著者
安田 尚道
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.1-15, 2008-10-01

本居宣長『古事記伝』の「仮字(カナ)の事」は万葉仮名の二類の書き分けを初めて指摘したものであるが、橋本進吉はこれをあまり高く評価せず、"本居宣長が見付けたのは、特定少数の語についての仮名のきまりであって、コ音・メ音等の仮名全体に通じてのきまりではない。十数個の仮名に二類の別があるのを発見したのは石塚龍麿である。"とする。しかし、『古事記伝』の「仮字の事」を詳しく検討することにより、宣長が、キヒビミケメコソトモヨ等について二類の区別があったことを発見していたこと、さらに、二類の仮名を配列するにあたって中国漢字音(中古音)を念頭に置いていたらしいこともわかる。
著者
安田 尚道
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.1-14, 2003-04-01

万葉仮名の二類の書き分け(上代特殊仮名遣)の存在と,それが音韻の区別に基づくことは,本居宣長・石塚龍麿などがすでに述べていることで,"橋本進吉がのちに宣長・龍麿とは無関係に独立して発見した"との説は認めがたい。橋本がはじめ,"ヌに二類あり,『古事記』ではチにも二類あり"としたのは,龍麿の『仮字遣奥山路』に基づくものである。宣長・龍麿が認めた『古事記』のモの二類の区別を橋本がのちに否定したためこの区別の再確認を行なった池上禎造・有坂秀世は,その過程で『韻鏡』の利用や「音節結合の法則」などから,上代特殊仮名遣が音韻の区別に基づくことを明確にしたのであった。