著者
宇野 文重
出版者
学校法人 尚絅学園 尚絅大学研究紀要編集部会
雑誌
尚絅大学研究紀要 A.人文・社会科学編 (ISSN:21875235)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.95-108, 2018 (Released:2018-07-11)

本稿では, 明治前期下級審における女性の「雇人」に関する判決44件を素材に, 明治初期の「雇用契約」に対する司法判断について以下のように分析した。訴訟の多くが, 勤務先から逃げ出した被用者の女性に対して使用者側から身柄の取り戻しを求めるものであるが, 裁判所は「人身ノ自由」を奪うことは許されないとして強制的に取り戻すことはできないとし た。女性たちの父や夫の締結した契約は無効とされたが, 債権者に対して金銭賠償の責任は負うとする法理が明治前期下級審ですでに形成されつつあった。
著者
宇野 文重
出版者
尚絅大学
雑誌
尚絅大学研究紀要. A, 人文・社会科学編 (ISSN:21875235)
巻号頁・発行日
no.46, pp.133-151, 2014-03-31

本稿では,明治10(1880)年代の小学校教員が起こした雇用契約に基づく給与支払い請求訴訟を素材に,小学校制度と「村/むら」の関係を教育史的観点も交えつつ分析する。 行政単位としての「村」と旧来の農村共同体(集落)としての「むら」とは必ずしも一致せず,近代的学校制度の導入には困難が伴った。村の指導者層は,幕藩期以来の「むら」の旧慣に依存しつつ,「村」の就学率を上げるために形式的に「村」の小学校を設定するほかなかった。くわえて,教員の雇用契約上の地位に対する認識は曖昧で,教員と「村」との紛争を惹起した。
著者
宇野 文重
出版者
尚絅大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、明治前期の下級審における雇用契約訴訟を素材に、幕藩期には「家」の<主人‐奉公人>として身分的要素が濃厚であった雇用契約関係が、西洋近代法の継受によって受けた影響を検討したものである。具体的には、幕藩期には制禁であった被用者から雇主に対する給金支払請求訴訟と、雇主への従属性が最も強い弟子奉公契約を分析し、契約当事者の意思や「人身ノ自由」を重視する点に西洋法の影響を看取できるとともに、身元保証人の責任や共同体の法意識には幕藩期からの連続性が確認できた。また、明治民法では「家」から排除された奉公人を、「世帯」概念を媒介にして「家」成員に含める学説が1920年代に登場したことを指摘した。