著者
安部 国雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.393-422, 1979 (Released:2008-02-26)
参考文献数
25

1972年から1977年に10回にわたって琉球12地域,南九州4地域の住民を調査して1795名(男920,女875)の形質人類学的資料を得た。その資料から主な観察項目を南の波照間から北の椎葉に至るまで,ほゞ地理的配列に従って整理して表(図)示すると共に,著者らによって得られた韓国人やアイヌの結果と比較して,琉球人の観察的形質の特徴の把握に便ならしめた。またこれら地域住民の先人の業績をまとめて参考に供した。なお計測項目については他にまとめて(安部ら,1979)発表した。本篇で特記すべきは琉球人の上眼瞼のヒダの性状である。即ちこのヒダが内眼角に附着しないもの(ヒダの認められないものも含めるがその頻度は稀)が,他地域の日本人のそれよりも,琉球人においてはかなり高い頻度で認められ,しかもこの頻度は北から南にゆくに従って次第に高くなってゆく(cline)。琉球人のこのヒダの特徴は,台湾の原住民に連続し(未発表),そしてそのルーツは南東アジアの原住民の「マレー目」に帰着するものと推測している。
著者
安部 国雄
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.37-52, 1982

インド中央州バスタール地方の原住民ムリア,アブジュマリア,バイソン&bull;ホーン&bull;マリアの3部族(ゴンド語族)と,アンドラ州ハイデラバードとビサカパトナム2地域住民(テルグ語族)の生体計測的形質を比較検討して次の結果を得た。<br>(i)バスタール3部族相互の間の諸形質は互によく類似している。(ii)2地域のテルグ語族相互の諸形質の間に地域差は認められない。(iii)これらゴンド語族の測度の大部分はテルグよりも小さく,より長い頭型とより広い顔型に傾むくが,前者の鼻幅が大きく,従って鼻示数の著しく大きいことが両者の形質の間で最大の差異である。<br>しかし両語族の形質のこれらの差異は,両語族の人種的差異を示すほどのものではなくて,中央インドのドラビダ系言語族或いは同一人種系統での変囲内に止まるものであると考える。
著者
安部 国雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.25-37, 1983

スリランカのシンハリーズ(3地域),タミール(2地域),ベッダ(2地域)とキンナラ族の計測値8項目とその示数4項目を比較して,シンハリーズ•タミール•ベッダの形質の人種的特徴を示すとともに,同一人種内での形質の変異についても検討して次の結果をえた。<br>i)高地高湿地帯のシンハリーズ,セイロン=タミール,森林ベッダの3群が最もよく人種的な特徴を示す。<br>ii)低地乾燥地帯のシンハリーズとインディアン=タミールは農村ベッダの形質に近似する。<br>iii)高地高湿と低地高湿地帯のシンハリーズの形質は互によく類似する。<br>iv)スリランカのドラビダ語族(セイロン=タミールとインディアン=タミール)の形質の間には人種的な差異が認あられる。セイロン=タミールの形質は南インドのニルギリスのトーダ族(インド•アフガン人種)に,インディアン=タミールはマドラスのタミール(メラノ•インド人種)の形質に類似する.
著者
安部 国雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.71-84, 1981
被引用文献数
1

著者は1978年12月と1980年1.月に南インドのNilgirisに住む諸部族の調査を行なってToda-男31女42,Kota-男55女35,Kurumba-男38女42,Irula-男48女70の合計361人の形質人類学的資料を得た。その結果から各部族の生体計測学的特徴を明らかにすると共に,各部族間の形質の比較検討を行なった。Todaの形質は南インドに古くから住むKurumbaやIrulaとはかなり異なっており,IrulaはTodaと最も対照的な形質を有する。Kurumbaの計測値や示数はIrulaと非常に近似しており,この2部族は同一の種族に属すると考えられる。Kotaの主な計測値や示数はTodaと他の2部族の中間にあって,このことからKotaは嘗てTodaの1支族がKurumba或はIrulaと混血した部族であると考えられる。