- 著者
-
安原 主馬
- 出版者
- 公益社団法人 日本油化学会
- 雑誌
- オレオサイエンス (ISSN:13458949)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.6, pp.275-282, 2020 (Released:2020-06-10)
- 参考文献数
- 29
細胞膜は,細胞質を外界から区画化するための隔壁としてのみならず,シグナル伝達,物質輸送,エネルギー生産といったさまざまな生命機能によって不可欠な界面である。これら細胞膜の重要な機能は,脂質二分子膜と膜タンパク質の機能的連携によって実現しており,膜を標的とする新規な生物活性剤を開発する際には,膜中での分子間相互作用を理解し,制御するアプローチが不可欠である。膜タンパク質や膜に結合する機能性ペプチドは,分子内で緻密に配列された親水性および疎水性アミノ酸残基に由来する両親媒性構造を持っている。バイオミメティクスの概念に基づき,天然に存在する膜タンパク質の機能や構造上の特徴を人工の分子骨格によって模倣することができれば,細胞膜に作用することで機能を発現する全く新しい生体材料が設計できると期待される。本総説では,膜に作用することで機能を誘導する両親媒性ポリマーを設計するアプローチについて,模倣対象となる天然のタンパク質またはペプチドとの比較とともに概説する。具体的には,天然の抗菌ペプチドを模倣することによって設計された,耐性の獲得および宿主細胞への毒性のリスクが低く,高い抗菌活性を実現する膜活性抗菌ポリマー及び,アポリポタンパク質を模倣して開発した脂質ナノディスク形成ポリマーの設計指針とその応用例を紹介する。