- 著者
-
奥田 安弘
ライアン トレバー
- 出版者
- 日本比較法研究所
- 雑誌
- 比較法雑誌 (ISSN:00104116)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.3, pp.45-77, 2019
本稿は,重国籍者の国会議員資格に関する日豪の事例を比較し,その法的分析を試みるものである。第1章では,台湾人の父と日本人の母から生まれた蓮舫議員の事例を中心として,日本法上の問題点を分析する。すなわち,中国では,中華民国政府が存在していたが,新たに中華人民共和国政府が成立し,日本は,1972年に中華人民共和国政府を中国の正統政府として承認した。そこで,蓮舫議員が中国国籍をも保有する重国籍者であるか否かを判断するにあたり,いずれの政府の国籍法を適用するのかという問題が生じる。また,仮に蓮舫議員が重国籍者であるとすれば,日本の国籍法上,国籍選択の義務を負うとされるが,国籍選択をしなかった場合に,どのような効果が生じるのか,という問題に目を向ける必要がある。さらに,現行の日本法において,重国籍者が国会議員となる資格が制限されていないことを確認したうえで,立法論として,将来制限されるべきであるのかも考察する。第2章では,オーストラリア法における連邦議員の重国籍問題を取り上げ,現行法上の制限を緩和するための改正が必要であることを明らかにする。まず,連邦議員の資格剥奪の手続および要件を考察する。つぎに,オーストラリアがイギリスの旧植民地であること,連邦制を採用すること,権利章典を有しない国であることから派生する法律問題を扱う。さらに,従来からの法改正の動向を紹介しながら,現行規定が恣意的であり,明確性を欠き,政治に左右されやすいため,全面的に廃止するか,またはより忠誠の衝突の防止という目的に適した制度に改めるべきであることを主張する。最後に,以上の日本法およびオーストラリア法の考察から,両者に共通する面があることを明らかにし,重国籍者の国会議員資格について,将来あるべき法律論への展望をもって,本稿のまとめとする。