著者
太宰 潮 西原 彰宏 奥谷 孝司 鶴見 裕之
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.42-52, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

小売業にオムニチャネルという言葉が登場して10年近くが経ち,その間小売業がインターネットやモバイルデバイス上のアプリなどを介してマーケティングを行うことは一般的なものとなった。しかし,デバイスや通信方法がいかに進化しようとも,自社が管理もしくはアプローチ可能なチャネルを介して顧客とやり取りをするという基本は変わらない。本論では,オムニチャネル環境下において,アプリ利用などのエンゲージメント行動の理解促進を目的とし,マルチチャネル研究の知見を応用することで,小売業の評価や既存の顧客指標との関連を探索した。その結果,ショールーミングなどの経験がオムニチャネル戦略を行う企業の評価を高めること,エンゲージメント行動はRFMなどの既存指標と強く相関をするが,売上増の要因となるのは来店頻度がより高まることにあること,複数のコミュニケーションチャネルを利用することで,来店に相乗効果が生まれることなどを示した。また自社保有チャネル外の分析例からは,小売業のアプリ利用の前後に,ポイント獲得が主目的と考えられる他社アプリを集中的に使うセグメントの存在などを示し,エンゲージメント行動を行う顧客の多角的な理解を進めた。
著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.93-105, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
40

本稿の目的は,消費者によるオムニチャネル統合度(Omni-Channel Intensity;以下OCI)知覚が,オムニチャネル買物体験におけるモバイル・アプリケーション(以下モバイルアプリ)の利用および,購買意図とブランド推奨意図に与える影響を明らかにすることにある。オムニチャネル買物体験の知覚指標であるOCI(Huré, Picot-Coupey, & Ackermann, 2017)は,オムニチャネル・ショッパー(Omni-Channel Shopper;以下OCS)によるモバイルアプリ受容行動と購買意図に影響を与え,その体験がブランド推奨にも影響を及ぼすと考えられるが,この関係性に着目した研究は少ない。本研究は理論的枠組みとして技術受容モデルを採用し,因果モデルを提案した。アパレル企業におけるOCSを対象とした定量調査を行った結果,直接効果としてOCIの構成概念であるシームレスネスはモバイルアプリの利用容易性と購買意図に正の影響を与え,知覚された一貫性はモバイルアプリの利便性と利用容易性に正の影響を与えることが明らかになった。さらにこれらのOCI構成概念はモバイルアプリの利用容易性を媒介とした利便性への正の間接効果とともに,モバイルアプリの利便性を媒介としたブランド推奨意向への正の間接効果を持つことが明らかとなった。
著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.75-83, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
45

本稿の目的は,消費者視点からのオムニチャネル買物価値(Omni-Channel Shopping Value)(Huré, Picot-Coupey, & Ackermann, 2017)の理解に求められる視座を提供することにある。小売業におけるテクノロジー活用の進展により,オムニチャネル・リテイリング(Brynjolfsson, Hu, & Rahman, 2013)の実現が進んでいる。この流れを受け小売業におけるオムニチャネル戦略の研究が企業の視点から展開されているが,これらの買物体験を消費者の視点から検討する先行研究は少ない。本稿では,オムニチャネル・ショッパー研究の現状を示した上で,その消費者行動の理解に寄与すると考えられる3つの研究領域についてレビューする。具体的には,技術受容モデルに基づくモバイルアプリ受容行動研究とショールーミング・ウェブルーミング行動研究,店頭受け取りサービス(Buy Online, Pick-Up In Store)研究の3つである。最後に,オムニチャネル買物価値の理解に求められる今後の研究課題を提示する。
著者
太宰 潮 奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.101-110, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
11

本論は登山という趣味の分野で急伸している福岡のベンチャー会社,(株)ヤマップと,そのメインツールであるスマートフォンアプリ「YAMAP」について,特に社会的意義と顧客経験に焦点を当てながら取り上げたものである。まずは同社の成長の軌跡を紹介し,山を安全に楽しむこと,地域社会に貢献するといった社会性を有した事業活動やサービスについて紹介し,顧客経験の創出や改善,顧客対応もその理念に沿って実行されていることを説明する。そしてインプリケーションとしては実務的枠組み,顧客経験の枠組み,パーパスという3つの視点から同社の成長の理由を考察した。
著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.120-137, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

近年ドラッグストアの市場拡大が顕著である。活発なM&A(企業の合併・買収),食品の取り扱いに見られる品揃えの強化,調剤薬局市場の取り込み,PB商品開発,ロイヤルティプログラムの充実,消費者のワンストップショッピングニーズへの迅速な対応で,高齢者や幅広い女性顧客層を他業界から取り込んでいる。そのような中,自社のリブランディングとリージョナルマーケティング,積極的なインバウンドニーズの取り込み,AI, IT活用によって独自の顧客基盤運営と新規事業開発で全国から注目を集める北海道を基盤とするドラッグストア(株)サッポロドラッグストアー(以下,サツドラ)の取材を行った。本ケーススタディにより小売業における新しいビジネスモデル構築とマーケティング戦略において以下5点の示唆が見出された。1)地域循環型顧客関係管理プラットフォーム構築の重要性,2)地域小売業がリージョナルマーケティングにおいて果たすべき役割,3)販売チャネル「場」の新しい価値創造,4)Customer Engagement構築の重要性,5)地域コミュニティ・マーケットにおけるCollaborative Consumption(共創消費)構築の可能性