著者
宇都 義浩
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究目的は,従来のニトロイミダゾール型低酸素細胞放射線増感剤にp53を"一過的かつ可逆的"に阻害する機能を付加することにより低酸素腫瘍細胞の放射線感受性を高めつつ,腫瘍組織周辺に存在する正常細胞の細胞死(副作用)を低減するバイファンクショナル低酸素細胞放射線増感剤の開発である.本年度は,TX-2004,TX-2071及びTX-2072を用いて,野生型p53を組み込んだH1299/wtp53細胞と変異型p53を組み込んだH1299/mp53細胞に対する温熱死の防護効果を調べた.コントロール化合物としてpifithrin-αおよびpifithrin-βを用いた.その結果,H1299/wtp53細胞において,TX-2004はpifithrin-αおよびpifithrin-βと同等のp53依存的細胞死の防護が見られた.しかしながら,H1299/mp53細胞においても細胞死が見られたことから,p53特異的な作用機構であるとは決定できなかった.次に,更なる構造活性相関としてTX-2004のメチレンリンカーの長さを変化させたTX-2088(メチレン鎖=3)及びTX-2112(メチレン鎖=4)を合成し,同様にp53依存的細胞死の防護を調べた.その結果,H1299/wtp53細胞の温熱処理による細胞死に対して,TX-2088はTX-2004よりも高い防護効果を示した.よって,標的部位は不明であるが,イミノチアゾール骨格と2-ニトロイミダゾール骨格の間の距離にはある程度の自由度があり,メチレン鎖が3つのTX-2088の方がより空間的相互作用が有利に働くと考えられる.これらの結果は本研究にて初めて得られたものであり,本研究目的である「p53の阻害を介して正常細胞へのダメージを軽減する低酸素細胞放射線増感剤の開発」に対して極めて重要な知見であることが示唆された.
著者
堀 均 永沢 秀子 宇都 義浩
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究は,ドラッグをデンドリマーの手法を用いて球の表面に一定方向で固定したナノアセンブリー分子を設計・合成し,そのドラッグが本来持つ生物活性がどのように変化するか,キラリティーを超えるドラッグを作り出すことができるか,の2点を明らかにすることを目的とする.この目的を達成するためのリード化合物としてブレフェルジンA,スワインソニン,免疫抑制剤FTY720を選択した.本年度(最終年度)は,前年度までに分子設計・合成した種々のナノアセンブリー分子の鶏胚漿尿膜(CAM)法による血管新生阻害活性について評価した.免疫抑制剤FTY720は,冬虫夏草から単離された免疫抑制作用を示すISP-1(myriocin)の化学修飾によって不斉炭素を除去した,つまりキラリティーをなくした合成化合物であり本研究の目標に適したリード化合物である.FTY720のアルキル側鎖をアセチレンに置換したTX-2148(モノイン),TX-2152(ジイン),TX-2256(トリイン)の血管新生阻害活性はそれぞれ42%,90%,60%(10μg/CAM)であり,TX-2152はFTY720(77%)と同等以上の阻害活性を示した.この結果より,FTY720のオクチル基に対するバイオアイソスターとして疎水性及び分子サイズの大きく異なるジイン(もしくはトリイン)構造が示された.その理由として,剛直なポリイン構造によって分子の自由度が制限されるとともに,標的分子との相互作用の際の方向性が規定されたためではないかと考えられる.以上より,一定方向で固定したナノアセンブリー分子の生物活性がプラスに変化する事例を見出すことに成功したといえる.
著者
島村 義樹 玉谷 大 水木 佑輔 國安 翔太 遠藤 良夫 大久保 敬 中西 郁夫 久保 健太郎 口池 大輔 乾 利夫 宇都 義浩
巻号頁・発行日
2015-03-27 (Released:2015-03-19)

【目的】ポルフィリン化合物は励起光によって細胞障害性の高い一重項酸素を発生するため光線力学療法(PDT)の増感剤として用いられている。一方、超音波力学療法(SDT)の増感剤としての有効性も報告されているが詳細な作用機序は不明である。そこで本研究では、ポルフィリンおよびクロリン誘導体の超音波増感活性とその作用機序について検討した。【方法】超音波増感活性は、96ウェルプレートにマウス乳腺がん由来EMT6/KU細胞もしくは4T1細胞を播種し、分子設計・合成したポルフィリンもしくはクロリン誘導体を添加後、Sonitron GTS (ネッパジーン社)もしくはUST-770 (伊藤超短波社)を用いて液面から超音波を照射し、WSTアッセイにより評価した。OHラジカルはAPF法により、一重項酸素は1,3-diphenylisobenzofuran (DPBF)および近赤外分光測光装置(浜松ホトニクス社)により評価した。ミトコンドリア膜電位の解析は蛍光標識薬JC-1を用いたタイムラプス測定(ニコン社)により行った。【結果および考察】5-アミノレブリン酸(5-ALA)由来PpIXおよびTinChlorin e6は超音波との併用において有意な抗腫瘍活性の増強を示した。PpIXと超音波の併用において、DPBF法および発光スペクトル法でも有意な変化は観測されず、この抗腫瘍活性に対する一重項酸素の関与は小さいことが示唆された。また、超音波照射によってOHラジカル由来のAPF蛍光の増加が観測されたが、PpIXを併用しても有意な増加は認められず、OHラジカルも超音波増感活性の要因ではないことが示唆された。一方、5-ALAと超音波の併用によりJC-1由来の緑色蛍光が増加したことから、ミトコンドリアが標的分子の1つでることが示唆された。 日本薬学会第135年会