価し, 関連する要因を検討した。 マクロ構造については, 中等度難聴児は29.2 ± 3.9%であり, 高重度群50 ± 12.1%より構成要素の使用率が少なく遅滞を示した。 ミクロ構造では, 結束性について難聴程度による差はなかったが, 中等度難聴群では, ナラティブを構成する異なり語彙数が少なかった (中等度 : 18 ± 4.9語, 高重度 : 31 ± 3語) 。 中等度難聴児のナラティブの遅滞に関連する要因として, 療育開始の遅れと, 養育者のコミュニケーションスキル要因に関与を認めた。 中等度難聴児では, 個別に発達を評価し, 必要に応じて養育者と連携して早期からコミュニケーション支援の体制を構成することの重要性が示唆された。
著者
野原 信 廣田 栄子 仲野 敦子 有本 友季子 猪野 真純 奥沢 忍
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.134-144, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
23

要旨: 難聴診断後に早期観察・指導を行った小学校就学前後期の軽中等度難聴児12名に対し, ①言語発達の諸側面と, ②会話時の他者の感情推測の発達について検討し, 4~6歳聴力正常幼児 (聴児) 34名の結果と比べた。 軽中等度難聴児では, PVT-R 語彙検査では概ね年齢相応の発達を示したが, CCC-2 言語評価の形式的・語用的な側面には遅滞を示した。 軽中等度難聴児は5歳で自己準拠, 6~7歳で他者準拠の情報を用い他者の感情推測を行い, 聴児と同様の発達傾向を示した。 行動特性による他児の感情推測は, 5歳で遅滞を示すものの6歳で良好な発達を示し, また, 検査時月齢と言語の形式面 (音韻・語彙・構文・談話) 要因の関与が認められ, 長期的な観察と指導適用の検討が必要と考えられた。 軽中等度難聴児では, 場面状況, 行動特性などの複数情報を用いた他者準拠型の感情推測に基づいた会話理解の発達について注目することの有用性が示唆された。
著者
赤松 裕介 廣田 栄子 尾形 エリカ 山岨 達也
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.34-42, 2022 (Released:2022-01-28)
参考文献数
20

小学校就学前にCI手術を受け,当科にて聴覚管理を行っている先天性重度聴覚障害児123名を対象に,小学校低学年(1-3年生)時の読書力検査(教研式読書力診断検査)と聴取能検査(福田版明瞭度検査単音節語表)の結果を後方視的に解析した.読書力偏差値は大きな個人差を認めたが,症例の54%で健聴児平均以上を示し,CI装用下の単音節聴取能と有意な相関を示した.読字力領域では,おおむね健聴児平均以上の良好な傾向を示し,語彙・文法・読解鑑賞領域で低下した.発達障害例,蝸牛神経低形成例は読書力に影響を与えることが示されたが,内耳奇形例と4歳以上手術例に必ずしも読書力の低下を示さなかった.聴取能の予後不良因子を除いた標準例の読書力偏差値は症例の61%(平均偏差値49.8)で健聴児平均以上を示し,動作性知能指数と単音節聴取能の関与が示された.今後,教育環境や家族要因などについても検討を行うことが必要と考えられる.
著者
前田 晃秀 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.632-643, 2016-12-28 (Released:2017-04-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

要旨: 全国97自治体の協力を得て実施した実態調査により得た高齢期の盲ろう者2,018名のデータをもとに, 障害やコミュニケーションの状況について検討した。 その結果, 高齢期の盲ろう者は, 視覚・聴覚いずれも後天的に受障した者が74.6%を占め, 聴覚活用が可能な弱視難聴は46.1%, 全盲難聴は25.6%, 聴覚活用が困難な全盲ろうは10.3%, 弱視ろうは8.9%であった。 補聴器の受給は46.4%に止まり, 難聴で補聴器を受給している者であっても初対面者の発話が理解可能なものは半数に過ぎなかった。 さらに, 全盲ろう者では, 会話頻度が月2日以下の社会的な孤立状況にある者が32.4%を占めていた。 盲ろう者に関わる各種専門職が連携して, 障害の程度や受障の経緯に応じ, 補聴や聴覚活用, 代替的コミュニケーション・モードやリハビリテーションに関する情報提供とともに, 専門的支援の体制化が必要であることが示唆された。
著者
新田 真由子 宮島 双葉 船木 道 廣田 栄子
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.16-22, 2004-11-01

当センターに通園する軽度~高度聴覚障害幼児の5歳児5例を対象とし,個別発達を配慮しながら集団話し合い場面で訂正方略の使用を促し,発話を観察分析して,①会話成立への影響,②言語聴覚士から他児への汎化,③訂正方略の推移など話し合い活動にもたらす影響について発達的に検討した.その結果,5歳代後期における会話では一方的な自発話が減少し,応答受信時の発話が増加し,併せて訂正方略使用率が増加した.また,訂正方略を用いた応答発話は,5歳代初期に言語聴覚士を対象とし後期には他児への使用に汎化した.さらに,5歳代初期~中期には,「全体型」から「確認型」の訂正方略に推移し,後期には,詳細な会話内容を問う「限定型」への移行を認めた.訂正方略技術を指標として話し合い活動の発達を促進・評価することの有効性が確認された.